2022北京オリンピック;COVID-19禍の東京オリンピックが終わって、次は人権問題禍の中国大会への問題提起【米メディア】(2021/08/12)
いろいろ批判がある中で、取り敢えず新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題禍の東京オリンピックが終焉した。そして6ヵ月後に北京冬季オリンピックが控えるが、中国の人権問題が国際社会から大きな非難を浴びる中、米国高官も完全ボイコット案から外交・財務上のボイコット案まで持ち出す等、ともかく平穏に開催することへの問題提起が喧しい。
8月11日付
『デイリィ・コーラー』(2010年創刊の保守系メディア):「米国、冷戦下でのモスクワオリンピックのボイコットと違って、2022北京大会ボイコットは問題含み」
米国の高官の中には、中国政府による人権蹂躙やCOVID-19発生時の間違った対応等が、2022北京オリンピックをボイコットする十分な理由となると主張する声があるが、専門家は『デイリィ・コーラー』のインタビューに答えて、政治的・財政的な悪影響より完全なボイコットは難しいとコメントした。...
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8月11日付
『デイリィ・コーラー』(2010年創刊の保守系メディア):「米国、冷戦下でのモスクワオリンピックのボイコットと違って、2022北京大会ボイコットは問題含み」
米国の高官の中には、中国政府による人権蹂躙やCOVID-19発生時の間違った対応等が、2022北京オリンピックをボイコットする十分な理由となると主張する声があるが、専門家は『デイリィ・コーラー』のインタビューに答えて、政治的・財政的な悪影響より完全なボイコットは難しいとコメントした。
完全ボイコットを主張するニッキー・ヘイリィ元国連米大使(49歳)は『Foxニュース』への寄稿文の中で、ウィグル族への不当な扱いを含めて中国政府の人権蹂躙問題は深刻であるので、米国が選手団を派遣することは、中国政府のプロパガンダ(注後記)の正当性を認めることになる、と糾弾した。
同氏は『デイリィ・コーラー』のインタビューに答えて、“1936年ドイツ大会は、ナチスドイツのプロパガンダ高揚の場と化してしまった”とした上で、“もし今回のオリンピックがキューバや北朝鮮で開催されるとならば、当然選手団を派遣する話など考えられないはずだ”と強調した。
一方、共和党重鎮のミット・ロムニー上院議員(74歳、ユタ州選出)は『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿文の中で、オリンピック目指して長い時間努力を重ねてきたアスリートを落胆させるのではなく、同大会に幹部外交官を派遣しないとか、米企業がスポンサーから降りる等の限定的なボイコットの方がもっと効果的である、と主張している。
その他、上院超党派グループは国際オリンピック委員会(IOC)に対して、2022年冬季大会の開催地変更を申し入れている。
また、下院外交委員会は、IOCに開催地変更を求める決議案を下院議会に提出して、もしIOCが応じない場合、ボイコットも辞さじとの脅しをかけている。
このように、米国における北京大会ボイコットの話は、マイク・ポンペオ前国務長官(当時57歳)が今年1月、中国政府によるウィグル族の不当な扱いを“民族大虐殺”だと非難した頃から俄然活発化した。
ただ、専門家は『デイリィ・コーラー』に対して、中国政府からの政治的・財務的な報復が巻き起こり、ボイコットを検討している米国やその他諸国にとって、具体的な結論を出すことを難しくさせていると解説している。
オリンピックへの参加ボイコットは、1980年モスクワ大会に対して米国及び同盟国が行った。
国務省の保存公文書によると、当時のソ連軍がアフガニスタンからの撤退を拒否したことから同大会をボイコットすることになったという。
当時の記録によれば、ジミー・カーター第39代大統領(1977~1981年在任)が、モスクワに渡航しようとするアスリートのパスポートを没収すると脅したと言われる。
米保守系シンクタンクのヘリテージ財団(1973年設立)によれば、同大統領は更に、ソ連と初めて締結した米国産トウモロコシ・小麦・大豆合計1,700万トンの供給契約を破棄したという。
