ウラジーミル・プーチン大統領(70歳、2000年就任)は12月30日、習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)とオンライン会談を催し、欧米対峙という点で両国関係の重要性が増していると訴えた。ウクライナ戦争を契機に、国際社会で益々孤立を深める同大統領にとって、中国との緊密な連携が拠り所となるため、同国家主席を今春にモスクワに招待したいとまでアピールしている。しかし、今年こそ両国間の関係は緊密となろうが、ロシアの弱体化に伴い、中国の対ロシア政策が微妙に変化してくるとみる、と米メディアが論評している。
1月7日付
『ジオ・ポリティック』(2017年設立の国際問題専門ニュース)は、「中ロ関係は2023年も緊密となろうが、いつまで続くかは微妙」と題して、今でこそ中ロ関係は蜜月だが、既に中国の10分の1の経済規模となっているロシアが、ウクライナ戦争の影響で益々弱体化すると、中国の対ロシア政策は微妙に変化してくると論じている。
中ロ関係は2023年も緊密さが続くとみられるが、それ以降どうなっていくかは不詳である。
何故なら、中国が経済的にも軍事力でもロシアとは相対的に大きくなっていくことから、両国関係が不均衡になってくるからである。
ロシアは、経済規模で既に中国の10分の1になっているが、今後更に絶対値でも相対的にも弱体化してくることから、中国の軍門に降ることになろう。
(編注;国際通貨基金データによれば、「2021年世界GDPランキング」では2位中国17兆7,446億ドルに対して、11位ロシア1兆7,785億ドル)
この断言について、西側外交官の下記内容の出版物が追認する結果となっている。
すなわち、ロシア・ベラルーシの共同軍事演習「アライドリゾルブ2022」が終わったのが2月20日で、正に北京冬季大会の閉会式当日であり、ウクライナに軍事侵攻したのは4日後のことである。
そこで推測できることは、中国がロシアに対して、当該軍事侵攻を冬季大会終了後まで遅らせるようはたらきかけたことである。
両国の公式な軍事連携は昨年5月、日米豪印の四ヵ国軍事対話(クワッド会議)が開催されたことから、冷戦(1946~1989年)終結後初めてとなる双方の爆撃機の共同訓練を実施したことで復活した。
更に11月下旬、両国軍爆撃機の編隊訓練を実施し、各々の基地に着陸もさせている。
ロシア海軍が2018年9月、極東での「ボストーク(ロシア語で東方の意)」軍事演習を実施した際、中国軍の東調級情報収集艦が初めて非公式に参加していた。
しかし、「ボストーク2022」には中国軍艦が公式に参加していて、中国国営メディア『環球時報』によれば、3つの部隊が同演習に派遣されたという。
ただ、両国は、ロシアがウクライナ戦争に関わっている限り、正式に軍事同盟関係になることはないとみられるものの、クワッド会議や米同盟国、特に日本に対しては、両国の軍事連携を強化して対抗していくことになろう。
一方、ロシアは西側諸国による経済制裁に苦しめられ、特に半導体、5G(第5世代移動通信システム)等IT技術の30%余りをアジア諸国に頼らざるを得ない状況になっている。
また、ロシアで最も成功したIT企業のヤンデックス(2000年設立、IT検索エンジン最大手、ロシアのグーグルと呼称)の最高経営責任者(CEO)が、西側諸国の制裁対象とされたことからイスラエルに逃避した上で、CEOも辞任している。
以上の経緯から、ロシアがウクライナ戦争に長く関われば関わる程、ロシアの経済規模は更に衰退することになると言える。
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中国政府は、“ゼロコロナ政策”の看板は下ろしたものの失政であることは決して認めず、統計上は死者も感染者も低く抑えられているとして、いよいよ海外旅行制限を緩和することになった。これに対して、日本や欧米諸国の多くは、感染爆発が発生していると疑われることから、3年前の轍は踏まないよう、中国人旅行者の入国前検査を徹底し水際対策を強化している。しかし、観光産業復活を切望する東南アジア諸国や航空業界等は、入国制限を設けずに春節に続く大旅行シーズン中の中国人旅行客受け入れに躍起になっている。
1月6日付
『ロイター通信』は、「感染急増の中国による海外旅行解禁に備えて多くの国で水際対策強化」としながらも、観光業や中国ビジネス再興を切望する東南アジア諸国等は、入国制限を設けずに中国人旅行者を熱烈歓迎しようとしていると報じた。
世界でこれまで以上に多くの国が、中国による海外旅行解禁期日を数日後に控えて、中国人旅行者の入国前新型コロナウィルス(COVID-19)検査を徹底するとしている。
