東南アジア唯一の内陸国ラオスにおいて、中国が世界で推進する「一帯一路経済圏構想(BRI)」下のプロジェクトである中国~ラオス鉄道がいよいよ今週開通する。同国首脳は、“陸の封鎖国から陸の接続国への転換”が図れると絶賛している。しかし、多くの専門家は、総工費が同国国家予算の5分の1にも及ぶことや、大量物資輸送が期待できるタイ・バンコク港までの鉄道開通は7年後であること等から、アフリカなどの他途上国と同様、中国の“債務の罠(注後記)”に嵌る恐れがあると警鐘を鳴らしている。
12月1日付
『AP通信』:「対中国債務が膨らむ中、中国~ラオス鉄道のラオス国内線が開通」
中国は、2013年に立ち上げたBRI構想の下、アジア、アフリカ及び太平洋圏で港湾、鉄道、道路等の数百のインフラ建設プロジェクトを推進している。
途上国の多くは、中国資本によるインフラ建設を歓迎しているが、中国国営銀行からの融資を拠り所とするため、当該国には大きな債務として残る。
そこで、当該国の中には、建設費用が膨大の割に自国の収益が十分確保できず、融資金返済に窮する国が出現してきている。
そうした中、BRIプロジェクトのひとつである中国~ラオス~タイを結ぶ総工費59億ドル(約6,730億円)の高速度鉄道建設プロジェクトの一部である、中国~ラオス鉄道が今週開通する運びとなった。
同鉄道は、雲南省都昆明(ユンナン、クンミン)とラオス首都ビエンチャンを結ぶ1,035キロメートル(642マイル)に及ぶが、新型コロナウィルス感染問題による旅行制限から、当分は貨物輸送のみに限られる。
ラオス首脳らは、陸の孤島と言われた当国の経済活動が中国と連携することで、遠く欧州までも広げられると期待しているが、海外の専門家の多くは、中国との連携が果たしてラオス自体に利益をもたらすか疑問であるばかりか、むしろ将来にわたって大きな負債リスクを負うことが懸念されるとコメントしている。
例えば、米シンクタンク・世界開発センター(2001年設立)のスコット・モリス上級研究員は、当該鉄道は中国他の国々にとって“大きな利益となることは確か”であるが、だからと言ってラオスに“経済的利益をもたらすか”は甚だ疑問だとする。
同氏は、同鉄道のラオス国内の駅は21しかなく、中国にとってはタイ等へ速く輸送ができるのでメリットだが、ラオスの農民にとって農作物を輸送するためには駅数が少なく効率的ではないとし、“中国以外の国に設けられた中国公共インフラ・プロジェクトでしかない”と断言している。
更に、中国~ラオス鉄道の延長となる、タイ北端のノーンカーイから南端バンコクまでの高速度鉄道路線は2028年まで完成しないことから、ラオスにとっての国産品輸出メリットはすぐには発生しない。
なお、同鉄道のラオス国内の総延長は418キロメートル(260マイル)で、中国中鉄(2001年設立の国有企業)及び2社の国営企業合計70%と、ラオス国営企業30%の合弁事業の体裁をとっている。
しかし、同合弁事業体にとって、ラオス国内の鉄道路線の総工費35億ドル(約4,000億円)の融資金弁済が大きくのしかかることになる。
米バージニア州にウィリアム&メアリー大(1693年設立の公立大学)エイドデータ研究所(公的援助資金の透明性等を調査)のブラッドリー・パークス所長及びアンマー・マリク上級研究員は調査報告書の中で、もし当該鉄道業績が悪化して債務不履行に陥り、中国側が追加出資しないとなったら、当該債務は全てラオス側が負うことになる恐れがあるとし、ラオスの昨年の経済規模の5分の1にも当たる負債を同国が到底弁済できるはずがない、と分析している。
更に、現在でも同国は経済規模の3分の2に相当する負債を抱えていて、そのほとんどが対中国であることから、同国は“債務超過リスクが非常に高い”国と認められる。
2019年に中国は、エチオピアとカメルーンに建設したインフラ・プロジェクトに対して、両国が債務弁済不履行を起こしたため、止む無く債務免除に応じている。
また同時期、マレーシアは200億ドル(約2兆2,800億円)の新設鉄道プロジェクトについて、中国側がマレーシア側負担額の減額の再交渉に応じなかったことを理由として、当該プロジェクトをキャンセルしている。
果たして、ラオスには、将来どのような事態が発生するのか。
(注)債務の罠:別名、借金漬け外交。国際援助などの債務により債務国、国際機関の政策や外交等が債権国側から有形無形の拘束を受ける状態をいう。この表現は、インドの地政学者ブラフマ・チェラニー教授によって中国のBRIと関連づけて用いられたのが最初。債務国側では放漫な財政運営や政策投資などのモラル・ハザードが、債権国側では過剰な債務を通じて債務国を実質的な支配下に置くといった問題が惹起されうる。
閉じる