オーストラリア;いよいよ中国と一線を画す政策に転換【米・オーストラリアメディア】(2021/05/06)
かつてオーストラリアは、他のほとんどの国と同様、経済成長著しい中国との交易に頼ってきた。しかし、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題が勃発した際のオーストラリアが表明した疑念に対して、中国側が露骨に不当な貿易制限をかけたことを契機に、現政権としては、強権主義的な中国といよいよ一線を画す政策に転換し始めている。対中強硬政策を標榜している米政権としても、連携を強化しようとしているクワッド会議(四ヵ国戦略対話、注1後記)メンバーの中で、依然中国依存から明確に抜け出せない日本やインドより、オーストラリアとのタイアップを強める意向とみられる。
5月4日付米
『フォリン・ポリシー』時事ニュース誌(1970年創刊):「オーストラリア、中国と一線を画す」
オーストラリアの国防省高官及び政治家がそれぞれ、中国と一線を画す態度を明確にしつつある。
まず、ピーター・ダットン国防相(50歳)が、中国による台湾に対する様々な嫌がらせがやがて域内の衝突に発展しかねないと懸念を表明した。
その数日後、オーストラリア軍のトップだった元軍人が、(中国からオーストラリアに対する嫌がらせに辟易して)昨年、中国と戦闘を交える“可能性が高い”と警告したことを明らかにしている。...
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5月4日付米
『フォリン・ポリシー』時事ニュース誌(1970年創刊):「オーストラリア、中国と一線を画す」
オーストラリアの国防省高官及び政治家がそれぞれ、中国と一線を画す態度を明確にしつつある。
まず、ピーター・ダットン国防相(50歳)が、中国による台湾に対する様々な嫌がらせがやがて域内の衝突に発展しかねないと懸念を表明した。
その数日後、オーストラリア軍のトップだった元軍人が、(中国からオーストラリアに対する嫌がらせに辟易して)昨年、中国と戦闘を交える“可能性が高い”と警告したことを明らかにしている。
これまでオーストラリアは、米国と非常に長い間同盟関係にありながら、一方で中国との経済関係を重視する方針を取ってきた。
しかし、ここへ来てのオーストラリアの軍事費増額や中国に対する敵対的政策に対して、米政権としても、外交及び軍事面での関係強化という形でオーストラリアの姿勢に報いようとしている。
米同盟国の中には、フィリピンのように、中国の領土拡大の覇権主義と経済の優位性の両面からの対応に負けて、どっちつかずの政策を取る国もある。
ロドリゴ・ドゥテルテ大統領(76歳)は、南シナ海の自国領有権が踏みにじられようとしても、軍部や国民の意図に反して、習近平国家主席(シー・チンピン、67歳)に言い寄ってきているからである。
ニュージーランドも、機密情報ネットワーク“ファイブ・アイズ(FVEY、注2後記)”加盟国であるにも拘らず、中国の一方的な海洋進出を表立って非難することで、中国との貿易関係に影響が出ることを嫌がっている。
しかし、今回のオーストラリアの対中政策は本腰を入れたものとみられる一方、果たして今後どういう方向に向かうことになるかの試金石となる。
トランプ政権下で、国防総省次官補(東アジア担当)を務めていたハイノ・クリンク氏は、“坑内炭鉱に入る時のカナリアの役目(有毒ガスが湧出していないかの確認手段)”となると解説している。
同氏は、COVID-19感染初期の段階での問題提起や、南シナ海進出を問題視してきたオーストラリアに対して、“中国は露骨にオーストラリアを懲らしめる政策に打って出ている”とし、“この報復政策は、オーストラリア以外の国にも向けた中国の明確なメッセージだからだ”と言及した。
すなわち、COVID-19原因特定のための独立した調査団の中国派遣を主張したオーストラリアに対する懲罰的行動は、中国の古いことわざ“猿を脅すなら目の前で鶏を殺せ”に倣ったもので、他の国がオーストラリアに続いて、調査団派遣を言い出さないように脅しをかけたと考えられる、という。
特に、これまでオーストラリアが輸出先としての中国に負うところは大きく、主要貨物である鉄鉱石・石炭・大麦・小麦・ワイン・羊等に対する中国の輸入制限や懲罰的関税賦課に伴う損失は、昨年30億ドル(約3,240億円)にも上り、同国経済に深刻な打撃となっている。
ただ、更に深刻とみられるのは、今後も成長著しい中国市場へのアクセスが制限されかねいないことと、直近で中国政府がオーストラリア・ワインに対して今後5年間、懲罰的関税を賦課することを決定したことである。
