この法律はトランプ米大統領が選出される前の昨年10月成立し、今年末までに施行が予定されていた。この法律ではプロバイダーに対し、個人の正確な位置情報、財務情報、健康情報、子供に関する情報、社会保障番号、ウェブ閲覧履歴、アプリの使用履歴、通信内容を、販売会社、金融会社、および個人データを収集する企業等の第三者と共有する場合、ユーザーの許可を必要とするものだ。更に電子メールアドレスのような機密性の低い情報を第三者と共有する場合、顧客がオプトアウトする機能をつけるように求めていた。この法律が実施されていたらプロバイダーはハッカーや情報を盗もうとする者から顧客データの保護手段を強化する必要があった。さらに、今回の廃止でこの法律の草案を作成した連邦通信委員会は、今後同様の法律を作ることを禁じられることになる。
米連邦通信委員会(FCC)のアジット・パイ委員長は、この法律が施行前に廃止されることで、オンライン業界のレベルアップに役立ち、FCCが連邦取引委員会(FTC)と協力して消費者のオンライン上のプライバシー保護が一貫性のある包括的な枠組みの中で保護されると述べている。しかし、FTCは、ガイドラインに違反するプロバイダーを処罰する権限を持っておらず、それはFCCにプロバイダーへの監督権限を残すためだ。
米民主党は、消費者は従来の電話サービスと同じようにプライバシー保護を受ける権利があり、 インターネットを利用の拡大に応じた新たなプライバシー保護が必要だとしている。これに対しプロバイダー業界はFCCの規則はプライバシーをあまりにも広く定義し過ぎており、ユーザーの閲覧履歴やアプリの利用状況を慎重に保護することを考慮しないFTCの解釈を支持している。またプロバイダーに不当に厳しいガイドラインを遵守させるプライバシー規制はイノベーションを妨げると主張している。
この法律の廃止に反対するグループは、議会が個人の安全と安心よりも議員の選挙キャンペーン資金を提供する企業の要望を重視していると不満を述べ、廃止に賛成した議員のネガティブキャンペーンを開始した。また今回の下院の廃止投票に対し、この問題で注目を集めたり、プライバシー保護の規制がされることを恐れて沈黙を守った主要なIT企業に対し、不満を表明している。検索エンジンや影像ストリーミングサイトでは既に消費者の利用状況データが収集されているが、プロバイダーは顧客が訪れるすべてのサイトを見ることができる点やプロバイダーの選択肢が限られているのを懸念している。
プロバイダーはこれまでウェブへのアクセスが収入源だったが、顧客の膨大な閲覧データをクライアントに提供して収入を増やそうとしている。プロバイダー業界関係者は、プロバイダーがデータ主導型のターゲティング広告を利用できるようになることで、より関連性の高い広告や革新的なビジネスモデルを作ることでき消費者に利益をもたらすことができるとしている。 例えば、AT&Tは、ユーザーにプロバイダー料金の割引を提供するのと引き換えに閲覧履歴をモニターしていたが、今回の廃止決議で今後、閲覧履歴と引き換えに安価なプロバイダーサービスを販売する可能性もある。
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