6月初め、麻生太郎副首相兼財務相は、“日本における新型コロナウィルス(COVID-19)の死者数が少ないのは、多くの犠牲者を出している国と比べて民度(注1後記)のレベルが違うから”と発言している。
果たして、COVID-19感染が日本より深刻な国々の民度は低いのであろうか。
6月3日付【海外から見た日本・・・No.26<各国のコロナウィルスによる影響・状況>】の中で触れたとおり、安倍晋三首相は、欧米諸国で導入された罰則付きの都市封鎖措置と違って、法的強制力のない外出自粛要請の下での感染防止対策の成果は見るべきものがあったと強調していたが、必ずしも日本の結果が突出したものではなかった。
そこで、今回の民度についても、あるいくつかの指標を以て、海外の国々と比較してどうなのかみてみたい。
因みに、6月11日午後9時半現在のOECD加盟37ヵ国のうち、COVID-19感染状況が日本より深刻な国は以下となっている(米ジョンズ・ホプキンス大学集計データ引用)。
| 感染者 | 死者 | 致死率 |
総数 | 7,403,713 | 417,174 | 5.6% |
米国 | 2,000,464 | 112,924 | 5.6% |
英国 | 291,589 | 41,213 | 14.1% |
イタリア | 235,763 | 34,114 | 14.5% |
フランス | 192,068 | 29,322 | 15.3% |
スペイン | 242,280 | 27,136 | 11.2% |
ドイツ | 186,525 | 8,770 | 4.7% |
カナダ | 98,720 | 8,038 | 8.1% |
日本 | 17,192 | 922 | 5.4% |
韓国 | 11,947 | 276 | 1.6% |
豪州 | 7,285 | 102 | 1.4% |
1.教育水準
高等教育段階には、日本の若年層の80%近くが進んでおり、OECD加盟国の中でもトップクラスである。
しかし、「大学進学率」をみると、次のようにOECD平均より低く22位に甘んじており、民度が高いレベルとは言い難い(OECD 2012年資料)。
(1)豪州96%、(2)アイスランド93%、(3)ポルトガル89%、(4)ポーランド84%、(5)NZ
80%、・・、(9)米国74%、(10)韓国71%、・・、(16)英国63%、・・、(21)スペイン52%、(22)日本51%、(23)イタリア49%、・・、(27)ドイツ42%、(28)フランス41%、・・、OECD平均62%
2.貧困
貧困者が多ければ、前述教育水準を向上させるのも難しく、犯罪率も上昇して、後述の治安にも影響してくると思われるが、「相対的貧困率ランキング」で日本の順位は、米国、韓国より多少ましなだけで、欧州のほとんどの国を下回っている(OECD 2019年資料)。
(1)南アフリカ26.6%、(2)コスタリカ19.9%、(3)ルーマニア17.9%、(4)米国17.8%、(5)韓国17.4%、・・、(15)日本15.7%、(16)スペイン14.8%、(17)イタリア13.9%、・・、(21)豪州・カナダ12.1%、(23)英国11.9%、・・、(26)ドイツ10.4%、・・、(30)フランス8.1%
3.治安
暴力に対する社会的許容度が厳しく、また、銃所持禁止制度もあって、「殺人発生率(人口10万人当たり発生件数)」では、以下のとおり非常に低く、治安は良いと言えよう(国連犯罪調査統計2017年資料)。
(1)シンガポール0.19、(2)日本0.24、(3)香港0.33、(4)韓国0.59、(5)スペイン・イタリア0.66、(7)豪州0.88、・・、(11)ドイツ0.98、・・、(14)英国1.20、・・、(17)フランス1.27、・・、(20)カナダ1.80、・・、(30)米国5.32
また、「世界平和度指数ランキング(戦死者、近隣国との関係、テロの潜在性、殺人事件数、軍人数、警官数等による指標)」でも、そこそこ評価は高いので、民度が高い一例と言えるかも知れない(英国経済誌『エコノミスト』2019年資料)。
(1)アイスランド、(2)NZ、(3)ポルトガル、(4)オーストリア、(5)デンマーク、(6)カナダ、(7)シンガポール、(8)スロベニア、(9)日本、(10)チェコ、・・、(13)豪州、・・、(22)ドイツ、・・、(32)スペイン、・・、(39)イタリア、・・、(45)英国、・・、(55)韓国、・・、(60)フランス、・・、(125)米国
4.雇用
社会基盤がしっかりしているかどうか判断する上で、その指標となる前述の貧困率については、欧米諸国に比べて悪く、民度が高いレベルにあるとは言い難いが、雇用の観点でみてみると、以下のように「失業率」が非常に低く、安定した雇用環境にあることが覗える(OECD 2019年資料)。
(1)チェコ2.1%、(2)日本2.4%、(3)ポーランド2.8%、(4)ドイツ3.1%、(5)オランダ3.3%、・・、(10)英国3.7%、(10)韓国3.7%、(12)米国3.8%、・・、(20)豪州5.2%、・・、(25)カナダ6.3%、・・、(31)フランス7.8%、(32)イタリア9.6%、・・、(35)スペイン13.9%、・・、OECD平均5.2%
なお、日本のデータには一時休業者が含まれていないため、これを含めると失業率は33、34位辺りまで落ちる可能性はある。
一方、「平均年収ランキング」をみると、日本はほぼ中間の18位で、ほとんどの欧米諸国より低く、胸を張って民度が高いと言えるレベルではない(OECD 2018年資料)。
(1)アイスランド $66,504、(2)ルクセンブルク $65,449、(3)スイス $64,109、(4)米国 $63,093、(5)デンマーク $55,253、(6)オランダ $54,262、(7)豪州 $53,349、・・、(11)ドイツ $49,813、(12)カナダ $48,849、・・、(14)英国 $44,770、(15)フランス $44,510、・・、(18)日本 $40,573、(19)韓国 $39,472、(20)スペイン $38,761、(21)イタリア $37,752、・・、OECD平均 $46,686
