アジアからの電子部品の供給不足が、ヨーロッパの工場に打撃を与えている。この問題を解決するために、欧州は大規模な投資を行い、大陸での半導体生産を強化していく方針を打ち出した。
『OANN』によると、イタリアのマリオ・ドラギ首相はイタリア議会で、欧州圏の経済強化と主要産業の保護を目的とした幅広い取り組みの一環として、半導体の生産を増やすことが欧州諸国にとって優先事項であると述べた。ドラギ首相は、「輸送、産業機械、防衛など多くの戦略的産業に不可欠な半導体の不足は、特に大きな打撃となっている」と述べた。さらに、2030年までに世界のチップ生産量の10%から20%にシェアを拡大することが欧州の野望であると述べた。
仏『ウエストフランス』によると、欧州委員会は2月上旬、不足が指摘されている半導体分野のアジアへの依存度を下げるため、約420億ユーロ(約5兆6千億円)の公的資金を半導体産業に放出することを提案した。欧州委員会のティエリー・ブルトン委員は、この計画は、2030年までに「欧州の半導体生産を4倍にすることで、欧州の工場の供給安定性を保証する」ものだと説明している。
半導体研究の最先端を走ってきたEUは、ここ数十年で市場シェアが低下し、世界の生産量のわずか10%にまで落ち込んでいる。しかし、過去3年間、多くの工場が閉鎖に追い込まれ、自動車産業を停滞させた半導体の不足が業界関係者を目覚めさせた。中国をめぐる地政学的な緊張やパンデミックによって、主に台湾や韓国から輸入している不可欠な部品をヨーロッパで生産する必要性が認識されるようになった。
EUの半導体生産強化計画を指揮っているブルトン委員は、「欧州は初めて、競争政策、特に国家補助に関するルールを変えようとしている」と述べている。半導体は、携帯電話などの多くの日用品に不可欠であるだけでなく、急成長するデジタル経済の中心であるデータストレージセンターにも使用されている。コンサルティング会社「Yole Développement」によると、昨年、半導体の世界市場規模は約6千億ユーロ(約80兆円)に達した。ブリュッセルによると、2030年には1兆ユーロ(約130兆円)に達する可能性があるという。
欧州の計画は、同じく自国内での生産体制の強化を始めた米国に匹敵するものである。欧州は現在、半導体に「二重の依存」をしている。半導体を設計する米国のインテル、マイクロン、Nvydia、AMDといった企業に依存している一方で、世界最大の半導体メーカーTSMCを擁する台湾、サムスンやSKハイニックスといった代表的な企業を持つ韓国などに依存している。
ブルトン委員は、EUは、その必要量の半分以上を台湾に依存していると言う。これは、例えば中国との軍事衝突が発生した場合、大きな経済的リスクとなる。「もし台湾が輸出できなくなったら、世界中のほとんどの工場が3週間で閉鎖されるだろう」と警告している。
仏技術系ニュースサイト『Techniques De l’Ingenieur』は、欧州はこうした投資や計画を進めても、「TSMC」のような企業を生み出すことは難しいと伝えている。デジタルテクノロジーの専門家ルイ・ノジェス氏は、「そのような時間がない。数百億の投資とノウハウが必要になる。むしろ、アジアからの工場を歓迎することが、正しいアプローチだ」と述べている。台湾や韓国が「ヨーロッパに工場を持てば、中国と台湾の戦争や紛争が起きても、地理的に守られる。特にヨーロッパでは、行政のお役所仕事と、工場がどこに設置されるかをめぐっての国同士の争いがあり、これらのプロジェクトが実現するまでに4、5年かかるため、遅れをとってはならない。」と警告している。
閉じる