韓国の文在寅新大統領は5月10日の夜、約30分間トランプ米大統領と電話会談し、北朝鮮の核問題などの解決に向けて、緊密に協力していくことで一致した。大統領就任後、外国首脳との電話会談は初めてである。
米韓両国の発表によると、トランプ大統領は電話で「韓国人の選択に敬意を表する。」と文大統領に当選の祝意を表した上で、文大統領をホワイトハウスに招待し、早期の訪問を求めた。また「北朝鮮問題は難しい問題であるが、解決可能である。」と述べた。両国首脳は緊密に協力して対処すること、今後同盟関係を強化していくことで一致した。
同日文新大統領は、就任後初めて青瓦台で演説し、北朝鮮の核開発計画は難しい問題だが、すぐに米国や中国と取り組み、半島の緊張緩和に取り組みたいと述べた。また韓国に配備されつつある米国の防衛システム(THAAD)について、米中両国と交渉していくと語っている。
北朝鮮は6回目の核実験を準備しており、核弾頭を搭載した米国まで到達可能なミサイルを開発中と言われている。これはトランプ大統領にとっては、安全保障上の焦眉の課題となっている。米国は中国に北朝鮮に対し圧力をかけるよう強く求めているが、一方で非公式の米国交渉団が8日~9日に、北朝鮮との非公式会談をノルウェーのオスロで行うなど、並行して対話による解決を図る動きもある。
こうして北朝鮮を孤立させ、制裁を与えるために圧力を増加させようとしている米国に対し、文大統領の融和策がこれに逆行するのではないかと、米当局は懸念を抱いている。一旦大統領に就任した後はスタンスを軟化させ、同盟への影響は限定されると考える向きもあるが、トランプ政権は、文氏が韓国への米国ミサイル配備について疑問視していることに困惑しており、今後若干の摩擦もあり得ると見ている。
文新大統領は、早速閣僚人事に入り、重要メンバーとして2000年代に北朝鮮に対する融和策、「太陽政策」を推進した、2人のリベラルな政治家を任命した。先ず首相には、全羅南道知事の李洛淵氏を指名したが、南北首脳会談を実現させ、知日派として知られている。但し、李氏の就任には議会の承認が必要である。また情報機関である国家情報院(NIS)のトップには、北朝鮮情勢の専門家であるSuh Hoon氏が指名された。同氏はNISに28年勤務し、同じく南北首脳会談の計画や交渉に関わったという。
文大統領は速やかに閣僚人事を終え、朴槿恵大統領の政治スキャンダル以降混乱した韓国の社会や経済を立ち直らせることが期待されている。特に経済面では、韓国の政界と財閥の癒着について触れ、この談合関係を何とか断ち切りたいと述べた。
大統領は、「安全保障の問題には速やかに取り組む。必要であれば直ぐにワシントンに行く。北京や東京にも行き、条件が整えば平壌にも行く。」と演説で述べた。就任の宣誓前には議会で野党の党首達と会い、国家の安全保障については協力して進めていくと約束した。議会では文大統領のグループは過半数を構成していない。
北朝鮮は革新派である文氏の大統領就任を歓迎しているものと見られるが、水曜日には国営メディアは何もコメントしなかった。中国の習近平国家主席と日本の安倍晋三首相はともに水曜日、文氏に対し祝意を表した。習主席は、「相互の信頼と理解を基盤として、韓国との懸案に適切に対処したい。」と述べ、安倍首相は「韓国は日本の重要な隣国の1つ」と表現し、「ともに関係改善に取り組んでいきたい。」と述べた。
韓国の大統領府は、文大統領とトランプ大統領の電話会談で、韓国前政権が配備に同意して中国を怒らせたTHAADについて議論したかどうかについては触れなかった。中国はTHAADが同国の安全保障上の脅威であると表現し、韓国企業数社への報復対応を行っているが、こうした中国の懸念も考慮して、適切にTHAAD問題に対処するよう求めている。
文大統領は、これまで配備を急ぎ過ぎた、自分の政権が最終判断をして回答すべきと言っているが、一旦配備されたTHAADを取り除くのは難しいと見られている。またトランプ大統領はこれまでTHAAD配備の費用を韓国に負担させるとも言っており、簡単な決着は難しそうだ。
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