5.ハラスメント
民度のレベルを測るのに、ハラスメントの多少も重要なファクターになろう。国際社会科学調査機関(ISSP、注2後記)のまとめた「ハラスメント国際ランキング(職場等のハラスメント被害者の割合)」によると、日本はワースト3に位置し、とても民度が高い国とは言い難い(ISSP 2015年資料)。
(1)豪州33.3%、(2)NZ 30.5%、(3)日本26.0%、(4)フランス23.8%、(5)ベルギー18.6%、・・、(8)米国17.8%、(9)英国16.0%、・・、(16)ドイツ10.5%、・・、(21)スペイン8.4%
6.道徳観
道徳観の高さを比較するひとつの指標として、英国NGOチャリティーズ・エイド・ファウンデーション(CAF、1974年設立、本部はケント郡ウェストモーリング)が発表した「世界人助け指数(人助け、寄付、ボランティア活動)」が参考になるが、残念ながら日本は調査対象144ヵ国中128位の低さである(CAF 2018年資料)。
(1)インドネシア59%、(2)豪州59%、(3)NZ 58%、(4)米国58%、(5)アイルランド56%、(6)英国55%、・・、(15)カナダ49%、・・、(22)ドイツ46%、・・、(68)イタリア33%、・・、(72)フランス32%、・・、(128)日本22%
一方、公務員や政治家等の腐敗度をみてみると、「腐敗認識指数」上で日本は、調査対象180ヵ国中20位と悪くはない位置であるが、欧米諸国と比較して突出している程ではなく中間レベルと言えよう(国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル2019年資料)。
(1)デンマーク・NZ 87点、(3)フィンランド86点、(4)シンガポール・スウェーデン・スイス85点、・・、(9)ドイツ80点、・・、(12)豪州・カナダ・英国77点、・・、(20)日本73点、・・、(23)フランス・米国69点、・・、(30)スペイン62点、・・、(39)韓国59点、・・、(51)イタリア51点
以上6項目についてみてきたが、ある部分では欧米諸国より高い水準のものがあるものの、全体を見てみると、COVID-19感染の深刻度が高い諸国から、日本の民度が特別に高いとみられているようにはみえない。
(注1)民度:特定の地域に住む人々の平均的な知的水準、教育水準、文化水準、行動様式などの成熟度の程度を指すとされる。明確な定義はなく、曖昧につかわれている言葉。
(注2)ISSP(International Social Survey Programme):1984年、米・英・豪・独の提唱で設立された、社会科学に関わる多様な事項について調査を行う機関。本部はマンハイム(ドイツ)
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新型コロナウイルス感染を防止するためにフランス全土で取られた外出禁止措置。その影響で大きな打撃を受けた飲食業だが、6月2日からようやく営業を再開することができた。しかし、パリ首都圏のようにまだ注意が必要なオレンジゾーンの地域や街では、屋外のテラス席のみでの営業が許可されている。テラスのみでも何とか採算の取れる営業ができるよう、パリ市長がテラス面積を広げるための支援の手を伸ばした。
『BFMTV』によると、イダルゴ・パリ市長は10日、毎日午後6時と10時の間は、パリ市内の4つの通りを部分的又は全面的に車両通行止めにすることを発表した。その時間帯の間は、飲食店が路上や駐車場所など公共スペースにテラス席を設けて営業ができるようにするというものだ。現在は4つの通りに限定されているが、今後はさらに増えていく可能性がある。
なおこうした公共スペースは、無料で飲食店側に貸し出されることになっており、その使用許可の申請が既に始まっている。ただし、通行止めに関しては、主要な道路や、駐車場の出口、学校、病院、消防署、バス路線などのある通りなどは、その申請対象外となる。パリ市役所は、既に首都圏にある109のカフェやレストランから通行止め願いの申請を受け取ったという。更に追加で届いている申請も数日中に検討される予定だ。
しかし飲食業で最も大きな組合の1つ、UMIHのデルヴォー代表は『フランス3』に対し「テラスを備えているのは12,500のカフェまたはレストランだけ。そのためテラスの拡張は、すべてのお店に関係するものではない。シャンゼリゼ通りやグラン・ブールヴァールなどで展開している規模の大きな施設に適した支援だ。多くの店は十分に広げる場所を確保できない。4つのテーブルしか追加できないのであれば、再開する価値はない。更に、こうした拡張をするためにはお客様の安全を守るための設備投資が必要となる。」とコメントしている。「みんなソーシャルディスタンスを守ることなく外にいるのだから、なぜ他の地域のように全面的な営業再開にしないのか理解できない」とも述べている。
『LCI』によると、ルモワンヌ観光担当大臣は、状況の進展を見つつ、可能であれば飲食店の室内を含めた全面的な営業再開を予定されている6月22日より早い段階で許可することを検討していると発表した。
飲食店の組合UMIHは、テラスのみでの営業は業界にとっては不都合だとの声を上げているだけでなく、飲食店内でのソーシャルディスタンスの適用の緩和も求めている。ソーシャルディスタンスを適用すれば、座席数の最大60%を失う可能性があり、採算が経たないためだ。その代わりレストランやカフェでは、従業員は全員マスクを着用し、来店客用に消毒ジェルを用意する準備をしている。更には、QRコードを活用して客が自分の携帯でメニューを見て選択するという、接触を一切必要としない注文方法を導入しようとしている。
組合員の1人はLCIに対し「私たちは皆借金を抱えている、皆が事業を継続できるように銀行に融資を求めに行った。」と話し、そのため何としてでも営業を再開しなければならないと訴えている。
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