中国と英国の関係は、2020年に中国が「国家安全維持法」を制定して“一国二制度”を否定する政策に転じて以降、中国による傍若無人な台湾問題や南シナ海領有権問題等を契機に益々ギクシャクしている。そうした中、中国が上演を禁止していた“モンゴル帝国劇”が海外で初めての公演となるロンドンにおいて大盛況を博したことから、中・英国関係悪化の新たな火種になるのではとみられる。
11月24日付
『CNNニュース』は、中国で上演禁止となったモンゴル制作“モンゴル・ハーン”の演劇が、初の海外公演となったロンドンにおいて大成功を収めていると報じた。
モンゴルで制作、上演されている「モンゴル・ハーン」という演劇は、約2千年前に栄えたフン帝国(4~6世紀、中央アジア・コーカサス・東欧まで支配)時代を描いた架空の皇帝物語である。
総勢70人余りの演者・踊り手・BGM奏者が繰り広げる、2時間半に及ぶ壮大な作品で、同国首都ウランバートルの550席の劇場で170公演も催されている人気演劇である。...
全部読む
11月24日付
『CNNニュース』は、中国で上演禁止となったモンゴル制作“モンゴル・ハーン”の演劇が、初の海外公演となったロンドンにおいて大成功を収めていると報じた。
モンゴルで制作、上演されている「モンゴル・ハーン」という演劇は、約2千年前に栄えたフン帝国(4~6世紀、中央アジア・コーカサス・東欧まで支配)時代を描いた架空の皇帝物語である。
総勢70人余りの演者・踊り手・BGM奏者が繰り広げる、2時間半に及ぶ壮大な作品で、同国首都ウランバートルの550席の劇場で170公演も催されている人気演劇である。
そこで人口僅か350万人のモンゴルとしては、外貨獲得のみならず同国文化芸術を広める一環で、国外での公演を画策し、まず隣国である中国の内モンゴル自治区での開催を画策した。
制作チームは、中国側への事前打診や必要な手続きを経た上で、衣装・セット・照明器具等を満載したトラックをゴビ砂漠経由開催地である内モンゴル自治区省都のフフホト(呼和浩特)まで走らせ、また、演者らは空路で現地入りさせた。
ところが蓋を開けると、次々に妨害行為とみられる不可思議な事態が発生し、結局公演は中止に追い込まれた。
同演劇のヘロ・バートル監督は『CNN』のインタビューに答えて、“内モンゴル自治区の関係者が我々を招き入れてくれたが、中国中央政府が我々を追い出した”とコメントした。
同監督は更に、“演者らは公共の場でモンゴルの衣装を身に着けることを禁じられ、かつ、フフホト滞在中は常に監視の目に曝されていた”とも言及している。
内モンゴル自治区の人口は2,400万人であるが、モンゴル系は僅か400万人であり、ほとんどが漢族で占められている。
中国中央政府は、漢族支配を徹底するためか、新疆ウィグル自治区やチベット自治区の少数民族による分離独立運動を徹底的に抑え込もうとしてきていて、その一環でウィグル族等の文化・言語を否定し漢族に同化させようとしている。
更に、かつてフン帝国やモンゴル帝国(1206~1294年)によって中国の領土が支配されていた歴史を否定したいためか、モンゴル系文化や言語の拡大を嫌気しているとみられる。
演劇“モンゴル・ハーン”の英語訳に携わったジョン・マン氏は『CNN』に、“彼らは我々の演劇を嫌ったのではなく、モンゴルの文化や言語を恐れたのに違いない”とし、“何故なら、1990年代に新疆ウィグル自治区でウィグル族の分離独立運動の激化が起こったように、我々の演劇を通じて内モンゴル自治区のモンゴル系住民に不穏な動きに発展しかねないと懸念したからだ”と強調した。
また、キングス・カレッジ・ロンドン(1829年設立の国立大学)中国研究専門のケリー・ブラウン教授は、“中国は、同演劇をモンゴルのプロパガンダと感じているとみられる”とし、“何故なら、モンゴル帝国の再編(元王朝、1279~1368年、史上最大の陸王国)という壮大な支配の歴史から、モンゴル族の演劇による影響が拡大して、ウィグル族やチベット族にもかかるプロパガンダ演劇が芽吹き、分離独立運動の再燃に発展していくことを恐れているとみられる”とコメントしている。
一方、中国における上演禁止措置とは全く反対に、当該“モンゴル・ハーン”演劇は、11月20日にロンドンの英国国立歌劇場(1904年開場)で初の海外公演が始まったが、英国の著名人らも挙って観劇に訪れる程大盛況であった。
