仏メディアが見る英国離脱:ハード・ブレグジット
英国の欧州連合(以下、EU)離脱が確実となった国民投票以来、EUの単一市場と完全に決別する「ハード・ブレグジット(完全強硬な離脱/hard Brexit)」か、「英国とEU相互の譲歩で何らかの繋がりを残す「ソフトブレグジット(穏健な離脱/soft Brexit)」か、様々な議論や憶測を呼んだ。欧州理事会トゥスク理事長のように「離脱協議開始を明確にした」と歓迎する声もあるが、ポンドも急落が示す通り、フランスメディアは、英国離脱が「ハード・ブレグジット」になると断定した。次の通り報じる。
『ルモンド紙』によると、メイ首相は「交渉は極めて複雑になる」が、「残り27か国のEU加盟国と円滑な共同準備作業」と「ソフトな移行」を望むが、2017年3月までにリスボン条約第50条(*1)発動に言及した。「メイ首相には交渉の余地が殆どないと欧州は知っている。移民制限の場合、英国は欧州市場へ参入できない」上に、「交渉に強いと知られる英国相手に、欧州は多くを失う」と、「ルモンド紙」はかなりの「ハード・ブレグジット」を予測する。...
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『ルモンド紙』によると、メイ首相は「交渉は極めて複雑になる」が、「残り27か国のEU加盟国と円滑な共同準備作業」と「ソフトな移行」を望むが、2017年3月までにリスボン条約第50条(*1)発動に言及した。「メイ首相には交渉の余地が殆どないと欧州は知っている。移民制限の場合、英国は欧州市場へ参入できない」上に、「交渉に強いと知られる英国相手に、欧州は多くを失う」と、「ルモンド紙」はかなりの「ハード・ブレグジット」を予測する。「英国に対してEUが譲歩しすぎたり50条の手続き開始前に協議開始がないように」と欧州理事会と欧州委員会の指示書に既に明記されている。現段階では今後の英国とEUの関係は「自由貿易協定のカナダ型」が最有力視されている。
またメイ英首相は「単一の国家として離脱する」、「いかなる例外も認めない」事を強調し、EU残留を望むスコットランド独立派をけん制した。今後の動きとしては「2017年春の議会でのエリザベス女王演説時に、1972年に制定された欧州共同体法を廃止するために新たな法律案を提示する」ようだ。
『レゼコー紙』は「“ハード・ブレグジット”の見通しがポンドを急落させた」と報じ、市場は強く懸念する事を伝える。市場が最も恐れるのは「欧州からの移民規制にメイ首相が断固とした姿勢を取っている」ためとの見方を示す。市場が恐れるのは、「EU基本原則の一つである移動の自由を英国が放棄する代償として、残り27加盟国から不利な貿易協定を提示される」事である。交渉に強い英国といえども、英国企業や市場は先行きの不透明感に強い懸念を示す様子が浮き彫りになる。英政府もその事を認識しており、ハモンド英財務大臣は「英国企業が不確実性や不透明感に少なくとも2年間は直面する」との見方をしめし、例外的に緊縮財政を緩和する事を発表した。「来年の英国の成長はかなり停滞する」と味方を示し、「来年の英国のGDP成長率は0.7%」との分析を採用する。
『フィガロ紙』も「EUとの決別を示唆したバーミンガムの保守党大会での演説の後、ポンドは急落して3年ぶりの最安値を付けた」と報じ、「“ハード・ブレグジット”の仮説が市場に乱気流を起こした」として、しばらく「ジェットコースターのような状態」が市場で続くとの見通しを示す。
(1*)リスボン条約第50条:いかなる加盟国もEU脱退を決定できる。欧州理事会に通知し、EUとの交渉を経てEUと離脱に関する協定を締結。2年で協定を締結できず、欧州理事会が交渉延長を認めなければ、EU法の適用が停止される。
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仏メディア:ドイツECBに宣戦布告か?