多くの中国人は、過去3年間で都市封鎖措置等による行動制限で自宅待機を強いられてきており、旅行解禁を非常に待ち望んでいた。
中国政府としては、先月発生した“ゼロコロナ政策”に対する表立った抗議運動を受けて、同政策の大幅緩和に舵を取ることとなり、1月8日から遂に旅行解禁に踏み切った。
しかし、拙速すぎる急激な政策変更に伴い、“ゼロコロナ政策”の下で総人口14億人のうちほとんどの人が感染したことはなく免疫を持っていないことから感染爆発を引き起こしたと考えられ、多くの病院に受け入れ能力を超える患者が殺到し、また薬局の医薬品在庫が払底する事態となっている。
それでも政府高官や国営メディアは、感染防止対策は万全だとし、感染者急増の事態を軽視するだけでなく、中国人旅行者に対する諸外国の受け入れ条件厳格化を非難するばかりである。
外交部(省に相当)の毛寧報道官(マオ・ニン、50歳、2022年就任)は1月6日、欧州連合(EU)が中国人旅行者の中国出発前の検査を要求するとしたことに対して遺憾の意を表した。
また、『環球時報』は社説で、いくつかの西側諸国のメディアや政治家は、中国が取る政策はそれが何であっても“全く満足しようとしない”と糾弾している。
更に、世界の航空業界も、数年間COVID-19の世界的大流行に打ちのめされていたことから、大のお得意である中国人旅行者に対する事前検査実施という政策を非難している。
一方、中国国内では市民の間から拙速な対応に疑問の声が上がっている。
上海在の70歳の高齢者が『ロイター通信』のインタビューに答えて、“制限緩和前に種々準備をする必要があった”とし、“一例を挙げれば、薬局に十分な医薬品を用意させておくとか、である”と強調した。
実際問題、葬儀場が満杯になっていたり、人工呼吸器を付けた高齢患者が病院の廊下に溢れていたりと、矛盾が露呈している。
『上海モーニング・ポスト』紙報道によると、上海の200人以上のタクシー運転手が、不足している救急車に代わって患者を病院まで搬送しているという。
そこで世界保健機関(WHO、1948年設立)の専門家も、中国政府はCOVID-19死因要件を狭義のものに変更していると疑っていて、WHO定義でいけば今年だけで死亡者は100万人以上になっているはずだとしている。
(編注;中国政府は、COVID-19死因要件を「感染後、主に呼吸が困難になり死亡した場合に限られる」としていて、高齢者や基礎疾患のある感染者が重症化して死亡した場合などを除いている。)
しかし、機関投資家らは中国政府の緩和政策を歓迎していて、直近50年で最低の経済成長率となっている年17兆ドル(約2,278兆円)規模の中国経済が復活すると楽観的にみている。
また、緩和政策に伴い不調だった不動産業界も活気づくとの期待から、1月6日の人民元が値上がりした。
更に、優良株とされるCSI300指数(注後記)及び上海総合指数とも、年初の株式市場開場週にあって2%以上値上がりしている。
これに関し、HSBC(1865年前身設立)アジア太平洋地域株式資本戦略担当部門のヘラルド・バン・デル=リンデ部門長は、“COVID-19感染急増に伴い医療体制への影響が高まる中での制限緩和は色々問題含みではあろうが、当行のエコノミストは、中国がけん引してアジア全域での経済活性化を促すことになると期待している”と表明した。
一方、香港と中国本土との往来が1月8日以降、3年振りに解放されることから、香港拠点のキャセイパシフィック航空(1946年設立)は1月5日、中国本土との航空便を昨年比倍以上に増便するとしている。
ただ、WHOは、1月21日から始まる春節長期休暇期間中の民族大移動によって、ワクチン接種率が低調な地方の小都市まで感染が拡大することを懸念している。
中国当局によると、昨年時の10億5千万人に対して、今年はのべ21億人が車・電車・飛行機・船で旅行することになると予想しているという。
かかる事態に対して、中国近隣の東南アジア諸国は、中国人旅行者が大挙訪れることを望んでいて、入国に当たって特に制限を設けていない。
ITBチャイナ(上海本拠の旅行見本市)によると、中国在旅行会社の実に76%が、旅行解禁となった際に最も人気なのが東南アジアだと認識しているという。
(注)CSI300指数:上海証券取引所及び深セン証券取引所に上場しているA株(人民元取引対象銘柄)のうち時価総額及び流動性の高い300銘柄で構成された株価指数。
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