仏メディアが見る米大統領選の迷走:変わらぬトランプ人気の不思議(2016/10/28)
11月8日に投開票が行われる米大統領選は迷走する一方だ。クリントン候補が優勢とされるも献金疑惑の浮上で不安定さをみせ、差別発言で支持率を落とすも人気を保つトランプ候補。投資家筋では、夫と共に中国に広い人脈を持つクリントン候補で実は決まりだが、バブル経済崩壊後の中国に狙いを定めた政策を隠すための茶番劇、という見方すらある。この一部投資家の見解はともかく、暴言や差別発言を繰返しても続くトランプ支持が、世界中の目に奇妙に映る事は間違いない。仏メディアはトランプ人気の不思議を改めて読み解く。
『レゼコー紙』は社説で「ドナルド・トランプに投票する三つの理由」と見出しをつけて、依然として不動の支持を維持する理由を分析し、恐らく世界中が不可解に感じる点を要約する。「女性蔑視、外国人排斥、民衆扇動、無知で知られ、不動産開発という名の賄賂やカジノによるマフィアとの関係で巨額の剤をなした人物」が「世界最強かつ民主主義発祥の国の一つ」において「5千万近い米国民がトランプ氏に投票する」事である。
まず、現行の政治システムの拒否を挙げる。...
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『レゼコー紙』は社説で「ドナルド・トランプに投票する三つの理由」と見出しをつけて、依然として不動の支持を維持する理由を分析し、恐らく世界中が不可解に感じる点を要約する。「女性蔑視、外国人排斥、民衆扇動、無知で知られ、不動産開発という名の賄賂やカジノによるマフィアとの関係で巨額の剤をなした人物」が「世界最強かつ民主主義発祥の国の一つ」において「5千万近い米国民がトランプ氏に投票する」事である。
まず、現行の政治システムの拒否を挙げる。既に多くのメディアで報じられた通りだ。「米国人は既存の政治体制や秩序を疑い、トランプ氏はこの既存の体制を非難攻撃する事に依存する」。人民のための人民による政府を謳う叩き上げの不動産王は米国民の心をつかみ、弁護士で元大統領夫人、大臣まで務めたクリントン候補は、エリート主義への拒否感をより感じさせたと見る。「特に金融危機以来、米国は経済回復はおろか、既存の価値観を壊したと、特に白人中産階級は感じている」。トランプ支持層とそのまま重なる。確かに上位3%が富の54%を牛耳る米国は、もはやアメリカンドリームの国とは言えない。
『ルモンド紙』も、大卒資格を持たない人達のトランプ人気が突出する事に触れている。
また「レゼコー紙」によると前述の「既存の体制と秩序」にはメディアが含まれ、興味深いデータを掲載する。
『YouGov』の世論調査で「トランプ支持者の23%しかジャーナリストや政治の専門家を信頼しない」のに対し「クリントン支持者は89%が信頼する」。また米メディアのトランプ批判の異例ぶりも目を引く。
『USA Today』は1982年の創刊以来初めて「トランプ氏に投票しないよう読者に助言」した。1857年創刊の月刊誌
『The Atlantic』は「クリントン候補への投票を呼び掛けた」が、1964年のジョンソン候補と、1860年のリンカーン候補の例外を除いて、「常メディアが回避してきた」事だと驚きを隠さない。
『フィガロ紙』も「メディアと対決姿勢を強めたメディア王」と報じ、既存の体制や秩序と決別する構図作り上げた事に勝因の一つを見る。
トランプに惹かれたのは最貧困層ではなく、「中国製品、メキシコ系移民、黒人、女性、機械化」によって雇用を失う恐れをもつ「小市民の白人」である。さらに「エリートを拒絶する小市民は、強引で黒いやり方でもやり手のビジネス手腕にも期待を寄せる」。この点はフランスを始め欧米各国でみられる傾向だと
『レゼコー紙』は懸念も示す。
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仏メディア:カレー移民キャンプ閉鎖(2016/10/26)
フランスのカレー市で「ジャングル」と呼ばれる移民キャンプ閉鎖に伴い、280の各地難民センターへの移送が開始された。フランスメディアの報道から、切羽詰まった苦肉の措置だった事や、時代の変化に伴うフランスの移民政策が欠けている事が浮き彫りになる。フランスメディアは次の通り報じる
『ルモンド紙』が移民キャンプ閉鎖は、多数の機動隊が周辺に配置されたが、穏やかに予定通り進んだようだ。抵抗があるとすれば小屋等の解体が進む週末との見通しを示すが、暴動がないのは受入れ先が今ほど劣悪な環境ではないからかもしれない。
「ルモンド紙」によると、受入れ先の移民センター(以下、略称CAO)は、しばしば地元団体が管理を委託され、移民一人当たり一日25ユーロの予算が国から出る。ここで医師の診断を受け宿泊食事が提供され8割が亡命申請支援を受ける。...