しかし、国連ジュネーブ事務所元米国大使で、現在NPO法人共産主義犠牲者記念財団(1994年設立)代表のアンドリュー・ブレムバーグ氏(42歳)は『デイリィ・コーラー』に対して、1980年のボイコットは、結果的にソ連よりもアスリートに大きな被害をもたらす結果となってしまったとコメントした。
その上で同氏は、同財団は完全ボイコットを主張してはいないが、開催地の変更を要求していて、“(予定どおり北京で開催されるならば)米国やその他諸国が外交トップの出席を見合わせることが最も効果的である”とし、“米放送局には、中国における人権問題を詳報し、かつ、オリンピックへの参加は、中国政府ではなくオリンピックそのものを支援しているということをきちんと伝えるよう求める”としている。
一方、自由至上主義系のシンクタンク、ケイトー研究所(1977年設立)のティム・カーペンター上級研究員は、外交上のボイコットは良い考えだとするも、“その規模や強調すべきレベルについて、米国は中国と敵対することを厭わない他諸国と協調する必要がある”としている。
同氏によれば、“特に弱小国は、中国と敵対することを望まず、また、ボイコットすることに価値を見出さないため、ボイコット運動に参加することは避けると考えられるからだ”という。
また、同氏は、スポンサー企業の撤退や広告取り止め等を求める声もあるが、企業自身がビジネス上の問題で中国ともめたくはないと考えるため、この案も難しいと分析している。
“中国側が、台湾問題や東・南シナ海での領有権問題を理由として米国産品の不買運動等を展開することに、米企業は恐れを抱いている”とする。
例えば、世界規模でスポーツ用品ビジネスを展開するナイキ(1964年設立)のジョー・ドナヒュー社長(61歳)は『CNBCニュース』のインタビューに答えて、同社は中国にもっと投資していく意向であり、中国市場を重要拠点と捉えていると強調している。
英国コンサルタント会社グローバル・データ(1999年設立)スポーツ分析部門のコンラッド・ワイアセック部門長は、“中国の現在の国際市場における地位を考えたら、どの国にとっても北京大会ボイコット運動を展開することなど難しいと考えるはずだ”と分析している。
同部門長によれば、特に中東・アフリカ・南米の多くの国が、中国との貿易や経済的支援に頼っている現状から、ボイコットへの同調を求めることは難しいという。
更に同部門長は、財務的なボイコットについても、中国市場への食い込みを目論んでいる巨大企業にとっては考えにくいとする。
そして、肝心のIOCも、2024年パリ大会、2028年ロスアンゼルス大会、更には2032年ブリスベン大会を控えていることから、中国を刺激するような対応は取れないはずだ、とも言及している。
(注)プロパガンダ:特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為の事。通常、情報戦、心理戦もしくは宣伝戦、世論戦と和訳され、しばしば大きな政治的意味を持つ。最初にプロパガンダと言う言葉を用いたのは、1622年に設置されたカトリック教会の布教聖省の名称である。ラテン語のpropagare(繁殖させる、種をまく)に由来する。
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米中間の鍔迫り合いは宇宙空間にも拡大【米メディア】(2021/07/01)
米中二大国は、貿易紛争・新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行・人権問題・南シナ海の制海権等々でことごとく対立している。そしてこの程、両国間の鍔迫り合いが宇宙空間にも拡大しようとしている。
6月29日付
『CNBCニュース』:「中国はかつて宇宙への進出など夢物語としていたが、今や火星探検ミッションを計画する程進歩」
1957年、ソ連が世界で初めて人工衛星・宇宙船スプートニク2号(イヌを搭載)の打ち上げに成功して以来、米ソ間の宇宙開発競争が激化した。
その当時、中国の毛沢東初代国家主席(マオ・ツォートン、1893~1976年)は、“中国は宇宙に芋さえ運んでいくことはできない”と述べていたという。...