同公演の共同プロデューサーのウヌルマー・ジャンチフ氏は『CNN』に、“先週(11月20日の週)の段階で前売り券が約60%売れていたので、英国人にとって未知の作品にも拘らずとても良い滑り出しだ”と語った。
同氏は更に、“プロパガンダであろうとなかろうと、とにかく11月20日の初公演はスタンディングオベーションで終演したことは事実であり、かつ、米国・カナダ・台湾の演劇プロモーターの人たちも観劇しており、我々としては次の海外公演の期待が高まっている”とも言及した。
本公演について、英国における大盛況の結果を中国がどういう受け止め方をするか注目される。
閉じる
11月20日付米
『CNNニュース』、豪州
『スカイニュース豪州』、
『ABCニュース』等は、豪州首相が、中国軍艦による危険な行為を糾弾したと報じている。
アンソニー・アルバニージー首相(60歳、2022年就任)は11月20日、CNN傘下の『スカイニュース豪州』のインタビューに答えて、日本海に停泊中の豪州軍艦に対して中国軍艦が行った“危険かつプロ意識に欠ける行為”によって、“1人の船員が負傷した”として非難した。
同首相は今月初め、長らくギクシャクしていた中・豪関係修復のため、豪州首脳として7年振りに訪中したばかりであった。
これに先立つ11月18日、リチャード・マールス国防相(56歳、2022年就任)が声明文を発表して、“長距離フリゲート艦「トゥーンバ」(2005年就役)に乗船していた豪州人潜水夫が11月14日、同船のスクリューに絡まった漁網を取り除こうとしていたところ、中国軍艦が危険を伴うソナー(水中を伝播する音波を用いて、水中・水底の物体に関する情報を得る装置)を操作した”とし、“事前に潜水行為を実施していると通知したのにも拘らず、中国艦による無謀な行為で潜水夫のうちの1人が軽傷を負った”と糾弾していた。
同首相は11月16日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席している習近平国家主席(シー・チンピン、70歳、2012年就任)と会談していたが、メディア側質問に対して、同国家主席に本問題について話題にしたかどうかは答えず、ただ、“本件については適切な機会に明確かつ率直に中国側に伝えており、中国側も我々の関心事をよく理解している”と付言するに止めた。
しかしながら、中国外交部(省に相当)の毛寧報道官(マオ・ニン、50歳、2022年就任)は11月20日の定例記者会見で、“中国軍は、常に高度に規律を重んじており、かつ常に国際法と国際慣行に基づいて専門的な活動を行っている”とコメントした。
その上で同報道官は、“政府関係者は中国の玄関口で悪戯に騒ぐのは止めて、中国と協力して中豪関係改善に向けて邁進して欲しい”とけんもほろろに付言している。
この問題について、スタンフォード大学(1891年設立のカリフォルニア州立大学)安全保障問題研究センターのレイ・パウウェル所長は、“中国軍艦の無謀なソナー操作の指示は誰が出したのか不詳だ”としながらも、“もし艦長が指令していたとしたら、豪州海軍の場合に照らし合わせると、同艦長は即座に解任されるか、もしくはもっと悪い懲罰が下されるだろう”とコメントした。
しかし、同所長は同時に、“中国軍においては、一切不問に付されるだろう”とも言及している。
(注1)クワッド会議:日・米・豪・印4ヵ国でつくる連携や協力の枠組み。メンバー国は、民主主義等の価値観を共有していて、それぞれ連携を強めることで、インド太平洋地域で影響力を高める中国の行動を抑えたい狙いを持つ。特に米国は、中国に対抗する上で価値観を共有する同盟国や友好国との連携を重視していて、クワッド会議を首脳レベルに引き上げて、2021年3月にオンライン形式の首脳会議を主催。同年9月には対面での首脳会議を初めて開き、今後は毎年開催することで合意。2022年5月には日本が主催。
(注2)AUKUS:2021年発足の米・豪・英の軍事同盟。米・英国は、豪州による原子力潜水艦の開発および配備を支援し、太平洋地域における西側諸国の軍事プレゼンス(影響力)を強化することを目指す。
閉じる