南シナ海仲裁裁定から1年、中国による裁定無効化が実現?(2)-フィリピン・インドネシアの細やかな抵抗【米・英・ロシア・中国メディア】
7月14日付
Globali「南シナ海仲裁裁定から1年、中国による裁定無効化が実現?」の中で、“中国は当初より、一方的な常設仲裁裁判所(PCA)の仲裁裁定は無効であると強く宣言し・・・実際には、中国自身の理屈付けで人工島建設継続はおろか、軍事拠点化を見据えての種々の恒久施設を同島に建設している。また、周辺関係国との対話を継続するに当り、大規模経済支援をちらつかせ、中国主導の話に黙って続くよう迫ってきている。従って、裁定で勝訴したフィリピンも、政権が代わったこともあって、もはやPCA裁定は絵空事になりつつあるとみられる”と報じた。しかしながら、中国から軍事行動を起こされないぎりぎりのところで、フィリピンが領有権争いの海域での天然資源探査活動の再開を目論めば、インドネシアは、自国の主権範囲と主張する海域について(南シナ海から切り離して)独自の命名を行う等、細やかな抵抗を試みている。
7月14日付米
『CNBCニュース』:「ドゥテルテ政権が、中国が主権を主張する領海内での探査活動を目論んでいることで、南シナ海問題が再燃」
『ロイター通信』は7月12日、フィリピンのエネルギー資源開発庁のイスマイル・オカンポ理事が、南シナ海のリード礁における天然ガス・石油探査の掘削を年内中に再開する予定であることを明らかにした、と報じた。
同礁は、PCA裁定で認めたフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるが、一方で、PCA裁定を無効と宣言している中国は、同礁が主権範囲と主張する「九段線」の範囲内にあることから、フィリピンの一方的な活動再開によって、中国・フィリピン間での軋轢が再燃しかねない。...
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7月14日付米
『CNBCニュース』:「ドゥテルテ政権が、中国が主権を主張する領海内での探査活動を目論んでいることで、南シナ海問題が再燃」
『ロイター通信』は7月12日、フィリピンのエネルギー資源開発庁のイスマイル・オカンポ理事が、南シナ海のリード礁における天然ガス・石油探査の掘削を年内中に再開する予定であることを明らかにした、と報じた。
同礁は、PCA裁定で認めたフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるが、一方で、PCA裁定を無効と宣言している中国は、同礁が主権範囲と主張する「九段線」の範囲内にあることから、フィリピンの一方的な活動再開によって、中国・フィリピン間での軋轢が再燃しかねない。
ただ、アジア地域専門家は、ベトナムが領有権争いのある海域で海洋活動を始めたことに対して、中国が実力行使に出てこなかったことを見越して、フィリピンのドゥテルテ政権も、中国の忍耐度を測ろうとしているのではないかとみる。
一方、同日付英
『デイリィ・メール・オンライン』(
『ロイター通信』配信):「主権範囲と主張するため、インドネシアが南シナ海の一部海域の呼称変更」
インドネシア政府は7月14日、南シナ海のインドネシアEEZの海域を、新たに“北ナトゥーナ海(マレー半島東沖)”と命名したと発表した。これまでインドネシアは、南シナ海領有権争いに加わっていなかったが、同国のEEZ内のナトゥーナ諸島でしばしば中国漁船の違法操業に遭い、漁船を拿捕するなど中国と問題が発生していた。