しかし、かかる仕打ちにもめげず、オーストラリアは中国の同国への投資事業1,000件余りを見直していて、最近の動きとして、中国が主導した“一帯一路経済圏構想(OBOR)”の下で締結されたビクトリア州政府と中国との覚書を破棄する行動に出ている。
この行為は、中国にとって侮辱と取られていて、対オーストラリア政策が更に厳しくなることが懸念される。
そこで、米政府が、中国からの様々な圧力に屈しないよう、如何にオーストラリアを支援できるかにかかってくる。
ただ、米議会は2017年、韓国が米国製ミサイル防衛システム(終末高高度防衛ミサイル、THAAD)採用を決めたことに立腹した中国による対韓国経済制裁が行われた際、韓国を支援しなかったという苦い経験がある。
そこで、米新政権としては、年内にも米・オーストラリア国防・外相会議(2+2)を開催し、70年に及ぶ両国同盟関係を更に盤石化するべく行動に移す意向である。
5月5日付オーストラリア『ジ・アドバタイザー』紙(1858年創刊):「モリソン政権がビクトリア州・中国間のOBOR覚書破棄したことで、オーストラリア産鉄鉱石の中国向け輸出が更に打撃」
スコット・モリソン首相(52歳)は先月、対中強硬政策の一環で、中国が推進しているOBOR下で締結されたビクトリア州政府・中国間の覚書を破棄する決定を行った。
これに伴い、これまで以上に中国側から、対オーストラリア報復措置が講じられることが懸念される。
ただ、AMPキャピタル(1849年設立のグローバル資産運用会社)が5月5日にリリースした地政学的リスク分析報告の中で、同社チーフエコノミストのシェーン・オリバー氏は、両国間の緊張関係は、既に2018年にオーストラリアが米国に追随し、同国の第5世代移動通信システムに中国製品を入れないと決定して以来高まってきていると分析している。
そして、中国の表立った対オーストラリア強硬策が、2020年にオーストラリアがCOVID-19原因特定のために独立系調査団の中国派遣を主張したことを契機に始まり、鉄鉱石・石炭等鉱物資源の輸入制限や食物類への懲罰的関税賦課が行われているとする。
その上で、同氏は、現政権のOBOR関連覚書破棄によって、中国による取引停止や追加関税賦課措置が益々エスカレートすると懸念している。
しかし、現政権はかかる懸念をものともせず、ダットン国防相が今週、同国北端のダーウィン港が中国企業と締結している長期リース契約を無効化することを検討していることを明らかにしている。
(注1)クワッド会議:非公式な戦略的同盟を組んでいる日・米・豪・印の四ヵ国における会談で、二ヵ国同盟によって維持。対話は2007年当時、安倍晋三首相(当時53歳)によって提唱され、その後ディック・チェイニー副大統領(同67歳)の支援を得て、ジョン・ハワード首相(同68歳)とマンモハン・シン首相(同75歳)が参加して開催。対話は、インド南西端で毎年開催されるマラバール演習(四ヵ国合同演習)の実施に繋がっている。
(注2)FVEY:1946年に、当時のソ連と東欧の衛星国に対する監視を主な目的として米英間で機密協定が交わされ、後にカナダ(1948年)、オーストラリア、ニュージーランド(両国とも1956年)が加わって結成された英語圏五ヵ国の機密情報共有ネットワーク。2010年に英国政府通信本部が創設文書の一部を公開したことで、初めて公式に機密解除となり、その存在が公に明らかとなっている。
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米メディア;北朝鮮は中国と連携強化もその核の傘に収まろうとする程中国を信用せず、と論評(2020/08/27)
北朝鮮は、長い間の国連制裁で国内経済は疲弊している。そして、今回の新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題に加えて夏季の集中豪雨の被災で、青息吐息となっているとみられる。そこで、金正恩(キム・ジョンウン)委員長としては、国連制裁を骨抜きにして中国からの支援を是非とも仰ぎたいところであろう。しかし、ある米メディアは、かかる状況下であっても北朝鮮は、自国の核開発を投げ出して中国の核の傘に収まろうとする程、中国を信用してはいないと論評している。
8月25日付
『フォリン・ポリシー』オンラインニュース(1970年創刊の国際政治・外交専門紙):「北朝鮮は中国が守ってくれると信じておらず」
金正恩委員長と習近平(シー・チンピン)国家主席は2018年3月、初めて首脳会談を持ち、公式発表では、平和、非核化、産業、経済開発、両国間関係強化について協議した。
もちろん、同盟関係にある両国ゆえ、上記の話題は容易に想像できる。
しかし、実際のところ、両国はそれ以上に張りつめた関係にあると言える。...
