米国と中国は、英国との独立戦争を経たか、あるいは、敵対する国民党を追い出して国の統一を図ったか、多少の違いはあるにせよ、武力で以て建国を勝ち取ったことが共通している。しかし、現代社会においては、一方が憲法で銃所持が保護されていて、他方は国際社会で最も厳しい銃規制を強いている、という程、全く正反対の社会規範となっている。そうした中、銃所持が禁じられている中国で、銃による殺人事件が発生して注目を浴びている。
9月20日付
『CNNニュース』:「米国と中国、共に武力で建国を勝ち取ったものの、現代の銃規制方針は全く正反対」
中国中部地方の湖北省武漢(ウーハン)で先週、47歳の男が弁護士事務所に押し入り、持参した20インチ(50センチメートル)長の銃で以て一人の弁護士を射殺して、そのまま逃走するという事件が発生した。
地元紙報道によれば、二人の間には“何らかの諍い”があった模様であるが、殺人を犯した男は予め用意したテニス・ラケットケースに銃を隠して逃走しており、計画的犯行とみられている。
ただ、この一報に接した多くの中国人は、“米国の事件か”とか、“米国映画の中の話ではないか”等、すぐに信じることはできなかった。
米国と中国は、共に武力で以て建国を勝ち取っているが、現代社会においては、一方は憲法で銃所持が保障されているのに対して、他方では一般市民の銃所持が禁止されるという、全く正反対の社会規範となっている。
中国国営メディア『新華社通信』によると、中国では、世界最多の14億人の人口を抱えているにも拘らず、銃が絡む事件は年間で僅か数十件であるという。
また、幅を広げて暴力犯罪の発生件数を取ってみても、2020年は直近20年で最少となっているとする。
一方、米国についてみると、毎年数百件の銃犯罪が発生していて、1件当たり平均4~5人の犠牲者が出ている。
2021年に限ってみても、これまで既に475件以上発生している。
米国においても、銃規制を求める声が強くなっているが、一方で暴力犯罪は年々増加していて、昨年は大都市での銃に絡む事件も含め殺人事件が33%も増えていて、その傾向は今年も続いている。
そこで中国は、事ある毎に米国における犯罪率の高さを引き合いに出し、自国のことを棚に上げて他国を非難する偽善者だとか、効果的な統一が取られていない国だと糾弾している。
『新華社通信』は6月の社説で、米国は、自国の“激しさを増す銃犯罪”の取り組みに失敗しているにも拘らず、他国の人権問題を批評する“裏表のある国”だと批評している。
しかし、中国自身も、滅多に起きない事件について軽視する傾向にあり、今回の射殺事件についても、警察が発表したのは、銃については一切触れず、ただ侵入者が従業員に“怪我をさせた”という点のみであった。
1949年に国民党との内戦で勝利し、中国統一を成し遂げた中国共産党は、武器は革命を引き起こす基となるとして、建国されたばかりでまだ統率力が脆弱な中国にとって、一般市民が武器を保持することは政権の脅威となると考えた。
そこで1951年には、市民が銃を売ったり買ったり、また所持することも禁止する政策を採用した。
ただ、1989年に天安門事件が発生してしまったことから、共産党政府として、銃規制の厳重化を図る必要があると判断し、数ヵ月後には、公の反対運動や組織的な抵抗活動をも含めた新たな銃規制政策を実施している。
そして1996年、全国人民代表大会(国会に相当)において、正式な銃規制法を制定・公布した。
同法の下では、銃所持が認められるのは、警察、治安部隊、政府認定の射撃スポーツ選手、及び政府認可の狩猟者のみに限られるとなっている。
更に、習近平国家主席(シー・チンピン、68歳)の指導によって、銃の取り締まりや訴追がより厳格に実施され、昨年11月には、摘発された違法な銃6万9千丁が廃棄されている。
そして今年5月には、4ヵ月間の違法銃取り締まりキャンペーンを実施すると発表している。
ただ、余りにも規制が厳しく柔軟性に欠けると、極端な事態が発生しかねない。
例えば、2016年に、中国南東部の福建省(フーチェン)在住の20歳の男が銃の複製をネットで購入したところ、模倣銃も事実上禁止対象の銃に当たるとして、終身刑が科せられてしまった。
この事件の措置は余りにも極端だと、世論から非難の声が上がったため、2018年に7年の有期刑に減刑されている。
なお、中国はよく、暴力犯罪が少ない安全な国だと宣伝するため、米国との実例を比較している。
例えば、2018年の実データを引き合いに出して、殺人事件発生率は米国の10分の1に留まると主張している。
しかし、中国においても銃は規制されていても、直近でナイフによる襲撃事件が多発していて、中には、通学児童を狙った大量刺殺事件も発生している。
そして加害者の多くは、精神に異常を来していることが多く、中国における精神病患者の医療体制の脆弱さ等に批判の目が集まっている。
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