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『ルモンド紙』が移民キャンプ閉鎖は、多数の機動隊が周辺に配置されたが、穏やかに予定通り進んだようだ。抵抗があるとすれば小屋等の解体が進む週末との見通しを示すが、暴動がないのは受入れ先が今ほど劣悪な環境ではないからかもしれない。
「ルモンド紙」によると、受入れ先の移民センター(以下、略称CAO)は、しばしば地元団体が管理を委託され、移民一人当たり一日25ユーロの予算が国から出る。ここで医師の診断を受け宿泊食事が提供され8割が亡命申請支援を受ける。保護者のいない未成年者はCAOには行かず、カレーで登録手続きを行い未成年かどうか見極めたうえで、英国の受け入れ先1200に行くかどうかを決める。フランスでは、難民認定がなければ就労できないが、逆に亡命の「申請者」は生活必需品に加え日当6~7ユーロを受給できて、無料の語学コースを受けられる。申請前は受けられない。通常3~5か月間CAOに滞在し今後を考える時間を得る。
一方で各地の紛争で亡命申請数が2015年からフランスで激増してCAOは飽和状態となった。手続きは麻痺状態にも関わらず、仏政府は各CAOに無理やり割り当て数を送りこんだ。「ルモンド紙」は「政府は実に性急に事を進めた」と報じる。仏政府に「ジャングル」のイメージ払拭と再構築阻止を求める圧力は多大だった。2017年大統領選、移民排斥の極右政党の台頭を前に、オランド政権はやむにやまれぬ決断をせざるを得なかった。
『フィガロ紙』は、カレーの現象を「法治国家としてのフランス共和国の失敗」と「欧州の無策」を示すと厳しく批判する。「EUの外部国境の崩壊」を意味すると指摘する。2015年の大量流入時に移民政策の骨子もなく手を差し伸べる事を促したメルケル首相やユンケル欧州委員長の宣言がその引き金となったとも指摘する。また欧州は「移民手引きの不正取引を整理出来なかった」事が最大の失敗とするが、欧州が一致すればまだ間に合うと期待する。
「フィガロ紙」が痛烈に批判するのが、「ここ数年仏政府がカレーの無法地帯の拡大を放置した」だけでなく、「既に飽和状態のCAOに、突然強制的に割り当てて送り込んだ」事は、「移民に関する法律施行を放棄したも同然」と指摘する。
そもそも、カレーの移民は英国を目指していたが、英国が英仏海峡トンネルの出口を封鎖したためカレーに留まっていた。「シェンゲンにより、フランスはあらゆる手段で英国の国境を守る事に努めて、カレーをジャングルに変えた」事に対する反感が今回は強い事を示唆する。また、英国を目指す移民の多くは難民というより経済移民であると指摘する。難民と経済移民の線引きは難しいが、現実に対応した明確な枠組みを早急に見直す必要がある。
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