英マンチェスターのコンサート会場で起きたテロ事件で、犯行声明を出したイスラム国(IS)について、人気歌手のコンサートを聴きに来た少女や子供たちを標的にすることで人々を激怒させ、イスラム教徒一般への敵対心をあおって分断を生み出す狙いがあるとの専門家の見方を、AFP通信等のメディアが伝えた。
爆発は22日、米国のシンガーソングライター、アリアナ・グランデのコンサートが終了した直後のマンチェスター・アリーナのロビーで発生し、ISはソーシャルメディアを通じて、ISの兵士が爆破を実行した旨の犯行声明を出した。警察は容疑者を特定し、リビアからの移民であった両親のもと、英国で生まれた22歳のサルマン・アベディ容疑者の自爆テロとの見方を示している。英国はさらなる危険が迫っているとして、テロ警戒レベルを”severe”から最高度の”critical”に引き上げた。
アリアナ・グランデは、ニカロデオンという子供向けチャンネル等に出演していたが、現在23歳で米国のトップ・ポップス・スターである。子供時代から親しみを抱いていた10代前後の少女たちの間で、自分たちとともに大人の女性へと変身していったカルチャーアイドルとして熱烈な人気がある。
コンサートには、グランデがライブでするのと同じような猫耳をつけた多くの少女たちが来ていた。若い彼女たちにとっては、このコンサートは自分たちに力を持たせてくれるものとして大きな意味を持っていたが、彼女ら大勢の若者や子供たちがテロの犠牲となってしまった。英国メディアは、死者22人には8歳の女の子も含まれており、また負傷者59人のうち12人が16歳以下であったと伝え、衝撃が広がっている。メイ英首相は5月23日の記者会見で「無邪気な子どもたちを意図的に標的にしたものだ」と強調した。
AFP通信は、2人の専門家の見解を伝えた。ロンドンで2005年に起きた同時爆破事件の捜査を担当した元ロンドン警視庁刑事のデービッド・バイドセット氏は、今回の事件では標的が考え抜かれた上で選ばれたとの見解を示し、「一般の人々の怒りが他のイスラム教徒にも向けられるよう、考え抜かれた策略だ。そうすれば、メンバー勧誘活動の一助となる」と語った。またフランスの情報機関、対外治安総局(DGSE)の元職員、イブ・トロティニョン氏は、2016年にニース近郊などで起きたトラックによる襲撃事件と、攻撃対象の点で類似点があると指摘し、「衝撃的だったのは、攻撃された標的だ。治安当局は通常、一般の人々が耐えられないと感じる標的への攻撃を恐れている」と分析した。
犯行声明を出したISは、これまでマンチェスター・アリーナを「恥知らずのコンサート・アリーナ」と決めつけただけで、決して若い女性などを狙ったとは言っていない。またアベディ容疑者も、今回のアリーナをなぜ選んだのか、その理由については特に語っていない。ロンドンが拠点のあるシンクタンクは、「イスラム過激派の世界観に深く根付いた女性嫌い」の思想を挙げている。そうした考え方は、西洋社会を反道徳的、退廃的と非難する際の出発点として使われるそうだ。
今回の事件そのものの動機が未だ明らかになっておらず、今後の調査が待たれる。2015年11月のパリでのコンサート会場やカフェでの連続テロ、昨年のニースでの花火の際のトラック襲撃事件とベルリンのクリスマスマーケットのテロ等、ISが欧州のソフトターゲットを狙った幾つかの事件の動機にも通じる問題だ。
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