南シナ海における領有権問題については、日米に加えて欧州主要国・オーストラリア等も中国による一方的な制海権主張を非難している。しかし、中国は、2016年7月の常設仲裁裁判所(PCA、1899年設立)の敗訴裁定を完全無視した行動を取ってきており、肝心の東南アジア諸国連合(ASEAN)内の領有権問題関係国も、折からの新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題に伴って中国援助に頼らざるを得ないためか、中国の既成事実化に真っ向から抗えない状況に追い込まれている。
7月31日付
『ボイス・オブ・アメリカ』:「南シナ海領有権問題に関わる仲裁裁定から5年が過ぎ、領有権を争う国々も中国の傍若無人さに抗えない状況」
南シナ海における領有権問題について、PCAが中国主張を否定する画期的な裁定を下してから5年経つが、中国と領有権争いをしている東南アジアの小国は、当該裁定を全否定する中国に逆らえず、中国と連携せざるを得ない状況に追い込まれている。
中国は当初、昔の王朝時代から掌握しているとの記録を基に、350万平方キロメートルにも及ぶ同海域の約90%を、「九段線」と称して中国主権範囲だと主張してきた。...
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7月31日付
『ボイス・オブ・アメリカ』:「南シナ海領有権問題に関わる仲裁裁定から5年が過ぎ、領有権を争う国々も中国の傍若無人さに抗えない状況」
南シナ海における領有権問題について、PCAが中国主張を否定する画期的な裁定を下してから5年経つが、中国と領有権争いをしている東南アジアの小国は、当該裁定を全否定する中国に逆らえず、中国と連携せざるを得ない状況に追い込まれている。
中国は当初、昔の王朝時代から掌握しているとの記録を基に、350万平方キロメートルにも及ぶ同海域の約90%を、「九段線」と称して中国主権範囲だと主張してきた。
同海域には、水産資源のみならず化石燃料等の天然資源も豊富に賦存していることから、中国が独り占めしようと企んでいることは確かで、当該「九段線」は、周辺国の排他的経済水域(EEZ)内にも食い込んでいる程である。
これに対して、中国と領有権争いをしている5ヵ国(フィリピン、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、台湾)のうちのフィリピンがPCAに仲裁裁定を求めたところ、PCAは2016年7月12日、国際法上の根拠がないとして、中国主張を否定する裁定を下したが、中国は即座にこれを全面否定し、今年7月にも改めて同主張を声高に宣言している。
かかる経緯があるにも拘らず、領有権問題に関わるアジアの5つの小国は、中国に対抗できる軍隊も持たず、また、経済規模も僅少であって、逆に中国資本に頼らざるを得ない局面を見せている状況である。
国際戦略研究所(1983年マレーシアで設立されたNPO法人)のシャリマン・ロックマン外交・安全保障担当主任研究員は、“PCA裁定を以てしても中国を翻意させられない以上、これら周辺国としては、自国の主権擁護の立場から、中国に対する不平は言うにしても、中国を刺激過ぎないように極端に振舞うことは自重せざるを得ないと考えている”と分析している。
同主任研究員によれば、例えば、マレーシアは、2016年仲裁裁定をひっそりと歓迎しているが、“中国を苛立たせないよう神経を使ってきている”という。
一方、中国側の対応としては、国営メディアの『新華社通信』が7月27日、英国国防相の非難に反論する形で、在ロンドン中国大使館報道官の声明を掲載した。
それによると、PCAは“条約国が取り決めた原則”に違反しているばかりか、“法を無視して”裁定を下していることから、当該裁定そのものも違法であり、何ら有効性はないと強調している。
なお、PCA裁定を求めた主導国のフィリピンは、2016年に就任したロドリゴ・ドゥテルテ大統領(76歳)が、前政権と違って脱米国・親中国路線を鮮明にしてきており、これもPCA裁定の影響力を削ぐ結果となっている。
ただ、同大統領も最近では、南シナ海スプラトリー諸島(南沙諸島)東側の同国EEZ内に220隻もの中国漁船団が今年3月以来、勝手に居座っていることに業を煮やしてか、PCA裁定の有効性を声高に主張し始めている。
しかし、COVID-19感染問題によってフィリピン政府が窮地に追い込まれていることから、背に腹は代えられず、中国製ワクチンの提供を心待ちにしていることも事実である。
ハワイのダニエル・K.・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究センター(1995年設立の米国防総省傘下のシンクタンク)のアレクサンダー・ブビング教授は、“PCAは国連海洋法条約(UNCLOS、注後記)に基づいて裁定を下しているが、中国は当該裁定を全く受け入れず、独自の解釈に準拠した主張を繰り返している”とし、“従って、正にUNCLOSと中国主張の「九段線」が真っ向からぶつかり合う状況になってしまっている”とコメントしている。
(注)UNCLOS:海洋法に関する包括的・一般的な秩序の確立を目指して1982年4月に第3次国連海洋法会議にて採択され、同年12月に署名開放、1994年11月に発効した条約。国際海洋法において、最も普遍的・包括的な条約であり、基本条約であるため、別名「海の憲法」とも呼ばれる。
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