ロシアによる突然のウクライナ侵攻は、欧米諸国の首脳はもとより国連事務総長まで声高に非難している。唯一の例外は、ウラジーミル・プーチン大統領(69歳)を盟友と仰いでいたドナルド・トランプ前大統領(75歳)が、同大統領を“天才的”と称賛したことである。しかし、共和党を含めて米議員の多くがプーチンの横暴を糾弾している。
2月24日付
『ハフポスト』紙(2005年発刊のリベラル系メディア)は、「米議員、ロシアのウクライナ侵攻を挙って非難」と題して、共和党を含めて多くの米議員がプーチン大統領の横暴を非難する声明を発信していると報じた。
まず、上院外交委員会メンバーのベン・カーディン上院議員(78歳、メリーランド州選出民主党員、2007年就任)は、“理不尽な軍事侵攻に伴い発生するであろう破壊や犠牲者は、全てウラジーミル・プーチンひとりの責任である”と糾弾した。
同じく外交委員会のメンバーながら共和党員のテッド・クルーズ上院議員(51歳、テキサス州選出、2013年就任)は、“米国は、同盟国のウクライナを全面支持する”とした上で、“侵攻を指示したプーチンらに対して、相応の反撃を行っていく”と強調した。
更に、2020年大統領選民主党候補者指名争いに名乗りを上げていたエイミー・グローシャー上院議員(61歳、ミネソタ州選出、2007年就任)は、“プーチンの自由民主主義国家への侵略が始まったので、可及的速やかに国際社会による制裁等を実行する必要がある”と訴えた。
また、テッド・リュウ下院議員(52歳、カリフォルニア州選出の民主党員、2019年就任)は、“ロシアの経済は脆弱ゆえ、制裁によって旧ソ連が崩壊したように、今回も米国及び同盟国が強烈な制裁を科して思い知らせばよい”と表明した。
一方、ドナルド・トランプ前大統領は、大統領就任前からプーチンを尊敬していたこともあってか、ラジオ番組に出演した際、“2ドル(約230円)程度のちっぽけな経済制裁などものともせず、勇敢な行動を起こしたことは秀逸だ”としてプーチンを称賛している。
これにトランプ支持者も追随して、『Foxニュース』の保守派政治コメンテイターのタッカー・カールソン(52歳)は、(ウクライナの)紛争について一笑に付した上で、“(プーチンは侵略者と評した)ジョー・バイデン大統領(79歳)こそが侵略者だ”とコメントした。
しかし、トランプの暴言には非難の声も多く、反トランプの急先鋒でもあるリズ・チェイニー下院議員(55歳、ワイオミング州選出の共和党員、2017年就任)は、“プーチンを称賛する理由など全く存在しない”と扱き下ろした。
同日付『バイパルチザン・レポート』オンラインニュース(2012年設立の左派系メディア)は、「ミット・ロムニー、ウラジーミル・プーチンを支持するトランプを非難」と題して、2012年大統領選の共和党候補者であったミット・ロムニー上院議員(74歳、ユタ州選出、2019年就任)が、プーチンを称賛したトランプをやり玉に挙げていると報じた。
ロムニー上院議員は、今週のプーチンによるウクライナ侵攻について支持するコメントを発信したトランプに対して、トランプが標榜した米国第一主義がプーチンの暴挙を招いたと糾弾した。
同議員は、彼が唱えたスローガンに導かれて、米同盟国と疎遠になり、逆に今回のプーチンの無謀な攻撃を完全に無視するような雰囲気が醸成されてしまったからだと強調した。
その上で同議員は、“プーチンやロシアから自由主義国を守るため、国際社会から抹殺するような最も厳しい罰を与えるべきだ”とした上で、“米国は今こそ、国家安全保障の拡充と国土防衛力の近代化を促進する必要がある”とも言及している。
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中国はこれまで、軍事的・経済的に大国の仲間入りをしたことを自負して、逆らう国家や反発者らに対して、恫喝や脅しの言葉をふんだんに浴びせて服従させようとしてきた。直近でも、新型コロナウィルス(COVID-19)起源調査問題を率先して提起したオーストラリアに対して、同国産物の輸入制限や文化・教育面への露骨な攻撃政策を繰り出している。しかし、習近平国家主席(シー・チンピン、67歳)がこの程、かかる“戦狼外交(注1後記)”の悪評を慮って、外交官らに恫喝や脅しと取られるような発言・表現を控えるように諭した模様である。
6月3日付
『ワシントン・ポスト』紙:「習国家主席、“愛すべき”中国に戦狼外交は似合わないと強調」
中国高官はここ数年来、自国への敵対や脅威と認められた国に対して、狂気じみた表現で警告、侮蔑、あるいは不合理な発言等で貶めてきた。
しかし今週、習近平国家主席が遂に立ち上がり、今後は恫喝など行わないよう諫めた。
『ブルームバーグ』報道によると、習国家主席が5月31日、中国高官は中国に対する国家イメージが、“信頼に足り、愛らしくかつ尊敬に値する”と捉えられるよう振舞うべきだとし、“そのためには、開放的で自信に満ち、かつ穏やかで謙虚”であるべきだと諭したという。...
