ベルギーは、7月に致命的な洪水に見舞われ、地球温暖化への懸念が再認識される中、ガス料金が高騰していることにより、2025年に予定されている原子力発電所を予定通り廃止することについて、連立政権内で対立が深まっている。
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『レゼコー』は、2025年に予定されている脱原発が、ベルギーの連立政権内に論争と不協和音をもたらしていると伝えている。緑の党に属するエネルギー大臣ティネ・バン・デ・ストラーテンは、長期的には自然エネルギー100%の目標を維持しつつ、段階的に廃止される原子力発電設備を、一時的にガス火力発電設備で代替することを望んでいる。大臣は、風の強い日に、原子炉は停止できないため、送電網の不安定化を避けるために北海の風力発電を停止しなければならないことは不合理であると指摘している。代わりに需要と供給の変動によりよく対応できる、制御可能なガス火力発電所の新設を提案している。しかし、この提案は、特にヨーロッパで天然ガス価格が高騰していることもあり、他の連立政党が反対している。
ベルギーのニュースサイト『ブリュッセル・スタンダード』によると、連立政権の一員である改革運動党(MR)の党首、ジョルジュ=ルイ・ブシェは、昨年ベルギーの発電量の約40%を占めた原子力発電の穴を埋めるためにガスに依存することは、「ロシアのような国に依存することになり、価格が大きく変動する市場に依存することになる」と反対している。
連立政権内で対立することで、政権が崩壊するようなリスクを冒すことを厭わないのか、と聞かれたブシェ氏は、「私たちは、悪い解決策と非常に悪い解決策のどちらかを選択しなければならない。私はこの件について本気である」と述べた。
計画的な原子力発電所の廃止を推し進めるべきか、低炭素原子力発電の利点がリスクを上回るのではないか、フランス、ドイツやスペインなどの国でも、同様の議論が起こっている。一方、電力会社のEngie Electrabel社は、すでに「解体に向けて動いている」として、後戻りして2025年以降も残り2つの原子力発電所を稼働させるには遅すぎると警告している。
ゲント大学の政治学教授であるカール・デボス氏は、脱原発の合意がなされた時とは雰囲気が変わってきていると警告している。夏にベルギーとドイツの一部を襲った壊滅的な洪水により、原子力発電に代わる火力発電所を新たに建設するという方針は指示を得ることが難しくなってきているという。
EUの排出権取引制度に関する独立系アドバイザーのスザナ・カープ氏は、緑の党が脱原発にこだわるのは「緑の運動の古い考え方を反映している」と述べ、冷戦時代にヨーロッパ中の緑の党を活気づけた反核デモに言及した。「気候変動という緊急事態に直面しているとき、新たな環境汚染となる設備構築を正当化するために、原子力発電を段階的に廃止しなければならないという古い議論は使えなくなっている」と指摘している。
一方、エネルギー大臣は、「ベルギーでは、2026年に一時的にCO2が増える方向に進むが、2030年には増加分の3分の2分を減らしていることになる。」と反論しており、むしろ原子炉を残す場合は、「20万年から30万年も核廃棄物に悩まされる 」ことになると警告している。
デボス教授は、「もし緑の党がこの案件を推進しなければ、人々は連立政権における彼らの役割を問い始めるだろう。しかし、推し進めた場合、正当性の有無にかかわらず、CO2排出量の増加やエネルギー価格の上昇に対する批判にさらされることになるだろう」と、緑の党が難しい立場に置かれていると述べている。
そして、「2021年の問題はもはや核の安全性ではない。核の安全性は依然として問題だが、最大の問題はCO2だ。緑の党にとって、CO2の排出量を増やすことが政治的な勝利であるならば、それはそれで良いことだが、デモをしている若者たちに説明しなければならないだろう」と述べている。
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