ドナルド・トランプ大統領のシリア空爆の合法性は疑わしい。偽善的、衝動的であった。政治的な動機によるものであったかも知れない。米国にとって新しいリスクを生んだ。でも全体としては正しい。
4月11日付
『The Register-Guard』(
『New York Times』引用):
トランプ大統領の政策や能力については、深い疑念があるが、今回の件については正しく、バラク・オバマ前大統領は誤っていた。オバマ氏の最悪の外交政策の失態は、シリアにおける彼の消極性にあった。
トランプ大統領の問題の一つは、彼が多くの嘘を頻繁についた結果、海外でのこのような危機に際して国内外で信用がないことだ。シリアでガス攻撃により死亡した子供の写真を見た後に180度政策を転換し、衝動的に正しい決断に至ったとは信じがたい。戦争についての大統領の決定は本当に写真によるものなのだろうか? トランプ大統領の決定の動機や戦略実行の能力については全く信じていないが、以下の理由から、正しかったと信じている。
第一次世界大戦の間のマスタードガスの恐怖から、比較的成功例とも言える国際的規範の1つが化学兵器の使用をタブー化していることだ。その規範の強化が注目されており、これはシリアに関してだけでなく、サリンを信奉する次の独裁者を封じることに通じる。
能力以上のことをする軍隊にとっては、毒ガスは他国を脅かし征服するのに便利な手段である。それゆえサダム・フセインは1988年にクルド人に対しガスを使った。同様にバッシャール・アサド大統領もシリアの自国民に対し、ガスを使った。世界がこれを封じる最善の方法は、空軍基地への軍事攻撃等により、化学兵器の使用が特別な代償を伴うものであることを示すことである。
逆説的だがアサド大統領はトランプ政権からのゴーサインを認識したからこそ、化学兵器を使ったのかも知れない。最近ではティラーソン国務長官、スパイサー大統領報道官、ヘイリー国連大使らは皆、米国はもはやアサド政権の打倒までは考えていないとしていたようだが、それが化学兵器の使用を促してしまったのかも知れない。その誤りにより、トランプ大統領にとっては、アサド大統領も他の主導者も大量破壊兵器の使用は許されるものではない、と示すことがさらに重要となった。
シリアの子供にとって、その死が樽爆弾によるものであろうと、迫撃砲、弾丸、神経ガスによるものであろうと関係ない。トランプ大統領にはまた、シリア人の大量殺戮をやめさせることにもっと関心を寄せてもらいたいが、反化学兵器の規範を守ることはさらに重要である(米国はサダム・フセインのガス攻撃の後、責められるべきはイランと誤って示唆することにより、規範の価値を落としている)。
トランプ大統領の空爆には明確な法的裏付けがないと批評する向きもある。そのとおりであり、オバマ氏が踏み切らなかった1つの理由でもある。しかしビル・クリントン大統領の1999年のコソボ地区への大量虐殺防止の介入も、法的根拠は不明であったが結果的には正しかった。クリントン氏は自らの最大の外交政策上の失敗は、1994年の大量虐殺の際にルワンダに介入しなかったことであると言っている。いかなるそうした介入も法的根拠は不明確であるが、正しいことである。
ロシアやシリアが米空軍を標的にしたり、イランがイラクの米人に復讐したりするリスクがある。しかしながら我々がアサド政権を軍事的に倒すことを求めない限り、戦争の拡大は避けたいと思うだろう。
トランプ大統領の偽善的行為に着目し、自分が指導者であることを誇示し、政治の問題から目をそらすという政治的理由からミサイルを発射したのではないか、と懸念を示す論評があることも理解できる。確かに以前のトランプ大統領は、今自分がしていることとは反対のことを言っていた。
