中国国営メディアの一社が、中国プロパガンダ喧伝のため、米紙に対してこれまでに1,900万ドル(約20億5千万円)近くも拠出していたことが判明した。これは、米連邦「外国代理人登録法(FARA、注1後記)」に基づいて、同メディアが米司法省宛に直近で提出した報告書より明らかになったものである。
6月9日付
『ザ・デイリィ・コーラー』保守系オンラインニュース:「中国のプロパガンダ放送局、米紙に総額1,900万ドル拠出」
中国国営メディアの一社が、プロパガンダ喧伝のため、複数の米紙宛に直近4年間で、総額1,900万ドル近くの報酬を支払っていたことが判明した。
中国共産党運営の英字紙『チャイナ・デイリィ』で、FARAに基づいて直近の活動内容を報告するために司法省に提出した報告書で明らかになったものである。
それによると、2016年11月以降2020年4月までの間、『ワシントン・ポスト』紙に460万ドル(約4億9,700万円)余り、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙には600万ドル(約6億4,800万円)近くが支払われている。
両紙は、当該報酬の見返りとして、『チャイナ・デイリィ』紙が投稿した“チャイナ・ウォッチ”なる記事を本紙の中に綴じ込み、中国プロパガンダ喧伝に一役買っていた。
例えば、2018年9月から“一帯一路経済圏構想でアフリカ諸国と連携”とのタイトルの記事を挿入し、習近平(シー・チンピン)国家主席が推す同構想を宣伝した。
また、昨年に挿入した“関税賦課で米住宅が割高に”という記事では、米政府が中国産木材に関税を賦課することによって、結局米市民に関税分の追加負担のしわ寄せがいくとアピールした。
更に、他紙には広告掲載料として、『ニューヨーク・タイムズ』紙(5万ドル、約540万円)、『フォリン・ポリシー(ワシントンDC)』紙(24万ドル、約2,590万円)、『デモイン・レジスター(アイオワ州)』紙(3万4,600ドル、約374万円)、『CQロール・コール(ワシントンDC)』紙(7万6千ドル、約820万円)宛にも支払っている。
また、『ロスアンゼルス・タイムズ』紙(65万7,523ドル、約7,100万円)初め、『シアトル・タイムズ』紙、『アトランタ・ジャーナル=コンスティテューション』紙、『シカゴ・トリビューン』紙、『ヒューストン・クロニクル』紙、『ボストン・グローブ』紙にも、記事の掲載や投稿記事印刷費用として、合計760万ドル(約8億2,100万円)の報酬を支払っている。
以上のとおり、当該報告書から分かることは、米紙に対して総額1,860万ドル(約20億900万円)、ツイッターでの宣伝費用26万5,822ドル(約2,870万円)の報酬を支払っていたことである。
今回の報告書提出は、司法省が『チャイナ・デイリィ』紙に対して何年もの間、FARAに基づいて米国における活動報告を半年に一度提出するよう求めてきた結果、この程漸く同紙が6月1日付で提出してきたものである。
なお、米国の民主活動グループはこれまで長い間、中国政府が米メディア網を駆使してプロパガンダを喧伝していると警鐘を鳴らしてきた。
フリーダム・ハウス(注2後記)及びフーバー研究所(注3後記)は特に、『チャイナ・デイリィ』紙投稿の記事によって、米メディアへの影響力駆使に努めていると警戒を強めている。
また、最近でも、『チャイナ・デイリィ』紙初め中国国営メディアが、挙って中国政府擁護に注力している。
すなわち、新型コロナウィルス感染問題で、中国政府が米国や他西側諸国より厳しく責任追及されていることから、政府高官の意を酌んで、批判の芽を逸らさせようと躍起になっている。
(注1)FARA:1938年に可決された米国の法律で、「政治的または準政治的権能を持つ」外国勢力の利益を代表するエージェント(外国のエージェント)が、その外国政府との関係及び活動内容や財政内容に関する情報を開示することを義務付けたもの。目的は、「米国政府と米国民による、外国勢力の発言と活動の評価」を容易にすること。司法省の国家安全保障局のスパイ対策室のFARA登録ユニットによって管理されている。
(注2)フリーダム・ハウス:ワシントンDCに本部を置く国際NGO団体で、1941年にナチス・ドイツに対抗して、自由と民主主義を監視する機関として設立。毎年193の国と地域に関して、「自由度や人権状況」、「報道の自由度調査」、「インターネットの自由度ランキング」のレポート等を公開している。
(注3)フーバー研究所:1919年に、後の大統領でスタンフォード大学(1885年創立、カリフォルニア州私立大学)卒業生のハーバート・フーバー(1874~1964年、第31代大統領)が大学内部に創設した、公共政策シンクタンク。同研究所はスタンフォード大学の敷地内にあるものの、同大学に付属する研究・教育機関ではない。
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5月13日付米
『フォリン・ポリシー』オンラインニュース:「中国が豪州に制裁を加える理由」
中国政府は今週初め、突然、豪州大手食肉業者4社からの牛肉の輸入を停止すると発表した。
豪州政府は先月、COVID-19感染流行問題に関し、WHOから独立した国際調査団による調査を要求している。
