<働き方改革>
宅配便大手のヤマト運輸が3月16日、宅配便の時間帯指定サービスを見直し、繁忙期には、アマゾンなど大口顧客の荷物の総量を抑制することを決定した。
また、引っ越し会社大手のアート引越センターも3月24日、今春の引っ越しシーズンがピークを迎える3月下旬~4月上旬の受注件数を、前年の8割程度に減らすことを決めた。
いずれも、目先の利益より労働環境の改善を優先する経営方針を打ち出したことになる。
安倍首相は、2016年12月開催の第5回「働き方改革実現会議(注後記)」において、“同一労働同一賃金”を、また、今年2月の第7回同会議において、“長時間労働是正”を力強く宣言し、経済界に対して協力・支援を要望している。
こうした政府側の表立った動きに後押しされたこともあるかも知れないが、上記の企業のみならず、後述する企業を突き動かしたのは、紛れもなく、広告代理店大手の電通における、新入社員の過労自殺、また、度重なる労働基準法違反問題であろう。
<その他大手企業の働き方改革>
●日本電産(精密小型モーター製造大手):今年1月、2020年までに1,000億円を投資して、最新ロボットやスーパーコンピューターを導入することにより、約1万人の国内従業員の残業ゼロを目指すことを決定。
●パナソニック(電機メーカー大手):今年2月、社長名で約10万人の従業員宛に、原則午後8時退社とする旨を通知。社長自らが終業宣言をすることで、長時間労働の是正を推進するとの意図。
すなわち、社会から“ブラック企業”とのレッテルを貼られたら、長期的に企業価値が毀損される恐れがあるだけでなく、まず優秀な社員が集まらなくなるという危機感を抱いたものと思われる。
政府側も3月初め、民間企業の改革着手に呼応するかのように、残業上限を月平均60時間、年間計720時間までとする政府案に沿って意見集約を急ぎ、年内に労働基準法改正案を国会に提出し、早ければ2019年度の施行を目指すとしている。
なお、海外の働き方改革の成功例をみると、長時間労働や無理な就業体制を法律で禁じ、また、厳しい監視も励行している、“モノ作り大国”ドイツが大いに参考になるかも知れない。
すなわち、ドイツにおいては、次の点を法規制し、かつ、違反した企業には厳しい罰則を科すことで、後述するように、経済協力開発機構(OECD)加盟35ヵ国中、最少の年間平均労働時間、及び7位の労働生産性(労働時間当り国内総生産(GDP))を達成している。
●1日10時間を超える労働の禁止:労働条件を監視する役所が、時折抜き打ち検査を行い、違法労働を組織的に行わせている企業に対して、最高1万5,000ユーロ(約180万円)の罰金賦課。
●企業に最低年間24日間の有給休暇、及び6週間の傷病休暇(有給)を社員に与えるよう義務化:実際、大半の企業が年間30日間の有給休暇を与えていて、社員もほぼ100%消化。また、これとは別に傷病休暇も分けて取得(日本のように、傷病休暇を取得する前に、まず有給休暇を充てるという習慣は全くない)。
<2015年年間平均労働時間>(出所:公益財団法人日本生産本部発行「労働生産性の国際比較2016年版」)
(1)ドイツ:1,371時間、(2)オランダ:1,419時間、(3)ノルウェー:1,424時間、(4)デンマーク:1,457時間、(5)フランス:1,487時間、・・、(17)日本:1,719時間、・・、(23)米国:1,790時間、OECD平均:1,766時間
<2015年労働生産性(労働時間当りGDP)>(同上)
(1)ルクセンブルク:95ドル、(2)アイルランド:87.3ドル、(3)ノルウェー:81.3ドル、(4)ベルギー:70.2ドル、(5)米国:68.3ドル、(6)フランス:65.6ドル、(7)ドイツ:65.5ドル、・・、(20)日本:42.1ドル、OECD平均:50.0ドル
また、日本の民間企業及びそこに働く社員の意識改革として、“長時間労働や、有給休暇の最低取得率であることが評価される”悪しき慣習を捨て、ドイツ企業のように、“短い時間内で大きな成果を上げることが最高に評価される”体制に変えていくことが必要なことと思われる。
(注)働き方改革実現会議:2016年8月、
第3次安倍政権改造内閣の発足とともに、
一億総活躍社会実現のために働き方改革担当大臣を設置した上で、同年9月、首相決裁で設置した、安倍首相の私的諮問機関。
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