米国務長官が5年振りに訪中した。中国外相のみならず、国家主席との面会まで漕ぎ着け、米中高官レベルの対話継続という一定程度の成果は得られた。ただ、今年初めの中国製偵察気球飛翔問題で2月の訪中を取り止める程対中批判の声を上げていたが、今回の訪中に当たって“水に流す”と発言する等、かなり譲歩している。
6月19日付
『ザ・デイリィ・コーラー』オンラインニュース、
『NBCニュース』、
『Foxニュース』は、訪中した国務長官が、今年1月発生の中国製偵察気球米本土飛翔問題について“水に流した”と発言したばかりか、中国側要求に沿って“台湾独立に反対”との意見表明を行ったと報じている。
アントニー・ブリンケン国務長官(61歳、2021年就任)は6月19日、今年初めに発生した中国製偵察気球の米本土飛翔問題について、“水に流した”と発言した。
米国務長官として5年振りの訪中を果たしたブリンケン氏が、『NBCニュース』のジャニス・マッキー・フレイヤ―北京特派員(53歳)のインタビューに答えたもので、同長官は、“その問題は終了させるべきだ”と言及している。
同長官の訪中は元々2月に予定されていたが、上記偵察気球問題で中止されていた。
国務省は当時、米中高官が直接会談して有意義な成果を上げるには“時期が悪い”と表明している。
その上、同国務長官のみならずジョー・バイデン大統領(80歳、2021年就任)も、当該事態は目に余る米主権侵害だと非難していた。
しかしながら、今回訪中した同長官は、習近平国家主席(シー・チンピン、70歳、2012年就任)のみならず王毅中央外事工作委員会弁公室主任(ワン・イー、69歳、外交部門トップ)に対しても大変慇懃の姿勢を示していた。
更に同長官は、王氏との会談で強く求められたことから、“台湾の独立に反対”である旨返答した程である。
ただ、その後に続く会見では、“中台どちらに対しても、如何なる一方的な現状変更に反対する姿勢に変更はない”とした上で、“台湾自身が自衛手段を尽くすことに関し、「台湾関係法(注後記)」に規定された対応を継続する”と強調している。
(注)台湾関係法:台湾の安全保障のための規定を含む米国内法。同法は、カーター政権(1977~1981年)による台湾との米華相互防衛条約の終了に伴って1979年に制定。台湾を防衛するための軍事行動の選択肢を米国大統領に認める。但し、米軍の介入は義務ではなく権利であるため、同法は米国による台湾への軍事介入を保障するものではない。
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中国は、国際社会から孤立させられつつあるロシアについて、表向きでは“盟友”として支持する立場を表明している。しかし、たとえロシア国有企業が関係しようとも、こと南シナ海の領有権問題は全く別とばかりに、ベトナム国有企業との共同事業体の原油・天然ガス田区画域に堂々と中国資源探査船団を送り込んでいる。
5月26日付
『Foxニュース』、
『ニュースマックス』、
『ロイター通信』等は、中国が、盟友ロシアの国有企業が関与している南シナ海原油・ガス田であろうと、中国主権が優先されるとして構わず天然資源確保のための探査活動を断行している旨報じた。
中国の海洋資源探査船“向阻紅-10(シァンヤンホン)”は5月7日より、10隻以上の随行船に守られながら南シナ海のベトナム沖の同国排他的経済水域(EEZ、沿岸から200海里、約370キロメートル)内に進入して探査活動を進めている。
同海域には、ベトナム・ロシアの共同事業体「ベトソビペトロ(注1後記)」及び「ベトガスプロム(注2後記)」の原油・天然ガス田があるが、中国船団は全く頓着せずに同事業体の区画域を自由に横断・行き来している。
前者はベトナム国営石油最大手ペトロベトナム(1977年設立)とロシア国有石油・天然ガス企業ザルベズネフチ(1967年設立)の、また後者はペトロベトナムとロシア国営天然ガス生産・供給企業ガスプロム(1989年設立)の共同事業体である。
この事態に関し、ベトナム政府は看過できないとして5月25日、中国側に対してベトナムEEZ域内より即刻退去するよう文書で通告した。
また、当該文書発信前の5月22日には、ロシア前大統領のドミトリー・メドベージェフ現国家安全保障会議副議長(57歳、2020年就任)がベトナムを訪問していた。
しかし、中国船団はそれをも無視して、5月26日に再び「ベトソビペトロ」の原油・天然ガス田区画域に進入してきている。
この件について、スタンフォード大(1891年設立の私立大学)の中国海洋進出問題研究専門のレイ・パウェル教授は、2019年以来の深刻な中国側領海侵入であり、事態が“更に悪化”することを懸念するとコメントした。
2019年には、中国船団がロシア国営石油最大手ロスネフチ(1993年設立)とペトロベトナムとの共同開発油田区画域に無断侵入し、3ヵ月以上も睨み合う事態が発生していた。
一方、中国外交部(省に相当)の毛寧報道官(マオ・ニン、50歳、2022年就任)は5月26日の定例記者会見で、“南シナ海・スプラトリー諸島(南沙)のほとんどに中国主権が及ぶ”とした上で、“海底資源探査船団は中国主権内において法に則って業務を遂行しているだけであり、他国のEEZに無断進入している等の問題は一切ありえない”と強調している。
なお、国際法上は、他国の船舶がある国のEEZ内を無害通航する場合は、それを容認することが定められている。
(注1)ベトソビペトロ:1981年にベトナム・ソ連が合意した原油・天然ガス開発共同事業体。2010年に2030年まで更に20年間契約延長に同意。2021年実績で、原油310万トン、天然ガス91万立法キロメートルを生産。
(注2)ベトガスプロム:世界最大の天然ガス生産・供給企業のガスプロムとペトロベトナムとの共同事業体。
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