ロシアは、ウクライナ軍事侵攻以来、ウクライナが“汚い爆弾”を製造しているとか、化学・生物兵器を開発している等、根拠なく主張して自国の正統性を訴えているが、国連総会での非難決議採択等、段々と支持国を失っている。そうした中、東南アジアの途上国カンボジア(国内総生産が2021年度世界108位、日本の約0.5%)が、ロシア軍が軍事侵攻の最中にウクライナに埋設した地雷を撤去するための専門家をウクライナに派遣すると発表している。
11月2日付米
『AP通信』は、「カンボジア、ウクライナに地雷撤去専門家を派遣」と題して、ロシア軍がウクライナ内に埋設した地雷撤去のため、専門家を派遣することを決定したと報じている。
カンボジア(1953年フランスより独立)のフン・セン首相(71歳、1998年就任)は、ロシア軍がウクライナ軍事侵攻の最中、同国内に埋設した地雷を撤去するため、専門家を派遣してウクライナ人を指導することに同意した。
同国外務省が11月2日に発表したもので、同首相がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(44歳、2019年就任)と11月1日に電話会談をした際、日本と協力して、地雷撤去専門家を派遣すると確約したという。
カンボジアは、1998年に内戦が終結するまでの30年近くの間、特に農村部において、とてつもない数の地雷が埋設されてしまい、市民生活が大きく支障をきたす結果となっていた。
以降、他国の支援も受けて、非常に多くの地雷や不発弾を撤去してきた。
この過程で、地雷撤去の専門家が多く育成され、国連主導の支援活動の一環として、直近10年間で数千人のカンボジア人専門家がアフリカや中東に派遣されてきている。
カンボジア地雷対策センター(CMAC、注後記)のヘン・ラタナ総裁は『フェイスブック』への投稿文の中で、日本側パートナーと打ち合わせた上で、今年12月初めに第一段を、次に第二段を来年の第一四半期(1~3月期)にウクライナに派遣することになった、と言及した。
なお、米国やドイツ等複数の国が、既にウクライナに地雷撤去支援者を派遣している。
一方、同首相は、かつて社会主義国の仲間であったロシアや中国と態度を別にして、“カンボジアは他国を侵略しようとする如何なる行為にも反対する”として、ロシアによるウクライナ軍事侵攻を非難している。
カンボジアは今年3月、国連総会におけるロシア非難決議案について100ヵ国近くの共同提案国になっているが、同じく社会主義圏の隣国ベトナムとラオスは棄権していた(編注;賛成141ヵ国、反対5ヵ国、棄権35ヵ国)。
また、先月国連総会で採択された、ロシアが一方的に宣言したウクライナ東・南部4州の併合を無効とする決議案にも積極的に賛成票を投じている(編注;賛成143ヵ国、反対5ヵ国、棄権35ヵ国)。
11月3日付カンボジア『プノンペン・ポスト』紙(1992年創刊の英字紙)は、「カンボジアとウクライナ、双方大使派遣で合意」として、両国間の連携が強化されつつあると報じている。
カンボジアとウクライナはこの程、両国間連携強化の一環で、双方に大使を派遣し合うことで合意した。
その際、フン・セン首相は、ゼレンスキー大統領からの“適切な時期が到来したら”ウクライナを訪問するようにとの招待を受諾している。
カンボジア外務省発表によると、両首脳が11月1日に電話会談した際に協議し、合意したという。
同首相は、ウクライナがまだソ連邦の一部だった1981年に訪問しており、同省によると、“会談の最後に、ゼレンスキー大統領から、ウクライナへの訪問の話が出され、フン・セン首相が応じた”としている。
首脳会談の際、同大統領からは、カンボジアが国連総会におけるロシア非難決議等に賛成したことを称賛する旨の発言がなされた。
同首相はその際、カンボジアは国連憲章及び国際法に則り、他国による如何なる侵略にも反対する旨強調している。
また、同大統領は、東南アジア諸国連合(ASEAN、1967年設立)サミットの今年の議長国となっているカンボジアが、ASEANによる3つのウクライナ支援声明採択に尽力したことも称賛すると表明した。
なお、同大統領は同首相に対して、11月にカンボジアでASEAN首脳会議が開催される際、オンライン方式にてウクライナ・ASEAN会議を設定して欲しい旨依頼しており、同首相は、前向きに他加盟国と協議すると回答している。
(注)CMAC:国連開発計画の支援で1993年に開校した、地雷撤去専門家を養成する学校。地雷・不発弾汚染大国と言われる同国では、全農村の40%、約500万人の農民が脅威に曝され、かつて毎年800人以上が犠牲。そこで、主として国連及び日米独からの支援で、CMAC卒業の専門家の人海戦術で、2015年までに「汚染影響ゼロ」を目指して活動。
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オーストラリア人のビル・クラフ氏は自身がオーナーを務める独立系英字新聞の「プノンペン・ポスト」について、広告収入の減少を理由に新しいオーナーへ同紙を売却したと発表した。新オーナーはマレーシアの投資家シバクマール・ガナパシー氏で、クアラルンプールに拠点を置くPR企業「アジアPR」を経営している。同企業はカンボジア政府とも関わっており、ウェブサイトには元顧客の名前としてフン・セン首相の名前が挙がっている。
新聞社の経営方針について新オーナーは同紙の独立性を維持する考えを示していたが、今月8日、編集長のケイ・キムソン氏の解雇が発表された。また複数の記者たちが退職したという。退職の理由について詳細は明かされていないが、記者らが自身のツイッターに投稿した情報によると、今回の同社売却の件に関する記事をウェブサイトに掲載したところ、新しい編集者らから圧力がかかり、記事を削除するよう求められたと明らかにした。
カンボジアでは今年7月に総選挙が行われる予定で、現首相フン・セン氏による独立系メディアなどへの弾圧が非難されている。AFPによると、昨年8月にはプノンペン・ポスト紙のライバル紙でもあった「カンボジア・デイリー」紙が不当な額の課税をされて閉鎖に追い込まれたとされており、今回の売却でさらに疑惑が深まった。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア担当フィル・ロバートソン氏は「カンボジアにおける独立系メディアに対する驚異的な打撃である」と述べた。同国はここ1年で自由な報道において最も抑圧的で危険な場所の一つとなってしまった。先月発表された国境なき記者団の報道自由度ランキングでは、180カ国中142位であった。
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