習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)は先月、異例となる3期目続投を決めた。そこで、早速対米強硬路線を展開するためか、無謀なウクライナ戦争を仕掛けて落ち目となったロシアを見限り、アジアにおける味方を増やそうと、海洋・国境問題で長く対立しているベトナムを取り込む作戦に出ている。
11月1日付米
『ザ・ディプロマット』(2001年設立)オンラインニュースは、「習近平国家主席、訪中したベトナム最高指導者を熱烈歓迎」と題して、長らく懸案だった中・ベトナム関係改善のため、同国家主席が訪中したベトナム最高指導者をレッドカーペットを敷いて歓迎したと報じている。
ベトナム最高指導者がこの程、3日間の訪中に際して、中国側から今までにない異例な歓迎を受けている。
両国国営メディア報道によると、中国側は10月31日に中国に到着したグエン・フー・チョン共産党書記長(78歳、2011年就任)を、最高となる21発の礼砲で以て歓迎したという。
習近平国家主席は、北京の人民大会堂でチョン書記長の来訪を迎えて、握手しかつ抱擁した上で歓迎レセプションに誘った。
同書記長は、先月の第20回中国共産党大会で異例となる3期目続投を決めた習国家主席にとって、初めての国家主席訪問者となる。
両トップにとって、2017年11月にベトナムで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC、注後記)で会談して以来の再会となる。
ある事情通の情報によると、同書記長の随行団は過去に例のないほど大規模だが、更に異例なことは“公安及び国防トップが随行していること”だという。
それによると、トー・ラム公安相(65歳、2016年就任)及びファン・バン・ザン国防相(62歳、2021年就任)が随行しているという。
更に、習国家主席が、中国側の最高勲章である「中国友好メダル(2016年制定)」を同書記長に贈ったことである。
中国国営メディアの『環球時報』によれば、同メダルは“中国社会主義の近代化及び中国との関係発展に貢献した外国人に授けられる”ものだとする。
ベトナム最高指導者の訪中を最大限歓迎するに当たって、習国家主席は、中国とベトナムの共産党は、米国等の諸外国からの干渉に対して一致協力して対抗していく、と発言している。
『中国中央テレビ(1958年開局)』報道によれば、同国家主席は、“中国及びベトナムの両共産党は、人民の幸福のために全力を尽くし、社会主義の近代化を推し進め、また、両国の発展を阻害しようとする如何なる部外者の干渉にも、一致協力して対抗していく”と言及したという。
また、ベトナム国営メディアも、チョン書記長の訪中は、“両国関係の新たな発展段階”に導くものだと報じている。
しかし、これら全てのコメントは、両国共産党間関係の儀礼の一部として割り引いて捉える必要があるとみられる。
何故なら、飾り立てられた儀式の数々にも拘らず、背景にあるのは、中国と米国間の熾烈な競合関係への対抗手段だと考えられるからである。
一つ言えることは、両国間では南シナ海における領土問題やベトナムとしての対中国抵抗意識等が存在しているものの、両国政府にとって分かち合うべき共通の利益がある。
すなわち、両国共産党政権にとって、西側諸国が策謀していると考えられる(一党独裁という)体制変更や近代化の押し付けに対して、一致協力して対抗していくことが肝要だと考えられるからである。
同日付ベトナム『ベトナム・ニュース・エイジェンシー』(1945年設立の国営通信)は、「党書記長、中国から友好メダル受賞」と報じている。
チョン書記長への中国友好メダル授与式は、10月31日に北京の人民大会堂で行われた。
その際、習国家主席は、友好メダルの授与は、チョン書記長及びベトナム人民に対する中国共産党・同政府及び中国人民の感謝の証であり、新時代へ向けての中国・ベトナム両国関係の総合的発展への貢献に報いるためのものである、と表明した。
同国家主席は更に、中国側は、両国における社会主義を形成・発展させていく上で、毛沢東主席(マオ・ツゥードン、1893~1976年、1945~1976年在任)とホー・チ・ミン主席(1890~1969年、1951~1969年在任)が育てて築き上げてきた伝統ある友好関係を更に継続・発展させていくべく、チョン書記長率いるベトナム共産党と連携していくことを誓う、とも言及している。
(注)APEC:アジア太平洋(環太平洋地域)初の経済協力を目的とする非公式協議体。1989年にオーストラリアのホーク首相の提唱で、日本・米国・カナダ・韓国・オーストラリア・ニュージーランド及び当時の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟6ヵ国の計12ヵ国で発足し、同国のキャンベラで閣僚会議を開催。1993年には米国のシアトルで初の首脳会議がもたれた。非公式協議体のため、「加盟」は使わず「参加」とし、台湾・香港の参加も認められている。現在、21ヵ国・地域が参加している。今年の議長国はタイ。
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米・中国メディア報道によると、台風3号(アジア名「チャバ」)が、中国が領有権を主張する南シナ海において、洋上集合型風力発電所建設に携わっていた中国クレーン船を沈没させたという。目下、作業員30人のうち、救助されたのは僅か4人、死亡したのは12人で、残り14人の安否は絶望的である。
7月4日付米
『AP通信』:「救助隊、沈没した中国船作業員のうち生存者4人、死者12人発見・救助」
中国海事局は7月4日、南シナ海で作業中に、台風チャバの直撃に遭って沈没した中国クレーン船の作業員16人を救助したが、生存者は4人に止まると発表した。
上海海洋科技有限公司所属のクレーン船“福景001(フーチン)”は、香港の300キロメートル(186マイル)南沖で作業中、6月30日に南シナ海で発生した台風チャバの直撃を受けて、船体が二つに引き裂かれて7月2日に沈没した。
香港行政府は同日、航空機2機とヘリコプター4機を現地に派遣し、作業員の救助活動を行った結果、中国海軍艦船によって7月4日までに16人の作業員が救助されたが、生存者は4人だった。
当局によると、本船が沈没した際、台風の目に相当する海域にいたことから、救助活動は非常に困難であるため、残りの14人の安否は絶望的だという。
本船は広東省(コワントン)から請け負って、同省西端の陽江市(ヤンチアン)沖で洋上集合型風力発電所建設作業に従事していた。
同日付中国『CGTN』(1997年開局の国際ニュース放送局、中国中央テレビ傘下):「台風チャバ、本船“福景”作業員救助活動を阻害」
クレーン船“福景”は7月2日、広東省陽江市沖で船体が二つに引き裂かれて沈没した。
当局は乗船していた作業員30人の救助活動を続けているが、生存・救助されたのは4人だけで、台風チャバによる悪天候のため、引き続いての救助活動が難航している。
本船オーナーによると、台風襲来を受けて避難措置を講じたが、風速が余りにも強く、また、波も10メートルにも及び、錨チェーンが切られてしまい本船制御ができなくなったという。
なお、本船は同海域において、100基に及ぶ洋上集合型風力発電所タービン据え付け作業に当たっていた。
(参考)台風のアジア名:台風には従来、米国が英語名(人名)を付けていたが、北西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である台風委員会(日本含む14カ国等が加盟)は、2000年から、主に下に記すことを目的として、同領域で発生する台風には、共通のアジア名として、同領域内で用いられている固有の名前(加盟国などが提案した名前)を付けることを決定した。
●国際社会への情報に台風委員会が決めた名前を付けて、それを利用してもらうことによって、アジア各国・地域の文化の尊重と連帯の強化、相互理解を推進すること。
●アジアの人々になじみのある呼び名をつけることによって人々の防災意識を高めること。
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