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8月25日付
『フォリン・ポリシー』オンラインニュース(1970年創刊の国際政治・外交専門紙):「北朝鮮は中国が守ってくれると信じておらず」
金正恩委員長と習近平(シー・チンピン)国家主席は2018年3月、初めて首脳会談を持ち、公式発表では、平和、非核化、産業、経済開発、両国間関係強化について協議した。
もちろん、同盟関係にある両国ゆえ、上記の話題は容易に想像できる。
しかし、実際のところ、両国はそれ以上に張りつめた関係にあると言える。
すなわち、北朝鮮は当然中国が自国側に立ってくれることを歓迎しているが、だからと言って、安全保障問題まで中国に依拠しようとは考えていない。
従って、彼らには非核化など全く頭にないことである。
米国は、長い間の戦略で、韓国及び台湾の核保有の可能性を潰してきた。
また、日本に対しては、日米安全保障条約という確たる約束の下、米国の核の傘に収まることを了承させてきた。
かかる例からすると、北朝鮮が大国となった中国の核の傘に収まることも十分考えられるが、唯一、北朝鮮そのものがこの考えに賛同することはない。
確かに、朝鮮戦争(1950~1953年)の間に、血の同盟を結んだ中国の参戦を得て北朝鮮は助かった。
しかし、米国と日本・韓国との同盟関係と、中国と北朝鮮の同盟関係は明らかに違う。
それは、“主体思想(注1後記)”及び核抑止力保持という基本的理念が根底にあるからである。
主体思想は、北朝鮮を建国した金日成(キム・イルソン)国家主席(1912~1994年)が、1960年代の自国が置かれた苦しい状況から、自主性維持が基本的理念として重要であるとして生み出したものである。
そして、この理念を受け継いだ金正日(キム・ジョンイル)総書記(1941~2011年)が、内政、外交、経済開発、更には国防においても自主性維持を貫き、発展させてきた。
中国は、かつての王国がしばしば朝鮮半島を制圧しており、近代においても影響力を行使してきた。
確かに中国は、朝鮮戦争の際は北朝鮮を支援したが、文化大革命(1966~1976年、注2後記)の時代には、北朝鮮に攻め入っている。
また、現代においても、中国は国連の対北朝鮮制裁を支持している。
かかる背景より、北朝鮮にとって、中国は主体思想の例外とは到底考えられず、従って、どんなに経済連携が強化されようとも、それとは逆説的に、北朝鮮は中国の核の傘に収まることに強く抵抗しよう。
金正恩委員長は、“並進路線(ビュンジン路線)”という、経済開発と軍事力強化を並行して取り組む方針を掲げている。
従って、経済不況に陥って、中国への依存度が高まったからと言って、軍事面でも中国に依拠しようということにはならず、むしろ逆に、より軍事的自立が必要と考えているようにみえる。
具体的事例は以下の三つ。
●韓国政府が2016年、中国の反対を押し切って米国製終末高高度ミサイル防衛システム(THAAD)配備に合意。これに反発した中国政府は、同システム配備場所を提供したロッテ・グループの中国国内商業活動を徹底的に妨害して、撤退させただけでなく、官民を挙げて韓国製品ボイコット、韓国旅行の制限等、意趣返しのオンパレード。この結果、韓国の国内総生産(GDP)は▼0.5%減。
●COVID-19感染流行が囁かれ始めた1月、北朝鮮は、いの一番に同感染症発症地の中国との国境封鎖を決定。この結果、3月時点での対中国貿易高は前年比▼91.3%急落となり、経済不況を益々促進。
●金正日総書記が推進した核兵器開発を金正恩委員長も継続し、国連常任理事国5ヵ国及びインド・パキスタン・イスラエルの核保有国から成る核クラブの一員となる。その結果、経済規模が世界120位前後の小国(米国の1千分の1以下)が、米国、中国、ロシア、日本、韓国等先進国からも一目置かれて外交交渉が可能な国に格上げ。
以上より、北朝鮮にとって生死に関わる程重要と位置付けられる核抑止力を放棄して、信用に足るとは思われない中国の核の傘に収まることなど決してあり得ないと考えられる。
(注1)主体思想(チュチェ思想):北朝鮮及び朝鮮労働党の政治思想。この思想は、中ソ対立のはざまで、自国の自主性維持に腐心する金日成が、「我々式の社会主義」に言及する中で登場し、1972年の憲法で「マルクス・レーニン主義を我が国の現実に創造的に適用した朝鮮労働党の主体思想」と記載されるに至っている。
(注2)文化大革命:中国共産党中央委員会主席毛沢東(マオ・ツォートン)主導による文化運動。名目は「封建的文化、資本主義文化を批判し、新しく社会主義文化を創生しよう」という文化の改革運動だったが、実際は、大躍進政策の失敗によって国家主席の地位を劉少奇(リウ・シャオチー)党副主席に譲った毛主席が自身の復権を画策し、紅衛兵と呼ばれた学生運動や大衆を扇動して政敵を攻撃させ、失脚に追い込むための官製暴動であり、中国共産党内部での権力闘争だった。
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