9月25日付英
『BBCニュース』:「南シナ海:フィリピンが沿岸部で中国の障害物を撤去」
フィリピンは、南シナ海へのフィリピン漁船侵入妨害のため中国が設置した浮揚障害物を撤去したと発表。フィリピン沿岸警備隊は、フェルナンド・マルコス大統領の指示があったとしている。
中国は、2012年スカボロー礁を支配し、300mに渡り漁業権を侵害、南シナ海の9割以上の領有権を主張している。沿岸部の行動は、「必要な対策」だったと主張している。
フィリピン沿岸警備隊は声明で、中国の行動は「国際法への明らかな違反で、航海に危険が及び、フィリピンの漁業者の漁業と生活を妨害するもの」であり、スカボロー礁は「フィリピンの国土の重要な部分」だと批判している。
フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ提督は、障害物は22日に発見された。フィリピンの船が到着した時、中国沿岸警備隊の船3隻と海事民兵船がブイを設置していた、としている。また、中国船は15回無線でフィリピン船と漁船が国際法及び中国法に違反していると批判してきたが、フィリピン船に居たメディア関係者の存在に気づき退去したという。
日本は南シナ海問題の沈静化が地域の安定に不可欠だとし、松野官房長官は定例記者会見で、「我が国は南シナ海の緊張を高めるいかなる行為にも強く反対する」としている。
南シナ海は魚介類と地下資源の宝庫で、世界の漁船の半数以上が同地域で漁業を行っている。中国の領有権主張には、フィリピンだけでなくベトナム、台湾、マレーシア、ブルネイも反発。米国は、領土権争いに仲介しない立場をとるが、「航行の自由作戦」との名目で、艦船や軍用機を派遣している。中国がスカボロー礁を掌握した後は、ドゥテルテ政権下で関係が改善し、フィリピン漁船の近海漁業が許可されていたが、昨年マルコス政権下に変わり、今年には米軍が軍事基地を使用するのを認めたことで緊張が高まった。
同日付『AP通信』:「フィリピン沿岸警備隊、領有権を争う浅瀬で中国の沿岸警備隊が設置した障害物を撤去」:
フィリピン沿岸警備隊は25日、中国と領有権を争う南シナ海で、マルコス大統領の指示に従った「特別作戦」により、中国当局が設置した浮遊式の障害物の撤去に成功したと発表。全ての障害物を撤去したのかや、中国側の反応については伝えられていない。
フィリピン当局は、スカボロー礁の礁湖への入り口への300mに及ぶ長い障害物設置を国際法への違反であり、フィリピンの主権への侵害だとして批判している。メディアへ公開された沿岸警備隊の動画には、ダイバーがロープの一部を切っている様子が映っている。
フィリピン沿岸警備隊は声明で、「国際法の遵守と漁業者や市民の権利保護に尽力していく」としている。
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12月15日付米
『Foxニュース』は、「ベトナム、米武器メーカーと折衝の背景に南シナ海で領有権を争う諸島の前哨基地拡充」と題して、長い間南シナ海の領有権問題で対立しているベトナムが、実効支配を強化すべく、南沙諸島(スプラトリー諸島)の複数の環礁を埋め立てて前哨基地を設営しており、これが俄かに米武器メーカーと折衝を進める背景とみられると報じている。
香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は12月15日、防衛・国家安全保障問題研究のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS、1962年設立、本部ワシントンDC)が取り組んでいる「アジア海洋透明性イニシアティブ(AMTI、注後記)」プロジェクトが調査した報告を掲載した。
それによると、ベトナムが2022年後半、領有権問題となっている南シナ海の南沙諸島の複数の環礁を埋め立てて、計170ヘクタール(1,700平方キロメートル)の人工島を建設したという。
埋め立て工事を済ませたのは4つの小島・環礁で、ベトナムが実効支配しているナムイエット島・ピアソン礁・サンド礁・テネント礁である。
特に、最初の2つに造られた人工島は、39ヘクタール(390平方キロメートル)にも広げられていて、大型船が停泊できる港湾設備の建設が可能となっている。
また、ベトナムはその他5つの環礁の埋め立て工事にも着手しているとする。
そのうち、バーク・カナダ礁は既に23ヘクタール(230平方キロメートル)も広げられており、まもなく大掛かりな工事が始められるようになっているという。
かかる建設工事は、ベトナムによる南シナ海領有権問題に関わる大胆な活動と言えるが、中国が2013から2016年の間に実施した、のべ1,295ヘクタール(1万2,950平方キロメートル)に及ぶ人工島建設と比べると見劣りがする。
中国は更に、これら人工島を軍事拠点化して、既に対地・対空ミサイル、電子妨害装置のみならず、軍用機離発着が可能な滑走路まで設営している。
中国はこれらを用いて、米国等が実施している“航行の自由作戦”への強烈な対抗措置を講じたりして、同海域ほとんど全てにおける領有権主張を強靭なものにしつつある。
英国メディア『ザ・ガーディアン』紙は、ベトナムが使用しているのはグラブ型浚渫機であり、“環礁を浅く掘って埋め立てを行っていることから、中国が行った浚渫・埋め立て工事より環礁の破壊度合は少ない”と報じている。
以上より、CSISのAMTI調査報告では、“ベトナムが2022年に実施した小島・環礁埋め立て工事は、南シナ海における領有権主張をより鮮明に表す意図がある”と結論付けられているが、“(この活動に対して)中国や他の領有権主張国がどういう対応を見せるのか、注目していく必要がある”としている。
なお、同海域で他に領有権を主張しているのは、台湾・フィリピン・ブルネイ・マレーシアで、ベトナムと同様中国の一方的な領有権主張に懸念を示しているが、ベトナムが主張するような、どの小島・環礁がどの国に帰属しているかとの見解には賛同していない。
一方、『ロイター通信』は12月15日、米武器メーカーのロッキードマーティン・ボーイング・レイセオン・テクストロン等がベトナム政府と折衝していて、ヘリコプターや無人攻撃機の供給について協議していると報じた。
同報道によると、これらのメーカー代表が、ベトナムが初めて開催した兵器・装備品国際展示会への参加を契機にベトナムを訪問して、軍事装備品提供の交渉を行ったという。
なお、対象品目の無人攻撃機については、今回ベトナムが南沙諸島内に築いた小規模の人工島において、周辺哨戒や対艦攻撃を想定した場合、有力な武器となるとみられる。
同日付欧米『ロイター通信』は、「米シンクタンク、ベトナムが南シナ海領有権主張で実力行使との調査報告」として詳報している。
CSIS調査報告によると、ベトナムが2022年に南沙諸島内に計420エーカー(170ヘクタール)の埋め立て工事を行った結果、同国が直近10年で実施してきた工事と併せて、のべ540エーカー(220ヘクタール、2,200平方キロメートル)にも達したという。
この結果、同国は4つの人工島を建設した上、更に他にも5つの小島・環礁で浚渫工事を展開しているとする。
ただ、“中国が、2013から2016年にかけて実施した広大な埋め立て工事面積の3,200エーカー(1,300ヘクタール、1万3千平方キロメートル)より遥かに狭い”としている。
しかし、“これまで中国が一方的に領有権を主張し、実力行動に出てきていたことに対して、今回のベトナムによる実力行使は、同海域における領有権問題で同国の主張をより強く示すことになる”とし、“今後の中国や他の領有権主張国の行動が注目される”と結んでいる。
(注)AMTI:南シナ海を航行する船舶の船籍を特定したり、中国が進める人工島の建設の様子を追ったりして、分析をウェブサイトで公開する調査プロジェクト。
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