米政府は3月11日、30人のTikTokインフルエンサーをZOOMでのオンライン会議に招待し、ロシア・ウクライナ戦争に関する情報を共有し、情報拡散の協力を依頼した。
米
『ワシントン・ポスト』によると、ZOOM会議には、国家安全保障会議のスタッフとホワイトハウスのサキ報道官がTikTokのトップインフルエンサーたちに対して、バイデン政権のウクライナ戦争に関する戦略目標に関する情報共有を行った。
中国系ソーシャルメディアアプリであるTikTokは、何百万人ものユーザーが、ウクライナで起こっているかについての情報を得るために毎日利用している。防空壕に隠れたり、家から逃げたりしているウクライナの市民は、このプラットフォームに動画を共有しており、ロシアの侵攻について、最新の状況を確認することができる。
米政府のデジタル戦略ディレクターは、政府はTikTokがウクライナに関する最新情報の重要な情報源になっていることを認識しており、オンライン会議では「権威ある情報源」から信頼できる情報を提供したかったと述べている。インフルエンサーを通して、数百万人のTikTokフォロワーに直接情報を届けることができる。
今回、米政府は、「Gen Z For Change」という非営利の提言団体と協力し、TikTokのどのコンテンツクリエイターを会議に参加させるかを特定した。TikTokで53万4000人以上のフォロワーを持つ21歳のカーリル・グリーンは、ホワイトハウスのブリーフィングへの招待を受けたことに驚きはなかったと語っている。「ぼくの世代の人々は、すべての情報をTikTokから得ている。新しいトピックを検索し、物事について学ぶ最初の場所になっている」と指摘している。
TikTokで1050万人のフォロワーと約3億5000万件の「いいね!」を持つ10代のインフルエンサー、エリー・ザイラーは、「自分をZ世代のホワイトハウス特派員だと考えている」と述べており、重要な問題についてホワイトハウスと接触を続けていきたいと語っている。
民主党にコンサルティングサービスを提供しているプレシジョン・ストラテジーズ社の創業者テディ・ゴフ氏は、Z世代のインフルエンサーに情報発信を依頼するホワイトハウスの戦略は不可欠だと語っている。「伝統的なニュースメディアの記事は、TikTokの大物インフルエンサーが影響を及ぼす範囲に比べればほんのわずかだ。」と述べている。
米『フォックスニュース』は、バイデン政権がTikTokインフルエンサーと行ったオンライン会議の通話録音の中で、サキ報道官がガス価格の上昇は、新型コロナウイルスのパンデミックの終焉が需要の上昇を煽っていること、さらにはロシアの国際貿易における孤立が供給を遮断していることが原因だと説明していたと伝えている。会議の数日後、インフルエンサーの一人、エリー・ザイラーはさっそくその内容をそのままフォロワーに共有した。『フォックスニュース』は、サキ報道官の説明は、キーストーンXLパイプラインを中止するなど、バイデン政権の政策の責任を回避した説明となっており、それを拡散しようとしているとして批判している。
こうした中、米『ABCニュース』は、ABC News/Ipsosの新しい世論調査によると、アメリカ人はバイデン政権のロシア産原油の輸入禁止案を強く支持している一方で、バイデン大統領の経済全般、特にインフレへの対応には非常に批判的であると報じている。アメリカ人の70%は、大統領のインフレへの対処に不支持を表明している。経済回復に関しても、58%が不支持と回答しており、12ヶ月ぶりの低評価となっている。『ABCニュース』は、バイデン大統領は、さまざまな分野で不満を募らせる有権者だけでなく、緊迫したヨーロッパでの戦争への対応に迫られているとコメントしている。
また、共和党の多くの議員は、現政権が外国のエネルギー源に「過度に依存」していることや、キーストーンパイプラインの閉鎖と相まって連邦政府所有地での新しい石油とガスのリースを停止するなど就任直後の行政上の気候変動対策を非難していると伝えている。バイデン大統領は3月上旬の下院民主党会合で、「間違いなく、インフレは主にプーチンのせいだ」と述べ、サキ報道官も、今月初めの記者会見で「ガスの値段が上がっているのは、大統領がとった措置のせいではなく、プーチン大統領がウクライナに侵攻し、それが世界市場に大きな不安定を生み出しているからだ」と述べている。
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ロシアによるウクライナ軍事侵攻以降、日本国内の多くのロシア料理店等に謂れのない誹謗中傷がなされている。ある神戸市内の店では、オーナーがウクライナ人であるのにも拘らず、である。そして、「坊主難けりゃ袈裟まで憎し」という事態が欧米諸国でも発生していると報じられている。