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6月3日付
『ワシントン・ポスト』紙:「習国家主席、“愛すべき”中国に戦狼外交は似合わないと強調」
中国高官はここ数年来、自国への敵対や脅威と認められた国に対して、狂気じみた表現で警告、侮蔑、あるいは不合理な発言等で貶めてきた。
しかし今週、習近平国家主席が遂に立ち上がり、今後は恫喝など行わないよう諫めた。
『ブルームバーグ』報道によると、習国家主席が5月31日、中国高官は中国に対する国家イメージが、“信頼に足り、愛らしくかつ尊敬に値する”と捉えられるよう振舞うべきだとし、“そのためには、開放的で自信に満ち、かつ穏やかで謙虚”であるべきだと諭したという。
中国国営メディアの『新華社通信』が、同国家主席が政治局(中国共産党の上級機関)メンバーとの会議の席上で発言したと報道しているが、中国問題研究者からすれば俄かには信じがたい事態だとする。
ただ、直近数年間の中国に対する国際社会からの反発はすさまじく、例えば、新疆ウィグル自治区の少数民族ウィグル族への弾圧、台湾・インド(チベット族)・香港の民主活動家への高圧的取り締まり、更には、COVID-19起源に関して中国国内に燻る疑念等、悪いイメージが際立っている。
これに加えて、中国外交部(省に相当)の趙立堅報道官(チャオ・リーチアン、48歳)、世界中に派遣されている大使や外交官らは、“戦狼外交”の騎手として煙たがられている。
そして、いくつもの事例が示すとおり、彼らの過度に攻撃的な外交スタイルでは、どことも誰とも友好関係は築けないことは明白である。
実際問題、昨年10月にリリースされたピュー研究所(2004年設立の世界の世論調査を行うシンクタンク)による14ヵ国の調査の結果、ほとんどの国が中国に対して否定的に捉えていた。
中国に対する国際的なイメージの悪化は、世界からは余り評価されなかった前トランプ政権の“米国第一主義”がはびこっていた時期に起きている。
そして更に、バイデン新政権が、前政権より表現はソフトとは言え、COVID-19起源問題等で中国への非難攻勢に出ていることから、対中イメージは益々悪化するとみられる。
例えば、直近で米国から発信された、人権問題等を非難するために2022年北京冬季オリンピックへのボイコットの呼びかけについて、直ぐに立ち消えになるようにみえない。
また、中国が盛んに注力しているワクチン外交戦略も、中国製ワクチンの有効性が低いことや、新たな変異株の出現・蔓延もあって、然程世界から評価されない状況となっている。
一方、習国家主席は2016年に、中華思想(注2後記)を世界に広げていくためには、“戦争も辞さじ”と公に発言していたことから、同主席の今回の自重を促すとの発言に懐疑的な見方がされている。
香港大学(1911年設立)のジャーナリズム・メディア研究センターによって創設された中国メディア研究所(2003年設立)のデビッド・バンダースキ共同代表は、同国家主席の政治局における発言は二面性があるとみるべきで、同主席の態度豹変は非常に疑わしいと主張した。
何故なら、ウィグル族や香港への圧政や、COVID-19起源調査への妨害行為は、正に習国家主席が主導して行ってきているからである、という。
従って、中国政府の大幅な政策変更がなされない限り、中国外交官の恫喝等の行為はなくなることはあるまい、と付言している。
そこで同代表は、“西側諸国は、今後中国がどういう政策を取って行こうとするのか、注意深く見守る必要がある”と強調している。
(注1)戦狼外交:21世紀に中国の外交官が採用したとされる攻撃的な外交スタイル。この用語は、中国のランボー風のアクション映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」(中国軍元特殊部隊兵のアフリカ某国での反政府軍との戦い、2017年公開で中国の興行収入第1位)からの造語。論争を避け、協力的なレトリックを重視していた以前の外交慣行とは対照的に、より好戦的な対外政策を指す。
(注2)中華思想:中華の天子(皇帝)が天下 (世界) の中心であり、その文化・思想が神聖なものであると自負する考え方。漢民族が古くから持った、自民族中心主義の思想 。
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