インドネシア海事省海洋統治局のアリフ・ハバス・ウーグロセノ次長は、“北ナトゥーナ海”の呼称が入った正式地図を披露して、同海域はインドネシアのEEZ内であり、石油・ガス探査活動を実施している海域であると表明した。
これに対して中国外交部の耿爽(ガァン・シャン)報道官は同日、詳細は不詳としながらも、南シナ海は国際的に認められ、かつ地理上の範囲も確立された呼称であるとして、インドネシアの行為は全く意味のないことであると一蹴した。
なお、ベトナムは先週、中国が主権範囲と主張する領海内において、国営のペトロベトナム主導の合同企業体による石油探査活動を開始している。
同日付ロシア
『RT(ロシア・トゥデイ)テレビニュース』:「インドネシアが南シナ海の一部海域の呼称を変更したことに対して中国は“無意味”と一蹴」
中国は、南シナ海のほぼ90%を自国主権範囲と宣言していることから、インドネシアがEEZ内とするナトゥーナ諸島海域に中国漁船が度々出没してきており、最近1年半の間にインドネシア政府として監視を強化している。その一環での、同海域の名称変更措置と言える。
これに対して中国外交部は、同海域は“中国固有の漁場”であるとして、インドネシアの呼称変更は何ら意味をなさないことだと一蹴している。
7月15日付中国
『環球時報』:「インドネシアが南シナ海の自国EEZに新名称」
インドネシア政府は、南シナ海において、中国の主権範囲に位置するナトゥーナ諸島海域を、自国のEEZだと主張して、新たに“北ナトゥーナ海”と命名したと発表した。
中国専門家は、これまで領有権争いに加わっていなかったインドネシアのかかる極端な行為は、中国と領海問題での交渉上有利に運ぼうとする小手先の手法で、将来的な共同海洋活動に何ら益のないことだと批判した。
中国外交部の耿報道官は7月14日の定例会見で、南シナ海の一部海域の名称変更は無意味なことと一蹴した上で、南シナ海の平穏を保つため、如何なる関係国も中国と真摯に対話することを望む、と表明した。
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南シナ海仲裁裁定から1年、中国による裁定無効化が実現?【米・英・ロシア・フィリピン・中国メディア】
常設仲裁裁判所(PCA)が、南シナ海における中国主張を全面的に退ける裁定を下してから、7月12日で1年が経過した。中国は当初より、一方的な仲裁裁定は無効であると強く宣言し、また、国際世論の反対を鎮めるため、東南アジア関係各国との対話による問題解決のポーズを前面に押し出していた。実際には、中国自身の理屈付けで人工島建設継続はおろか、軍事拠点化を見据えての種々の恒久施設を同島に建設している。また、周辺関係国との対話を継続するに当り、大規模経済援助をちらつかせ、中国主導の話に黙って続くよう迫ってきている。従って、PCA裁定で勝訴したフィリピンも、政権が代わったこともあって、もはやPCA裁定は絵空事になりつつあるとみられる。
7月12日付英
『インターナショナル・ビジネス・タイムズ』オンラインニュース:「南シナ海:フィリピンは中国主張を退けたPCA裁定を有効に活用している?」
南シナ海領有権問題で、中国主張を全面的に退けたPCA裁定が下ってから1年が経つに当り、フィリピン大統領府のアーネスト・アベーラ報道官は7月11日、(ロドリゴ・ドゥテルテ大統領方針に沿って)現在中国と対話を継続している、と語った。しかし、PCA裁定で勝訴したフィリピンは、この1年間で同裁定結果を有効に活用していないことは明白である。...