3月7日付米
『ワシントン・ポスト』紙は、「欧州居住のロシア人シェフや生徒に謂れのない差別」と題して、ロシアによるウクライナ軍事侵攻以降、ロシア人であることだけの理由で、無差別の誹謗中傷が横行していると報じている。
まず、ロンドンに6年居住し、ロシア料理店を経営しているロシア人シェフ(50歳)は、謂れのない誹謗中傷の被害を受けていると語った。
同氏は、店の売り上げの多くを、ウクライナ人避難民の助けとなるよう赤十字に寄付しているだけでなく、インスタグラム上で“戦争を止めてウクライナから撤退せよ”と訴えているにも拘らず、店の留守番電話に、“ロシア人は人殺し”とか“お前はプーチン信奉のロシア人”だと一方的に非難するメッセージがいくつも残されるという。
ロシアにも2軒店を構え、ロシアにおける美食革命をリードしてきた同氏としては、ロシアに二度と帰れないリスクを顧みずにロシア非難の声を公にしているにも拘らず、かかる誹謗中傷に曝されることに落胆している。
同氏によれば、欧州の多くの国に暮らすロシア人に対して、無差別の誹謗中傷が浴びせられ始めているという。
確かに多くの欧州諸国政府が、ウラジーミル・プーチン大統領(69歳)や彼を支持する新興財閥に対して制裁を科しているが、社会の気運としては、著名なアイスホッケー選手からオペラ歌手に至るまで、プーチンを支持したことなどなく、かつ、ウクライナで起こっている事態に驚愕しているにも拘らず、欧州居住の多くのロシア人に対して敵意が向けられ始めている。
英国サセックス大(1961年設立の国立大学)の社会学者アレクサンドラ・ルビッチ氏は、“欧州中でウクライナ侵攻に全く関係ないロシア人居住者が標的にされ、地位等を奪われている”とし、“特に人種差別主義者によるヘイトクライムや軽蔑的なコメントに曝されている”と語った。
同氏は、ロシア人全てを一緒くたにすることは予想通りの“お決まりの行動”だと解説している。
同氏によれば、西欧人の意識の中には、東欧人は劣っているという思いがあるとし、“通常は表立つことはないが、今回のような危機的状況に接すると、瞬く間にこのような衝動的な対応に出てくる”とする。
特に、中・東欧では瞬く間に無差別非難が始まった。
例えばチェコでは、1968年にソ連軍による侵攻で全土が占領された苦い記憶が残っていることからか、ソーシャルメディアには、“ロシア人は、それと分かる標章を付けろ”との投稿が多くなされた。
また、プラハの大学で教鞭をとるある教授はロシア軍の侵攻当日の朝、ロシア人学生には授業をしないとフェイスブック上に投稿していた。
チェコのペトル・フィアラ首相(57歳、2021年就任)は、市内の小学校に通うロシア人生徒に対する中傷を非難する声明を出したが、一方で、ほとんどのロシア人に対するビザ発給停止や、既に国内に居住するロシア人の滞在条件に付いて見直すとの政策は堅持するとしている。
『ワシントン・ポスト』紙がインタビューを行った欧州在住の多くのロシア人は異口同音に、戦争の恐怖に曝されているウクライナの人たちへの同情の声で、自身への謂れのない口汚い中傷がかき消されてしまう、とした上で、第二次大戦中に米国在住の日系人が帝国日本軍と戦うために戦場へ送られたような事態が自身の身にも起こらないかと心配しているとも語っている。
6歳の時にドイツに移住してきたロシア人女性(28歳)も、“今、自分はロシア人だと言っても良いのか途方に暮れる”とコメントした。
今のところドイツ内で際立った差別は受けていないとするが、ドイツの外交政策に劇的な変更(対ロシア強硬路線)がなされていることから、間もなく彼女にも無用な非難の声が浴びせられないかと懸念しているという。
彼女は、“ロシア人は(ウクライナに進軍を指示した)ロシア政府ではないし、戦争を支持してもいない”とし、ウクライナ人救済のボランティア活動を行っている。
一方、イタリア在住のロシア人写真家(41歳)は、同国北西部レッジョ・エミリアで開催予定だった写真展が直前にキャンセルされてしまった。
彼は、ロシア人だからということではないものの、“サンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館(1764年設立の国立美術館)との共催であったことがその理由だ”と言う。
同氏は、“テロリスト国家と共催した写真展は見たいと思わない、という考えに同感する”としながらも、“ロシア人皆がプーチンや戦争を支持している訳ではないので、欧州とロシアを繋ぐ文化的な架け橋まで崩壊しないことを切望している”と述べている。