2013年にオバマ大統領を指して、彼はこうツイートした。「大統領はシリア攻撃の前に議会の承認を得なければならない。」そしてトランプ大統領がシリアの「可愛い小さな赤子たち」の苦しみについて語るとき、彼の入国禁止令により、そうした同じ子供たちを悪く言い、締め出していることをいかに正当化するのか、疑問が呈されるだろう。しかしながら、トランプ大統領は首尾一貫して間違いを犯すよりは、論理が一貫せずとも正しいことをする方が良い。
私の多くの仲間の進歩主義者は、いかなる軍事力の使用にも本能的に反対するが、それは間違いであると思う。私はイラク戦争には反対だが、軍事介入の中には命を救ったものもあった。1990年代の北部イラクには飛行禁止区域がなかったことが一つの例であり、シエラレオネでのイギリスの介入や、マリでのフランスの介入も同様である。軍事介入には懐疑的である方が、分別があると言えるが、いかなる軍事力の使用も一律否定するのは、賢明なことではない。
中東で軍事介入が有効であった例としては、2014年にオバマ大統領が、少数派のヤズィーディー教徒を攻撃しているとして、IS(イスラム国)に対し、シリアとイラク国境付近で空爆を行った事例がある。その米国の空爆は、多くのヤズィーディー教徒の命を救った。より早く介入していれば、殺されたり、性奴隷として誘拐されたりした、さらに数千人の人々をも救えたはずである。
政治家の間では、今後シリアからアサド大統領を追放する話も出ている。政権を取って6年になるアサド氏の失権が期待されているが、今回の空爆が一時的なものであれば、さらなる大量虐殺がシリアで行われると考えられているからである。しかしながら私は現政権が停戦に向けた圧力をかける一手段に止めることを望んでいる。
ジョン・ケリー前国務長官は、シリアの平和解決に勇敢に取り組んだが、アメもムチも持っていなかった。オバマ前大統領に軍事的攻撃という力を嘆願したが、大統領から拒絶された。現在国務省はそうした力を持っていると言えるが、残念ながら影響力を行使し、そうした力を梃子にして平和交渉を推し進めていく気のある国務長官を欠いているようである。
シリアにおける私の提案は、ヒラリー・クリントン氏他の多くの人が提唱したのと同じものであり、アサド大統領の小規模な空軍をたたくためにミサイル攻撃を行うことである。これにより樽爆弾を終わらせ、アサド大統領に自分には軍事的解決を図ることはできず、交渉すべき時が来たことを悟らせる。最も妥当な結論は、長期の停戦と事実上のシリアの分割であり、アサド大統領がいなくなるまで再統一を先送りすることである。
たとえ軍事的攻撃を梃子にして平和交渉へ持ち込めなくても、アサド大統領が自国の人々を殺傷するのに使っている空軍部隊の力を削ぐことにより、なお攻撃の意味はある。シリアは歴史ある壮観な国であり、通常は温かく親切な人たちが住んでいる。しかしながらオバマ前大統領が良かれと思って行った警告が、シリアの下方へのスパイラルを招き、全世界中のスンニー派とシーア派の分裂を悪化させた野蛮さと苦しみの象徴へと変化させてしまった。
積極的な策が何も取れなかったので、結果として30万人以上の人々が殺され、多くの人々が拷問を受けたりレイプされたりした。およそ500万人の難民がシリアを逃れたことにより、他の国を不安定にさせた。ISは世界中でテロリズムの種をまき、シリアとイラクのヤズィーディー教徒やキリスト教徒の地域社会に対する大量虐殺が展開された。
今後のリスクについての全ての正当な懸念に対しては、私たちはシリアでの流血の惨事を抑制するきっかけとなったと今一度言えるだろう。トランプ大統領が重要な最初の一歩を踏み出し、アサド大統領の化学兵器使用に対する責任を問うたことは良かったと思う。しかしながらそれは、これまでのところ無能の指導者であるトランプ大統領が、戦争を利用して平和の橋渡しをするという、さらに困難な課題をうまく解決できるかどうかにすべてがかかっている。
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