世界一の富豪であるイーロン・マスク氏(51歳)は、ツイッター社を買収した途端、同社取締役全員を解任しただけでなく、世界中の全従業員の半数を解雇する等何かと物議を醸している。同氏は、電気自動車企業テスラ(2003年デラウェア州で設立、現在の本社はテキサス州)の共同創設者であるが、最高経営責任者(CEO)の立場で、560億ドル(約7兆8,400億円)もの巨額の報酬を得ることになる、自身に有利な包括報酬体系を独断で決めているとして同社株主からを訴えられている。そしてこの程、裁判所の審理において、同氏が毅然として当該報酬体系の正当性をトクトクと訴えた。
11月17日付
『ロイター通信』は、「マスク氏、560億ドルの報酬パッケージの有効性を訴えるに当たって、いくつかのテスラ社方針を取締役会に諮らず決定とトクトクと証言」と題して、テスラ社株主の提訴に対して、自身の包括報酬体系設定の正当性についてトクトクと法廷で訴えたと報じている。
イーロン・マスク氏は11月16日、デラウェア州(注後記)の法廷で、自身に対する出来高560億ドルの包括報酬体系の正当性をトクトクと訴えた。
当該訴訟は、同社株主のリチャード・トーネッタ氏が2018年にマスク氏及び同社取締役を相手取って訴えたもので、原告は、マスク氏が同社に常時出勤することを不要とすることを含めた膨大な包括報酬体系を、同氏が支配する取締役会に一方的に認めさせたことで、同社企業価値を棄損させたと主張している。
マスク氏は、原告代理人のグレッグ・バラーロ弁護士(63歳)が、当該包括報酬体系で条件づけられた達成目標は容易に達成できるものではないかとの問いに対して、真っ向から反論した。
同氏は、“言葉で容易に表せられない程大変なことだ”とした上で、“2017年に破産の瀬戸際に追い込まれたテスラ社を、爆発的に成長させた”と自身の貢献について冷静に訴えた。
これに対して、バラーロ弁護士は、同氏がテスラ社を牛耳っており、他にもいくつかの重要な事項について取締役会に諮らないで独断で決めていると主張した。
しかし、原告側弁論では、誰がマスク氏の包括報酬体系を導入したのかとか、果たして同氏が取締役会に相談もせず独断専行したのかどうかを十分立証することはできていない。
マスク氏はこれまで、弁護士たちを評して“非難に値する”とか“性悪な人間”等と戦闘的な対応をすることで有名だったが、今回の審理では、時折バラーロ弁護士の弁論に不快な表情を見せたものの、総じて抑えた対応をしていた。
同氏は、当該報酬体系で自身がテスラ社に常時出社していることを求められているという原告側主張に対して、“私は常に全力で会社のために働いている”とした上で、“毎日出勤したからと言って目標が達成されるという訳ではない”と反論した。
原告側は、560億ドルもの報酬体系はデラウェア州の経済規模より200億ドル(約2兆8千億円)も上回る程途轍もないもので、2018年決定の当該報酬体系の取り消しを求めると訴えている。
これに対して、マスク氏の弁護団及び同社取締役らは、同社の時価総額を当時の500億ドル(約7兆円)から6,000億ドル(約84兆円)余りまで10倍も成長させる目標を織り込んだ、非常に大胆な達成条件を含む報酬体系となっていると主張した。
更に、当該報酬体系は、社外の専門家の助言を受けたり大手株主と相談した上で、取締役会が独自に設定したものだとも主張した。
バロー・ベンチャーキャピタル(1995年設立)創設者でマスク氏の長年の有人であり、かつ、2007から2021年の間テスラ社の取締役でもあったアントニオ・グラシアス氏は、マスク氏を弁護する証言をして、同氏はテスラ社が大成功するに至る“大変な功労者”であり、“発明の天才”だと強調している。
なお、当該包括報酬体系によると、マスク氏がいくつかの財政目標を達成することによって、それぞれの段階に応じてテスラ社株式の1%を破格の価格で取得することができるとされているが、反対に何も達成できなければ、同氏は一切報酬が得られないことになる。
そして、裁判所に提出された証拠書類によると、同社は12の目標のうち既に11段階まで達成しているという。
(注)デラウェア州:1900年代初頭から、独自の会社法と裁判制度により、法人の設立に最適な州として知られ、米上場企業の50%、経済紙『フォーチュン』選抜500企業の64%、会社数で100万社に及ぶ企業が設立準拠地ないし本社を置く。
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