世界第2位の燃料用一般炭輸出国オーストラリア(豪州)では、石炭業界からの強い支援を拠り所にしている与党・保守連合が気候変動対策に消極的である。従って、11月初めに英国(グラスゴー)で開催されるCOP26(注1後記)において他国から一斉に責められる可能性が高い。そこで、2012年以来の政権奪還を目指す最大野党・労働党(1891年設立)は、来年5月に予定されている総選挙での戦いを優位に進めるべく、気候変動問題を最大の争点にしようとしている。
10月27日付
『AP通信』:「豪州最大野党、来年の総選挙で気候変動問題を争点にするキャンペーン展開」
豪州最大野党・労働党は10月27日、来月初めに開催されるCOP26でスコット・モリソン首相(53歳、自由党党首)が科学者から非難されることが必至な軟弱な気候変動対策上の目標設定を行うことを問題視すると表明した。
労働党の影の内閣での気候変動及びエネルギー問題担当相のクリス・ボーウェン下院議員(48歳)が豪州メディア『ABC』に語ったもので、同議員は、国際社会が求めることに応えていない現政権の気候変動対策が、来年5月に予定されている総選挙の争点になると強調している。...
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10月27日付
『AP通信』:「豪州最大野党、来年の総選挙で気候変動問題を争点にするキャンペーン展開」
豪州最大野党・労働党は10月27日、来月初めに開催されるCOP26でスコット・モリソン首相(53歳、自由党党首)が科学者から非難されることが必至な軟弱な気候変動対策上の目標設定を行うことを問題視すると表明した。
労働党の影の内閣での気候変動及びエネルギー問題担当相のクリス・ボーウェン下院議員(48歳)が豪州メディア『ABC』に語ったもので、同議員は、国際社会が求めることに応えていない現政権の気候変動対策が、来年5月に予定されている総選挙の争点になると強調している。
モリソン政権は、少数与党・自由党(1945年設立)が国民党(1920年前身の地方党設立、1982年に改称)と組んで連立与党としていることから、農村部に強い基盤を築いている国民党の主張を一部取り入れざるを得ない。
その国民党は、2015年に豪州政府が策定した、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比▼26~28%削減するとの目標値を変更しないことを条件に、モリソン首相がCOP26において、2050年までにゼロエミッション(カーボンニュートラル、注2後記)を達成するとの政策を発表することに同意したものである。
この豪州政府の対応について、国連のアントニオ・グテーレス事務総長(72歳、元ポルトガル首相)は、本来国の首脳が発揮すべき“統率力の食い違い”によって、世界が努力している地球温暖化対策を損ねるものだとして、失望の念を表している。
労働党のボーウェン議員も、“モリソン首相は直近何週間も、超党派政策を打ち出していくと表明してきているが、明らかに満足のいく政策は皆無である”と非難した。
モリソン首相は、COP26において、先に国民党と合意した目標値より一歩踏み込んだ、2030年までに▼35%削減達成目標を標榜すると表明した。
豪州は、燃料用一般炭及び液化天然ガスの世界最大の輸出国であるが、同首相によると、同産品輸出元に負担させることなく、技術革新でゼロエミッションを達成させるという。
豪州人科学者で、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC、注3後記)の2007年・2015年評価報告書作成を主導したレスリー・ヒューズ氏は、豪州政府が発表している2030年までの達成目標は、“先進国の中で最も軟弱なもの”だと酷評している。
同氏は、“2013年に政権を取ってから8年も経つのに、最優先課題として取り組むべき化石燃料依拠政策からの転換が全くなされていない”と非難した。
モリソン首相率いる自由党が、2019年の総選挙で辛勝した際には、石炭産業が主流のクイーンズランド州の有権者からの強い支持に頼っていたこともあって、思い切った削減政策を打ち出せないという背景がある。
なお、労働党は2030年までの削減目標として▼45%を掲げているが、現政権は、この目標値では豪州経済が瓦解してしまうと非難している。
(注1)COP26:国連気候変動枠組条約第26回締約国会議。「パリ協定」と「気候変動に関する国連枠組条約」の目標達成に向けた行動を加速させるため、締約国が一堂に会して議論。
(注2)カーボンニュートラル:環境化学の用語の一つ。何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量である、という概念。個人・企業・政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、「排出権クレジット」を購入すること、または他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせること。
(注3)IPCC:国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための政府間機構で、1988年設立。学術的な機関であり、地球温暖化に関する最新の知見の評価を行い、対策技術や政策の実現性やその効果、それがない場合の被害想定結果などに関する科学的知見の評価を提供。数年おきに発行される「評価報告書」は地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書であり、国際政治および各国の政策に強い影響を与えつつある。
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