ソビエト連邦や中国などの一党独裁国家で何百万人もの人々が亡くなったことを説明している「Mass killings under communist regimes」というタイトルの記事に、「現在、削除することが検討されている」というフラグが立てられている。このサイトの管理を担当している一部のユーザーは、大量殺人を共産主義イデオロギーのせいにすることに問題があると考えている。スターリン、毛沢東、ポルポト、金正日といった人物たちの行いを紹介している記事は、偏った「反共産主義」の視点を打ち出していると非難されており、サイト管理者たちが削除すべきかどうかを判断することになっている。この記事の日本語の記事は存在しない。
「Mass killings under communist regimes」の記事は、スターリンが起こしたウクライナでの飢饉、大粛清、繁栄している農民の殺害、矯正労働収容所での数百万人の投獄など、人道に対する罪について言及している。また、毛沢東が行った大躍進政策では、2000万人もの犠牲者を出したとされる大飢饉を引き起こし、カンボジアのキリングフィールドと合わせて多くの引用をもとに解説がなされている。また、キューバ、ユーゴスラビア、ルーマニア、東ドイツ、北朝鮮の政権下での過剰死亡についても、多数の情報源を挙げて紹介している。
しかし、このページを削除することを提案している人の1人は、ウィキペディアのディスカッション・ページで、「共産主義のイデオロギーが何らかの形で本質的に暴力的であるという見解は、反共産主義(の視点)を押し付けるものである」と述べている。また、別の人は、共産主義下での死亡者数は1億人程度とも推定されているものの、「出来事が特定のイデオロギーによって引き起こされるという単純な前提」に頼るべきではないと主張している。さらに他の人は、共産主義政権下での大量殺戮に関するページが「歴史に関する一部の過激な考えを支持した、物語」であると主張している。
こうした削除を求める声に対し、ケンブリッジ大学の歴史学者ロバート・トムズ教授は、大量虐殺とイデオロギーの関連性を軽視することで、ファシズムや植民地主義下での犯罪についても教えることができなくなると主張している。トムズ教授は、「削除することは道徳的に弁護の余地がなく、少なくともホロコーストの否定と同じくらい悪いことだ。イデオロギーと殺戮を結びつけるということは、これらのことがなぜ重要なのかということのまさに核心である。私はウィキペディアのページを読んだが、注意深くバランスのとれたものだと思う。したがって、このページを削除しようとする試みは、共産主義を取り繕うとするイデオロギー的な動機によるものとしか考えられない。」と反論している。
民主主義防衛財団のクリフ・メイ理事は、「ソビエト連邦、中華人民共和国、カンボジア、北朝鮮など、世界の共産主義政権は1億人以上の人々を殺害した。この長く恐ろしい犯罪の歴史を消そうとする者は、将来の更なる暴虐への道を開く事になる事後共犯者と見なすべきである」と述べている。
米『フォックスニュース』によると、ウィキペディアには編集委員会は存在せず、管理者は記事やその他のウィキペディアのページを一般の閲覧から削除したり、以前に削除されたページを復元したりする権限を持っている。ほとんどの決定は、多数決ではなく、投稿者の間で合意を得るための議論を経て行われるとウィキペディアは述べている。「共産主義政権下での大量殺戮」の記事の、議論のページには、管理者または編集者が29日の午後に議論の決着をつけるプロセスを開始し、その結果はまもなく掲載されると記載されている。
なお、「Anti-communist mass killings」と題された、他の政治体制の下で共産主義者が殺された場面を紹介したウィキペディアのページは、中立性に対する懸念のフラグは立てられていないという。
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