<高齢者犯罪>
1月20日付
当コラムNo.94「日本の犯罪発生率と世界との比較」の中で、“警察庁発表によると、2016年に警察が把握した刑法犯(窃盗、凶悪犯、詐欺等)は99万6,204件で、戦後初めて100万件を下回った上に、14年連続の減少となった。特に、殺人が896件と戦後最少を2年連続で更新した。これを他国と比較してみると、2014年のデータであるが、人口10万人当りの殺人発生件数についての国連統計では、日本は210ヵ国中207位で、これより少ないのはアイスランド、シンガポール等である”と述べた。
日本は安全の国ということが、犯罪発生率のデータからも立証された訳である。
しかし、誠に残念ながら、高齢者(65歳以上)の犯罪件数・犯罪率ともに、近年異常に増加している。
法務省が発表した2016年版「犯罪白書」によると、少年犯罪や外国人犯罪はピーク時の3分の1にまで減少していたが、高齢者の犯罪は突出して増加していたという。
すなわち、2015年実績だが、1995年と比べると、殺人が約2.5倍、強盗は約8倍、傷害は約9倍という急激な増え方で、特に暴行は約49倍(77件⇒3,808件)にも増えていた。
暴行について言えば、私鉄やJRなど計33社が2016年に発表した、鉄道係員に対する暴力行為についての集計によれば、加害者のうち最も多いのが60代以上で、23.8%だったという。
高齢者の犯罪率増について、精神科医の専門家の分析によると、第一に老化に伴う脳の機能低下、第二に社会的な環境変化に伴う心理的な要因があるという。
第一の点について言えば、脳の中で、感情・理性・意欲・思考を司る“前頭葉”が委縮して機能が低下することによって、感情を制御できなくなったり、判断力が衰えたりすることで、以前温厚な人であっても性格の変化により、迷惑行為、ひいては犯罪行為に走ってしまうと考えられる。
第二の点では、いわゆる団塊の世代(1947~1949年生れ)と言われた人達が、己の感情を抑えて猛烈に働き、会社人間となっていたところ、定年退職を迎えて会社からの束縛・成約がなくなる一方、人との関わりも薄れることで、自己肯定感が低下し、不満・不安が溜まりやすくなり、ちょっとしたことで怒りに転化してしまうと分析されるという。
この傾向は世界的なものか見てみると、日本と同様に、人口の高齢化が進みつつある米国、ドイツ、スウェーデン、韓国などでは、高齢者の犯罪率の上昇はみられない。
日本在住の外国人に限ってのデータを見ても、高齢者になる程、犯罪率が下がる傾向にある。
以上より、日本の高齢者の犯罪率が急上昇しているのは、多分に会社人間だった団塊世代の高齢化が背景にあるのではないかと言わざるを得ない。
団塊世代より若干若いとは言え、高齢者の仲間入りをしている筆者が思うところでは、高齢者に接する人達に、“受容・傾聴・共感”の気持ちを持って接してもらうことで、キレる高齢者が少なくなるのではないかと考える。
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