中国外交部(省に相当)の趙立堅(チョウ・リーチアン)報道官は、豪州による独立調査の要求とは無関係で、輸入規則上の違反行為があったからだと強調した。
しかし、COVID-19問題に関わる中国側反応は異常で、武漢(ウーハン)における透明性かつ多面的な調査を許さないどころか、中国人研究者の調査までも拒んでいる。
かかる対応より、中国側に隠そうとしている何かがある-例えば、野生動物取引規制の杜撰さや、ウィルス研究所での事故等-という疑念の他、中国自身の偏執的な体制までもが浮かび上がってきている。
<貿易制裁>
中国はこれまで、自国政策に批判的な国々に対して、貿易による制裁行為を繰り返してきている。
例えば、2010年にノルウェー政府が、中国人反体制活動家の劉曉波氏(リウ・シャオポー、1955~2017年)にノーベル平和賞授賞を決定したことに抗議して、ノルウェー産サーモンの輸入停止措置を講じている。
また、韓国政府が2016年、米国製ミサイル防衛システム設置を受け入れたところ、中国に進出する韓国企業に対して、様々な嫌がらせ行為が横行した。
そこで、豪州に対して次に考えられるのが、その他貿易全般に対するボイコット扇動行為である。
<アジアの覇権>
豪州にとって中国は、食肉のみならず資源輸出において最大の向け先である。
ただ、長い貿易関係等を通じて、豪州は中国に対して、世界に逆行するような支配的体制や、地政学的な交戦体質に嫌気を感じ始めている。
当初、豪州は、アジアにおいては人種的差別があるのかと考えてきたが、今日では、アジア覇権を進めている大国となった中国の脅威にさらされるのは、東南アジアや太平洋諸国と同じだと感じている。
<台湾等への圧力>
台湾政府は、COVID-19感染初期段階から徹底的な措置を講じて感染拡大を防いだ。
このことから、WHO加盟国から台湾がはずされている事態が、余計注目を浴びることになっている。
ただ、米議会報告にあるとおり、台湾が注目されることが面白くない中国は、予想どおり、台湾に対する圧力、特に台湾独立派への脅しを強めている。
そして同様に、香港への圧力も忘れておらず、今度は、中国国歌への侮辱行為を禁止する国歌条例に基づき、香港市民への締め付けを強化している。
<中国機密情報漏洩>
冒頭で触れたとおり、中国政府としてはCOVID-19問題に関し、国内外からの批判に対して非常に頑なな対応に出ると同時に、実情について機密保持を貫いている。
しかし、この程『フォリン・ポリシー』が中国政府の機密情報を入手した。
内容詳細については目下解析中であるが、当該情報がどのようにして漏洩したか、また、その内容の一部について、ジャーナリストのアイザック・ストーン・フィッシュ氏(『ワシントン・ポスト』紙コラムニスト)及び調査員のマリア・クロール・シンクレア氏(宇宙・先端技術開発関連研究専門)が解説している。
それによると、中国人民解放軍国防技科大学(1953年設立)関係者から入手したもので、COVID-19感染に関し、軍が得ている情報では、中国が公式に発表している感染者8万8,423人、死者4,633人という数値より、実際は遥かに多いというデータがあるという。
一説には、感染都市が230以上に及び、感染者総数も64万人超にも上ると読み取れるという。
なお、“地の掟(注後記)”が徹底されている中国において、かかる機密情報が漏洩するのは非常に稀であるが、おそらく体制不満分子が存在するとみられる。
例えば昨年、新疆ウィグル自治区において、中国政府によるウィグル族の大量強制収容問題(中国主張の再教育キャンプ)が白日の下にさらされたのも、同様と考えられる。
同日付豪州『キャンベラ・タイムズ』紙:「中国、牛肉・大麦取引での協議を拒否」
中国政府が突然宣言した、豪州産牛肉取引停止及び大麦輸入制限について、中国政府は豪州側協議要請を無視している。
サーモン・バーミンガム貿易相は5月13日、“豪州政府からの協議要請について、中国側から一切回答が得られていない”と語った。
ただ、同相は後に、中国向け輸出業者と中国税関側と直接交渉することが妥当だと言及した。
背景には、西オーストラリア州、クィーンズランド州及びビクトリア州の知事らが異口同音に、各州生産品は中国が最重要輸出先であるので、政治問題化して欲しくないとの声を上げたことが考えられる。
実は、スコット・モリソン首相が、COVID-19感染問題に関し、国際調査団派遣を主張し始めて以来、中豪関係は非常に緊迫している。
まず、駐豪中国大使が、もし豪州首相がそのような主張に固執するなら、中国側は豪州産品のボイコットもあり得ると脅した。
そしてこの程、中国側は突然、豪州産牛肉の輸入停止と、同大麦への80%関税賦課を発表したものである。
(注)血の掟:シチリアのマフィアにおける約定。沈黙の掟、オメルタの掟などとも言う。マフィアのメンバーになるための誓いをするとき、互いの親指に針を刺して血を出し、それを重ね血が交わることで一族に加わったとする儀式を行うことからこの名が付いた。これによって、いかなることがあっても組織の秘密を守ることが求められ、メンバーになるときこれを誓約する。これに反して秘密を暴露した場合は、激しい制裁が加えられる。
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