日本における新型コロナウィルス(COVID-19)感染者数は、先月末の大規模緊急事態宣言適用解除と相俟って、日増しに減少の一途を辿っている。ただ、急激な減少の理由について、ワクチン接種率向上なのか、それともマスク着用の徹底のお陰かなのか等、専門家も依然特定しがたいとしていると米メディアが報じている。
10月17日付
『AP通信』:「ワクチン?、それともマスク? 日本のCOVID-19急減少の理由に関係者も戸惑い」
日本におけるCOVID-19感染状況は、夜が明けた途端に、というほど急激に減少しており、不可解な事態となっている。
実際問題、8月中旬に東京都で一日当たり6千人近くもの新規感染者が報告されていたのに、直近では連日100人を下回っており、昨年の12月以来の低水準となっている。
何故これほど急激に減少したのか、明確になっていないものの、目下、巷のバー・居酒屋は満席、通勤電車は混雑と、世の中はお祝いムードといった状況である。
日本はこれまで、欧州やアジア諸国で行われた都市封鎖措置は講じられておらず、罰則なしの協力依頼ベースの緊急事態宣言が数回発出されただけである。
従って、現在の感染率減少の背景は、遅ればせながらワクチン接種キャンペーンが奏功したこと、急激な感染率上昇を恐れて夜の歓楽街から人波が減ったこと、COVID-19感染問題発生以前から習慣となっていたマスク着用の徹底が図られたこと、更には、8月下旬の悪天候で多くの人が外出をためらったこと等が考えられる。
ただ、ワクチン接種後の時間の経過とともに効果が減じつつあること、また、これから冬に向かうこともあって、専門家は、何故感染率が減少したのか明確な理由を解明しておかないと、再び今夏のような感染者激増に伴う医療ひっ迫事態に陥る恐れがあると警鐘を鳴らしている。
まず、東邦大学(1950年創立)ウィルス学専門の舘田一博教授(61歳、COVID-19感染症対策分科会委員)は、“今夏にかけて64歳以下の成人対象のワクチン接種がかなり進められたことで、集団免疫と似たような現象になったと考えられる”とする。
感染力の強いデルタ株ウィルス(インドで発見された変異株)が広まり始めたとみられる7~9月にかけて、政府が精力的にワクチン接種を推進している。
ただ、同教授は、日本より数ヵ月も早くワクチン接種が始められた米国・英国等で、ブレイクスルー感染(ワクチン接種済みの人の感染)が認められていることと、時間の経過とともにワクチン効果が減退していくことに注意をする必要があるとしている。
次に、国際感染症センターの大曲貴夫センター長(50歳)は、“急激な減少の理由を解明するのは難しい問題であるが、まず、ワクチン接種効果が大きかったと考えられる”としながらも、“感染リスクの高い環境、例えば混雑していて換気状況も悪い場所に多くの人が集まって一時的に感染が拡大し、それによって自然免疫(感染による抗体取得)が得られてきたとも考えられる”と付言した。
一方、東京都医師会(1947年設立)の猪口正孝副会長(60代)は、感染率減少はCOVID-19検査件数の減少だとの推測意見もあるが、東京都の公表データによると、8月下旬次から10月中旬次にかけて検査件数が3分の1減少しているものの、検査中の陽性率は25%から僅か1%まで減少していることから、感染の度合いが収まりつつあると言えるとする。
また、京都大学(1897年設立)の西浦博教授(44歳)は直近の政府諮問委員会の席上で、ワクチン接種が軌道に乗り始めた3月から大幅上昇した9月までの間、ワクチン接種によって65万人が感染を逃れられ、また、7,200人余りの命が救われたと推定されると報告している。
多くの専門家は当初、バー・居酒屋等が閉店していることから、若者が路上や公園で飲み会を開いていることが感染拡大を増長していると非難していたが、詳細データから分かったことは、40代や50代の大人もしばしば夜の歓楽街に現われていたということであり、かつ、重症化したり死亡してしまった人の多くはワクチン未接種の50代以下の人たちだったということである。
従って、国立感染症研究所(前身は1947年設立)の脇田隆字所長(63歳)は10月14日の記者会見で、多くの人々が夜の歓楽街に繰り出し始めていることと同時に、感染率減少度合が下げ止まっていることを懸念していると発言した。
同所長は更に、“重要なことは、将来再び感染拡大させないために、目下の感染率を更に押し下げることだ”と強調している。
ただ、多くの人たちは感染者数減少に拘らず、依然感染防止対策を緩めることには慎重である。
ある女子大生は、マスク着用が“日常の生活習慣となっている”とコメントした。
また、その連れの女子大生も、“マスク不着用の人には近づきたくない”と述べている。
一方、GPSデータを解析すると、9月末まで続いていた緊急事態宣言適用期間において、多くの都市の歓楽街における人出はかなり減少していたことが分かっている。
そこで、東京都医学総合研究所(前身は1973年設立)社会健康医学研究センターの西田淳志センター長(40代)は、“ワクチン接種率向上と共に、歓楽街への人出が減ったことが感染率減少をもたらしたと考えている”と述べた。
しかし、同センター長は同時に、“緊急事態宣言が解除されて以降、人手がまた増えてきているので、今後数週間内に感染状況に影響を与えるものとみられる”と懸念も表明している。
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