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7月12日付英
『インターナショナル・ビジネス・タイムズ』オンラインニュース:「南シナ海:フィリピンは中国主張を退けたPCA裁定を有効に活用している?」
南シナ海領有権問題で、中国主張を全面的に退けたPCA裁定が下ってから1年が経つに当り、フィリピン大統領府のアーネスト・アベーラ報道官は7月11日、(ロドリゴ・ドゥテルテ大統領方針に沿って)現在中国と対話を継続している、と語った。しかし、PCA裁定で勝訴したフィリピンは、この1年間で同裁定結果を有効に活用していないことは明白である。
既報どおり、米シンクタンクの6月報道では、中国は南シナ海での海洋活動を更に進めていて、ファイアリー・クロス礁・ミスチーフ礁・スビ礁上に築いた人工島に、軍事拠点化を可能とする恒久施設を建設している。この結果、フィリピン初め同海域の領有権を主張する周辺国にとって、中国側の軍事的圧力は益々頑強なものとなっている。
しかし、アキノ前政権下で外相としてPCA仲裁裁定を進めたデル・ロサリオ氏が、中国は裁定を無視して、南シナ海での軍事化と違法行為を続けている、と強くアピールしても、同盟国米国と距離を置き、逆に親中路線をひた走っているドゥテルテ大統領の下では、PCA裁定を有効活用する余地は全くないと言える。
更に、同大統領は、訪中した際に中国首脳から、もしフィリピンが同海域で勝手に石油探査活動を始めたら、中国と戦争になると覚悟するよう脅されてしまっている。
ただ、デル・ロサリオ氏ら反対派としては、目下東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が、南シナ海行動規範(COC)の締結に向けて協議していること、更に、フィリピンが今年のASEAN首脳会議の議長国となっていることから、中国の活動を制限するCOCの締結に期待している。
同日付ロシア
『RT(ロシア・トゥデイ)テレビニュース』:「フィリピン、中国との貿易拡大のため中国との衝突は望まず」
PCA裁定から一周年に当り、フィリピンのラモン・ロペス通商産業相は7月12日、ドゥテルテ大統領が以前より表明しているとおり、フィリピンとしては中国との関係改善・拡大に注力していく方針であると語った。
同大統領の方針表明もあって、中国は(理由不詳で)輸入を差し止めていたフィリピン産バナナ・マンゴーを解禁したことから、今年1~5月の間で、同貨物の中国・香港向け輸出高は昨年比+34%も伸びている。
7月13日付フィリピン
『マニラ・ブルティン』紙:「南シナ海領有権問題でのフィリピン・中国間緊張関係が緩和」
フィリピンと中国両国は現在、南シナ海における安全保障強化の一環で、様々な分野において、現実的な相互協力関係を構築していくことで合意している。
PCA裁定から1年を経た7月12日、中国外交部の耿爽(ガァン・シャン)報道官は定例会見で、両国が以前の関係に戻り、建設的な対話と交渉を継続していることから、両国関係は以前にも増して良好になっていると表明した。更に、同報道官は、ASEAN関係国とも同様の対応を取っていくことによって、結果として南シナ海の平和と安定が構築できるものと信じるとも語った。
同日付中国
『中国新聞電子版』:「フィリピン、南シナ海問題で“建設的な対話”を歓迎」
フィリピンのドゥテルテ政権は、PCA裁定が下ってから一周年の7月12日、フィリピンは中国と“建設的な対話、協力及び開発協議”ができる関係が構築されたことを評価しているとの声明を発表した。
この声明に答えて中国外交部の耿報道官は、フィリピンと以前の友好関係が再構築できているとした上で、中国のPCA裁定に対する方針には全く変更なく、(同裁定に依らず)領有権問題を関係国間の対話によって解決していく意向であると表明した。
一方、7月12日付米
『Yahooニュース』(
『ロイター通信』配信):「フィリピン高官、領有権争いのある海域での石油探査を年内に再開と表明」
フィリピンのエネルギー資源開発庁のイスマイル・オカンポ理事は7月12日、南シナ海のリード礁(注後記)における天然ガス・石油探査の掘削を、年内中に再開する予定であることを明らかにした。
フィリピンは同礁において探査活動を始めていたが、2014年末、当時の政権が進めていたPCAへの仲裁提訴を優先して、一時的に中断していた。そして同理事は今回、同礁の探査活動を請け負う企業の入札を今年12月に実施するとした。同理事によると、フィリピン外務省の指示の下、同海域での天然資源探査活動を再開する意向であるという。
フィリピンは急速な経済発展を遂げていく上で、輸入に大きく頼っているエネルギー資源の国内供給源の確保が重要となっており、更に、現在天然ガスの供給元として依拠しているマランパヤ・ガス田が、今後10年内に枯渇する恐れがあるからである。
(注) リード礁:南沙(スプラトリー)諸島の海域にある堆の一つ。面積8,866km2、最大水深45m。同礁付近には、天然ガスや石油等の天然資源が豊富に埋蔵されていると見られ、中国、台湾、フィリピンが主権を主張している。
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