クリントン氏とトランプ氏の大統領選討論会まで1か月あまりとなった。この公開討論会の進行を務める司会者の選出が難航しているという。トランプ氏はこれまでに何度かマスコミと報道の仕方について揉めたこともあり、政治的に中立な司会者を選ぶのが難しいという。このような状況から、大統領討論委員会は司会者の決定を今月下旬から、9月5日以降に延期することを発表した。全米のみならず、世界が注目する討論の司会者選出について、各メディアは次のように報じている。
8月24日付
『CNNマネー』(米)は、今回大統領討論委員会が司会者の発表を遅らせたのは、政治的に中立である司会者の選出に手間取っているためと報じる。今回は特にトランプ氏が問題になっているとする。委員会としては、討論をうまくまとめることのできる人間を司会者にしたいところだが、これまでにもトランプ氏はメディアから不平等な扱いを受けていると主張したり、ときにメディアに対して攻撃的な態度をとったりしてきた。今回の討論会でも司会者がクリントン氏寄りの発言や進行を行えば、それを瞬時に嗅ぎ付けて討論会の信頼性事態を根底から揺るがす言動を行う可能性があるとみられている。そのため委員会は司会の選出に今まで以上に慎重にならざるを得ないというのである。
同日付
『ザ・ブレイズ』(米)によると、司会者の条件としては先述の通り政治的に中立であるのはもちろんだが、司会者自身が目立ちすぎず背景に徹することができ、決して議論に巻き込まれない人間だという。ただ、同記事は、誰が司会者になろうとも、討論の進行に関してトランプ氏側から批判を浴びるのは必至だとする。さらに問題を複雑にしているのはクリントン氏の交友関係である。同氏はこれまで30年以上にわたるキャリアの中で、かなりの人数のマスコミ関係の司会者と交流がある。こういったことからもトランプ氏、クリントン氏両氏とも関係が深くない司会者を見つけるのは至難の業ともいえそうである。今回の司会者選出は、1988年から公開討論会の司会者選出を行ってきた委員会が初めて直面する苦難だという。
これまでにも、司会者と大統領候補との距離の取り方で批判を浴びた例はいくつかある。例えばABCニュースのキャスターであるラダッツ氏が2012年にオバマ大統領とロムニー氏の公開討論会の司会を務めたが、1991年にオバマ大統領がラダッツ氏の結婚式に出席したことが明らかになり、批判を浴びた。また、同年同じくオバマ大統領とロムニー氏の公開討論会内で、司会を務めたCNNのクローリー氏が両者の議論に割って入ってオバマ大統領を擁護したとして後に批判を浴びている。
様々な懸念が飛び交う中、2012年に司会を務め、その後引退したCNNのシーファー氏はこう語っている。「誰も審判を見るために野球の試合に来る人はいない。みな選手を見に来るのだ」。重要なのは討論を行う者と、その内容ということか。
同日付
『VOX』(米)は公開討論会は3000万人から7000万人が視聴する重要な番組であり、1回の討論会で司会を務めるのは、当たり前だが1名だけであり、質問内容や進行の決定権を有する重責を担っているとする。また、同記事は委員会が求める司会者の条件として、前述の他に候補者に精通していること、報道の現場での経験が豊富であることも必要だとしていると報じている。このような条件を充たす人物となるとかなり選出が難しいが、記事内ではCBSのディッカーソン氏、CNNのターパー氏、NBCのトッド氏およびホルト氏、PBSのイフィル氏を挙げている。
公開討論会は高視聴率で、生放送で、台本もない。劣勢の候補からすると形勢逆転を狙えるチャンスでもある。今後トランプ氏がクリントン氏より劣勢となれば、公開討論会に積極的に臨むことが予想される。
ただ、公開討論会が大統領選の最終結果に及ぼす影響は実はそれほど大きくないという主張もある。政治科学者のレジエン氏は討論会は短期的には支持率に影響するものの、長期的にその効果が続くことはなく、むしろ党大会での演説の方が選挙結果に影響を及ぼす効果は大きいと語る。例えば2012年には討論会直後はロムニー氏がオバマ大統領よりも優勢とみられていたが、最後はオバマ大統領が勝利した。2004年の大統領選では討論会直後の世論調査ではケリー氏が優勢だったが、結果はブッシュ元大統領の勝利に終わっている。
討論会で優位に立つのはより準備万端で臨んだ候補者だという。トランプ氏がどのような手段に打って出るのか、予測が難しい。ひょっとしたら、しごくまっとうな人間に変わっている可能性もあると同記事は指摘する。同氏の場合「普通の人間」に変わっただけで世論を肯定的な方向に転じさせることが十分に可能だというのである。
公開討論会の内容、その結果、それがおよぼす最終結果への影響から目が離せない。
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