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6月29日付
『CNBCニュース』:「中国はかつて宇宙への進出など夢物語としていたが、今や火星探検ミッションを計画する程進歩」
1957年、ソ連が世界で初めて人工衛星・宇宙船スプートニク2号(イヌを搭載)の打ち上げに成功して以来、米ソ間の宇宙開発競争が激化した。
その当時、中国の毛沢東初代国家主席(マオ・ツォートン、1893~1976年)は、“中国は宇宙に芋さえ運んでいくことはできない”と述べていたという。
しかし、六十有余年後の現在、習近平第7代国家主席(シー・チンピン、68歳、2013年就任)は、今月初めに同国で初めて中国独自の宇宙ステーションに到達して乗り込んだ3人の宇宙飛行士を称賛している。
毛国家主席の発言以来、中国は着々と宇宙開発を進め、人工衛星を打ち上げ、人間を宇宙に送り、そして現在は、火星に宇宙基地を建設しようと画策している。
この試みは、7月1日に創立100周年を迎える中国共産党にとって、大躍進の成功例の一つに数えられる。
かくして、かつての米ソ宇宙開発競争が、今後は米中間で繰り広げられることになる。
英国ノーザンブリア大(1969年設立の国公立大学)国際宇宙法専門のクリストファー・ニューマン教授は、“習国家主席は、宇宙開発において他先行国を追い抜き、2045年までに宇宙空間における先進国になるという「中国の夢」を実現する、と宣言している”とし、“この大方針の下、宇宙空間における世界で唯一の科学・技術大国となるべく全てを注ぎ込んでいる”とコメントしている。
<宇宙開発に挑む理由>
中国は今年3月、宇宙は“新たな技術開発を繰り広げる場所”だとし、“宇宙の起源と進化”の研究に注力していくとぶち上げた。
ロンドン宇宙法・政策研究所のザイード・モステシャー専務理事及びクリストフ・ビーチル研究員によると、これには別の見方があって、“国家安全保障や社会経済発展の分野でしのぎを削る米中両国にとって、宇宙分野での優位性確立も最重要課題であるからだ”という。
専門家は、宇宙戦争に発展する可能性は低いとしながらも、地球外での活動は地球上の軍事行動の助けになることは十分考えられるとする。
また、モステシャー及びビーチル両氏は、“米中両国は月や火星探検活動を通じて、自国民や世界に対して洗練された技術力を見せつけることで、国内及び国際社会での存在感、国家活動としての正当性並びに国際社会への影響力を高めていこうとしている”と分析している。
<中国の宇宙開発の野望>
中国の直近の技術進歩は著しい。
例えば、昨年6月には、米政府が開発・運用している全地球測位システム(GPS、1993年運用開始)に対抗して、北斗衛星測位システム(Beidou、2012年運用開始)を完成させた。
12月には、月で採取した石を持ち帰るという同国初のミッションを成功させている。
そして今年5月、前述せるとおり、自国開発した宇宙ステーションに初めて3人の宇宙飛行士を送り込むことに成功した。
更に中国は、火星探検に注力するとし、同じく5月に火星への無人宇宙船の着陸を成功させた。
そして、2033年には有人宇宙船を送り込むとも宣言している。
<米中間の宇宙における鍔迫り合い>
米中両国は、半導体から人工知能の分野において優位性を取るべく競争している。
そして、宇宙開発についても、これまでは米国が先行していたが、今後は新たに競争が激化する分野となる。
ジョージ・ワシントン大(1821年設立の私立大学)附属のエリオット国際関係大学院(1898年設立)のスコット・ペイス宇宙政策研究所長(62歳)は『CNBC』のインタビューに答えて、“宇宙開発全般では米国の優位性に変わりはないが、中国がものすごい勢いでその差を詰めてきている”とコメントした。
同所長は更に、“米国は宇宙開発政策について明確なビジョン、有能な同盟国やパートナーを有しており、中国の付け入る隙は中々ないと思われるが、今後米国が如何に迅速かつ良好な計画を立案・実行していけるかにかかっている”と付言している。
ただ、米中間の政治的齟齬・対立構造が、宇宙空間にも及ぶ可能性がある。
それは、宇宙開発に関し公平かつ責任の伴う国際ルール作りを目指して、米航空宇宙局(NASA、1958年設立)主導で昨年成立したアルテミス合意(注後記)について、米国の他に日本・英国・オーストラリア・カナダ・イタリア・ルクセンブルグ・アラブ首長国連邦が署名しているが、中国はこれに応じていないからである。
ノーザンブリア大のニューマン教授は、“地政学的な二大国の宇宙開発に関わる二極分化は、今後の人類の宇宙開発活動にとって重大な脅威となる恐れがある”とコメントした。
すなわち、同教授は、“両国間の不一致によって、スペースデブリの削減や地球外の資源の搾取問題等を解決することが益々困難になるからである”と付言した。
(注)アルテミス合意:月や火星などの宇宙探査や宇宙利用に関する基本原則を定めた国際的な合意。2020年10月に日本、米国、英国など8ヵ国の署名により成立。昨年から今年にかけて、ウクライナ、韓国、ニュージーランド、ブラジルが署名し、合計12ヵ国が合意。1967年発効の宇宙条約(中国含め130ヵ国以上が署名・批准)を踏まえ、宇宙の平和利用やスペースデブリの削減、歴史的遺産の保護、国家間の干渉の防止を求めている。
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