同国北東岸のウルビーノ大(1506年設立の公立大学)ロシア政治学専門のイーゴリ・ペリチアリ教授は、“当地に住むロシア人にとって今の空気はとても有害で、ウクライナ侵攻についてどう思うかと常に詰問され、(ウクライナ侵攻に関する)自身の正当性を弁明させられている”とコメントした。
また、先週末夜のロンドン・トラファルガー広場で行われたデモ行進では、“自分はロシア人で、侵略行為を申し訳ないと思う”とか、“ロシア人は戦争に反対している”とのプラカードを掲げた参加者が多くみられた。
英国のボリス・ジョンソン首相(57歳、2019年就任)は、ロシア政府と国内居住のロシア人をはっきり区別しようとしている。
同国には7万人のロシア人が暮らしているが、同首相はロシア語で、“この侵略戦争に皆さんは全く関わっていないと信じている”とツイートしている。
ロンドンで市場開発の仕事に従事するロシア出身の女性(37歳)は、今のところ友人らから責められることはないが、ロシア国内にも戦争反対の人が多くいるものの、ただ、逮捕・拘留される恐れがあるために積極的にデモに参加できないだけだと説明しているという。
ロシアの人権監視団体OVD-Info.(2011年設立)によると、ロシアでは、戦争反対の抗議デモに参加した市民が、3月6日一日だけで4,500人余りも逮捕されているとする。
一方、同日付ロシア『スプートニク・インターナショナル』オンラインニュースは、「著名文化人のコンサート等中止で言論の自由抑圧やロシア嫌いを誘発」と題して西側諸国の異常行動を批判している。
ロシアがウクライナで特別軍事作戦を遂行し始めた途端、欧州や米国でロシア人芸術家が関わった数多くの文化イベントが、軒並み中止か無期限延期に追い込まれている。
かかる動きは単なる連帯以上の仕打ちではないだろうか。
反ロシアという病的興奮が漂う中、世界で名声を博するスターが、政治的に中立の立場の人たちからも“プーチン大統領を糾弾していない”という理由で酷評されている。
直近でも、著名なオペラ歌手アンナ・ネトレプコ(50歳)が3月3日、ニューヨークのメトロポリタン・オペラハウス(1966年開業)の公演-今春のプッチーニ「トゥーランドット」及び来シーズンのベルディ「ドン・カルロ」公演から突然降板させられている。
その理由として、彼女が“ウラジーミル・プーチン大統領と立場を異にしていることを公に認めることを拒んだから”とされている。
また、彼女はイタリア・ミラノのスカラ座(1778年開業)における3月公演についても、3月1日に突然降板すると発表された。
イタリアメディアによると、スカラ座が当人の病気を理由としているというが、ネトレプコ自身はインスタグラム上で、彼女は健康そのもので降板理由は事実ではないと投稿している。
一方、ドイツ・ミュンヘンのディエター・ライター市長(63歳、2014年就任)が、ロシア人指揮者バレリー・ゲルギエフ(68歳)に対して、ロシアによる特別軍事作戦とは“一切関係なく支持もしていないことを認める”よう迫ったが、沈黙したままだったことから、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者を解雇している。
また、パリのフィラルモニ・ド・パリ(1997年開業)も、ゲルギエフ総指揮のサンクトペテルブルグ・マリインスキー劇場管弦楽団の4月公演を突然中止している。
更に、ニューヨークのカーネギーホール(1891年開業)における、ゲルギエフ指揮、ロシア人ピアニストのデニス・マツーエフ(46歳)の2月25~27日公演もキャンセルされてしまっている。
他にも多くのロシア人芸術家たちが、欧米諸国での公演を中止に追い込まれている。
ロンドンのロイヤル・オペラハウス(1732年開業)では、世界最古と言われるボリショイ・バレー団(1776年設立)の公演が中止された。
また、ポーランドでは、当局が国内管弦楽団等に対して、ロシア音楽、例えばピョートル・チャイコフスキー(1840~1893年)やドミートリィ・ショスタコービチ(1906~1975年)の楽曲演奏を禁止すると発表している。
数日前も、イタリアのミラノ・ビコッカ大(1998年設立の州立大学)が、著名なイタリア人文筆家パオロ・ノリ(58歳)によるロシア人小説家・思想家のフョードル・ドストエフスキー(1821~1881年)に関わる講義をキャンセルすると発表した。
ノリ氏は、イタリア当局の検閲によるものだとしていて、同大からは理由も告げられず講義の中止だけを言い渡されたとインスタグラムに投稿した。
ただ、その後イタリア中で本件が問題視され、後日当該講義のキャンセルは反故にされ、ノリ氏は予定どおり学生宛に講義できることになっている。
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