欧州中央銀行(以下、ECB)とドイツの対立はドラギ総裁がマイナス金利のバズーカ砲を打ち出して以来激化した。その対立はドイツの対ECB宣戦布告を予感させる程激しくなっているようだ。フランスメディアは次の通り報じる。
仏最大経済紙
『レゼコー』は「ECBとドイツの嫌悪」と見出しをつけてドイツの怒りを報じる。「ECBはもはやドイツ連邦銀行の継承者ではない」と伝えるように、以前と違いECBはドイツ連邦銀行に追随しなくなったようだ。以前のECBは「ドイツの状況とインフレ率しか見ない」、「スペインやアイルランドに現実に存在していた実質マイナス金利を無視し続けて、不動産バブル崩壊と金融崩壊へと追いやった」、「2008年7月にECBはリーマンショック後の危機真只中にドイツインフレのために金利を引き上げた」など、ドイツの方しか向いていなかったが、現在のドラギ総裁は違う。...
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仏最大経済紙
『レゼコー』は「ECBとドイツの嫌悪」と見出しをつけてドイツの怒りを報じる。「ECBはもはやドイツ連邦銀行の継承者ではない」と伝えるように、以前と違いECBはドイツ連邦銀行に追随しなくなったようだ。以前のECBは「ドイツの状況とインフレ率しか見ない」、「スペインやアイルランドに現実に存在していた実質マイナス金利を無視し続けて、不動産バブル崩壊と金融崩壊へと追いやった」、「2008年7月にECBはリーマンショック後の危機真只中にドイツインフレのために金利を引き上げた」など、ドイツの方しか向いていなかったが、現在のドラギ総裁は違う。その象徴が量的緩和政策だ。しかしこの事は「(ドイツのECBに対する)真の開戦事由となる」と「レゼコー紙」は予言する。「かなり乱暴な対応になる可能性が高い」と懸念する。
欧州最大の経済大国ドイツは輸出国で、財政収支も均衡を保ち、高齢化対策で移民歓迎だが、ユーロ圏固有の問題を抱える。関税と通貨の統合は加盟国独自の利益を生まない。問題は「ECBが今や統合を進める必要があるが、ユーロ圏の多様性を考慮すべき」点だと「レゼコー紙」は指摘する。インフレ失敗、南欧の高失業率、慢性化した債務、安定化協定で排除される財政の自由度。だからこそドラギ総裁は非伝統的な量的緩和政策をECBは打ち出した。しかしマイナス金利下のドイツ国債金利のように、独連銀は軍資金をじわじわ減らした。
また「ドイツは反乱を開始する」と報じ、「スケープゴートは今後ECB」とECBを標的にするだろうと「レゼコー紙」は予言する。「この危険な状況は2017年にクライマックスを迎えてユーロ圏の政治的危機全てが表面化」との見通しを示す。
『ルモンド紙』は「ユーロは容易いスケープゴート」と見出しをつけ、ユーロが欧州経済機能不全の全責任を負わされる事を窘める。「単一通貨が加盟国間の成長を支えなかった」事は事実でも、「単一通貨だけで、ユーロ圏すべての機能不全を説明するのは滑稽かつ危険」と警鐘を鳴らす。「本当の原因を隠して、全ての逸脱を可能にする」。
また「ルモンド紙」によると、「国家間の不均衡を是正可能な通貨同盟の構築は愚行か?」の検証の必要性は、欧州全体が認識する。「通貨危機以来屋台骨が改善された」が、「1992年に欧州首脳が考えたような政治的統合が後から続く事」はなかった。「現在のユーロのユーロ圏は誤って機能する」。
また「ルモンド紙」は疑問点として「9月13日の演説でドラギ総裁が提起した問題点」を挙げる。「共に取り組む事は、我々ECBが期待される課題を克服する最良の方法か?」とドラギ総裁は問いかけた。ユーロ存続が使命のはずのドラギ総裁の真意はまだ分からないが、来年2017年には欧州金融界で一波乱ありそうだ。
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