ドナルド・トランプ大統領は突然、重要事項についての彼のスタンスを逆転し始めた。いつもの怒鳴り散らすような態度ではあるが、驚くほど率直にその理由を述べる。現在本当に学習しつつあるのだと。
中国の習近平主席との会談で、北朝鮮が核開発をやめるよう、中国に圧力をかけて欲しい、と述べた後、「10分話を聞いて、それほど簡単ではないことが分かった。彼らに相当のパワーがあると強く感じていたが、そうではなかった。」とウォール・ストリート・ジャーナル誌のインタビューで、語っている。
それは、極端な大統領を変容させたと感じる、最近の発言の内のほんの一例だ。大統領就任100日が近づいているが、選挙運動中に声を張り上げて主張していた問題について、熟慮を重ねていなかったものがあることを認め、自身の「柔軟性」を受け入れているようである。
過去48時間の間に、ワシントンをひっくり返すと誓っていたこの部外政治家は、
~中国に為替操作者とのレッテルを貼る宣言を取り消した。
~シリアでの衝突への不干渉を見直し、ミサイル攻撃を命じた。
~プーチン大統領への好感を捨て、米ロ関係を「過去最悪かも知れない」と宣言した。
~NATOは時代遅れという従来の主張を撤回した。
~米国輸出入銀行の維持が有効と判断した。
輸出入銀行については、かつて酷評していたが、今では米国の輸出を支援しているとして、評価している。周囲の人間は単に仕事の中で成長した、学んだことを活かしただけだとしているが、ホワイトハウスは、変容について説明に苦慮するものもあると言っている。水曜日にこうした変更された政策が増えていくことについて問われたスパイサー報道官は、NATOは実際、よりテロリズム対策に注力したり、防衛費の増額について参加各国を促したりするなど、「大統領の立場に沿う形で進化している。」と言っている。
トランプ大統領は、選挙後数か月は選挙中と同様のモードであったが、現在は別のアドバイザーの意見に耳を傾けているように見える。穏健派の声が強まる一方で、かつての選挙参謀であった、スティーブ・バノン氏は少々主流派から排斥された。
さらに大統領は、独断的ではなく実践的なアプローチへ転換するのがベストの戦術と認識し、低い支持率を単に改善する方法を求めているのかも知れない。
「候補者は選挙期間中には常に大言壮語を吐く、特にトランプ氏はそうだ。しかし就任すれば成長し、政策の中には現実的な効果を狙ったものも出てくる。」トランプ大統領の経済計画の策定を援助した、保守的経済学者のスティーブン・ムーア氏は言った。一方で、「もし公約を単に放棄することを始めたとすれば、政治的な代償を伴うだろう。」と警告している。
多くの場合、トランプ氏の選挙演説は殆ど本能的に生まれたものだ。政策の深堀は滅多にしない候補者として知られ、彼の意見を伝えるための僅かの政策専門家しか起用しなかった。長い間自分の柔軟性に自信を持っており、自分の立場を交渉の出発点と表現していた。もっとも彼の中核の見解の多くは、米国の貿易不均衡への失望感など、長年変わってはいない。
例えばトランプ大統領は、中国に為替操作をしているというレッテルを貼りたかった。「彼らは為替操作をしていない。」大統領はウォール・ストリート・ジャーナル誌のインタビューで認め、中国にそのようなレッテルを公式に貼ることにより、北朝鮮に対抗するための中国との協議を危険にさらすことになる、と語った。
トランプ大統領の進化はまた、ホワイトハウス内の権力関係の変化にも表れている。大統領の経済主幹であり、ゴールドマン・サックスの元社長であるゲーリー・コーン氏や、他のより穏健なビジネスリーダーの地位の向上などがその例である。コーン氏は、トランプ大統領の選挙公約を、大統領が描いたとおりにではなく、現実的かつ達成可能なものとして実行する方法を模索している。
議会や裁判所に阻まれた渡航禁止令や、オバマケアの否認等、多くの政策が最初の数か月に難しい局面に置かれた後、約束した勝利を望む大統領にとって、そうした現実的な転換は望ましいことだ。
トランプ大統領はまた、外部のビジネスリーダーからの指導にも頼るようになった。これには自分が長年知っている多くのリーダーも含まれており、インフラについてのアドバイザーである、富豪の不動産実業家のリチャード・ルフラーク氏やスティーブン・ロス氏、法制や税制の変更を検討する2つの大きなビジネス・パネルを構築する手助けをしたブラックストーン・グループの会長兼CEOである、富豪の投資家スティーブン・シュバーツマン氏等がいる。
トランプ大統領のシリア空爆の決断もまた賞賛されているが、選挙運動中には中東の対立からは距離を置くことを公約としていた。彼の保守層の支持基盤はこの動きに怒りを表しているが、シリアの化学兵器による攻撃の後の空爆はケーブルテレビなどで喝采を受けている。
さらにそれは米国大統領選へのロシアの介入、そしてトランプ氏の同国との協力関係と言った話題をどこかに押しやってしまった。
変わらないものもある。ジョージア州の下院議員候補でトランプ陣営の選挙応援者であったブルース・ルヴェール氏は、今週数回大統領に会っているが、こう言った。「彼のツィッターがなくなって欲しくない。支持者とのパイプであり、彼にはまだそれがある。」
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