OECD予測:刺激策推進と保護主義警戒(2016/11/30)
経済協力開発機構(以下、OECD)が今年の世界経済成長率を2.9%見込めるとし、僅かながら回復した事を発表した。またOECDは保護主義が公的資金投入の効果を薄れさせるとして警戒すると共に財政刺激策を後押しする姿勢を示した。仏メディアはOECDの見通しと今後の動向を次の通り読み解く。
『フィガロ紙』は、OECDの見通しについて、「トランプ氏の約束にあるような財政刺激計画の恩恵で2018年から僅かながら回復が始まる」が、「保護主義の危険性には警告」と、トランプ新大統領の影響と関連づける。OECDは世界経済成長の予測を殆ど変えず、2016年は2.9%、2017年は予測より0.1%高い3.3%。また2018年から3.8%に達すると見込めるのは、トランプ新大統領の公約や日本の黒田バズーカ効果と見る。...
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『フィガロ紙』は、OECDの見通しについて、「トランプ氏の約束にあるような財政刺激計画の恩恵で2018年から僅かながら回復が始まる」が、「保護主義の危険性には警告」と、トランプ新大統領の影響と関連づける。OECDは世界経済成長の予測を殆ど変えず、2016年は2.9%、2017年は予測より0.1%高い3.3%。また2018年から3.8%に達すると見込めるのは、トランプ新大統領の公約や日本の黒田バズーカ効果と見る。OECDが2018年以降の見通しを示したのは初めて。
「フィガロ紙」は「トランプ氏投資計画のインフラ改善用5500億ドルをOECDや国際通貨基金(以下、IMF)が好材料と受け取った 」、「大規模投資計画に世界経済回復の原動力を見出す」と報じ、トランプ新大統領後の米国でも「回復は主に米国が支える」現状を浮き彫りにする。
『レゼコー紙』は、「2016年2.9%、2017年3.3%と控えめなGDP成長予測を出していたOECDにとって公共支出を増加させることは不可欠」とし、財政刺激策を肯定するOECDを支持する。「世界的な成長回復のための財政刺激策の余裕は全くないと考える事は誤り」、「超低金利かつ超緩和の現在の金融政策が、財政予算上の取組みを発揮できるような機会を生む」とするOECDチーフエコノミストの見解に肯定的。また「5年間財政赤字削減に取り組んで、公的負債の国内総生産(以下、GDP)比率は安定した」ことから、公的支出が増加しても「長期的にはGDP比率に影響は出ない」見る。
さらに、財政刺激策をよりどころにしているOECDが、貿易に関して強いメッセージを出すのは当然である「レゼコー紙」は評し、「貿易戦争回避」への提言は今後も続くとみられる。現に「保護主義貿易とそれに対する報復措置が、グローバルにしろ各国にしろ、財政刺激策の効果を半減させる」として貿易戦争回避を強く求める。
「レゼコー紙」によると、OECDは各国に次の事を求める。チリ、ギリシャ、メキシコ、トルコには教育システム改善を、独英伊には研究開発支援を増加を、仏と伊には政府機関の効率化を奨励する。
また「AFP通信」によると、各国についてOECDは、後退か僅かな回復の予測を出す中で、インドだけは強い成長率を維持すると予測する。2016年は7.4%、2017年は7.6%、2018念は7.7%と見積もる。中国も2017年には6%台を維持しつつもじりじり後退する。英国については、ブレグジットのマイナス影響の味方を変えず、2016年2%、2017年1.2%、2018年1%と悲観的な見通しを出す。
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仏メディア:ローマ法王中絶に赦免を認める(2016/11/25)
中絶はその是非をめぐり度々政治論争を引き起こした。保守的なカトリック国や南米では、多くが中絶は殺人と見なす。一方レイプによる望まぬ妊娠のケースもある。しかし11月21日にローマ法王は書簡の中で中絶の罪を赦免する見解を示した。カトリックの価値観に根底から影響を与える「カトリックの文化的革命」として仏メディアは報じる。
『ルモンド紙』は、カトリック教義では中絶は許されるまで破門を招くほどの重大な罪である事に触れ、カトリックおよびキリスト教社会全体にとっていかに大きな価値観の転換であるかを示唆する。「ルモンド紙」によると、もともと聖年期間(*1)中のみ、中絶の罪に特赦を与える権限を全カトリック司祭に法王は付与していたが、この権限付与を無期限に延長する事を、聖年が終了した21日に決定した。書簡の中で「無垢な命を終わらせるため、中絶は重大な罪である」が、「神の慈悲が届いて消す事が出来ない罪は存在しない」と、赦免を認める理由を法王は示した。...
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『ルモンド紙』は、カトリック教義では中絶は許されるまで破門を招くほどの重大な罪である事に触れ、カトリックおよびキリスト教社会全体にとっていかに大きな価値観の転換であるかを示唆する。「ルモンド紙」によると、もともと聖年期間(*1)中のみ、中絶の罪に特赦を与える権限を全カトリック司祭に法王は付与していたが、この権限付与を無期限に延長する事を、聖年が終了した21日に決定した。書簡の中で「無垢な命を終わらせるため、中絶は重大な罪である」が、「神の慈悲が届いて消す事が出来ない罪は存在しない」と、赦免を認める理由を法王は示した。また法王は、この書簡の中で「最も貧しき者達へ関心をよせるべく想像力をもつ事」を求めた。
『フィガロ紙』は、今回の法王の書簡を「カトリック教会の精神が困難な状況に対する思いやりとなって示されるように、革命を求める」と総括する。これまでは中絶に対する赦免は、経験豊富な司祭にのみ委託された権限で、司祭より高位の司教の責任において各教区で実施されていた。法王は書簡の中で「和解と悔恨の心を持つものに対して、導き支えて励ます」事を全司祭に求めており、聖職者への指針を示すものとなっている。この指針によって「懺悔の重要性」と「和解」を法王は重視し、キリスト教徒の生活の中心的価値観となる事を望み、その中心に中絶問題を置いたと「フィガロ紙」は評する。
仏カトリック系
『ラクロワ紙』はさらに、法王の今回の決定の背後を説明する。信者の懺悔では司祭を通して罪を神に言い表すため、告解と赦しの過程に介在する司祭や司教にかかる圧力は相当なものだったようだ。「このため司祭と司教は扱いきれない状況に身を置かねばならず、緊張状態の中で圧力を避けるために、告白された罪を保留にするしかなかった」ようだ。そのため赦しの秘跡までいかず保留になったままの罪が増えた。多数を占めた内容の一つが中絶だった可能性が高かったと考えられる。高位の司教と経験豊富な司祭に限られた「赦免の権限」を全司祭に無期限に拡大する事で、「懺悔、慈悲、赦し」という「カトリック精神の本質」を保とうとしたようだ。「意思決定に統一感が減るリスクがある」が、「カスタムメイドで個別化する傾向と必要性」を法王は認めたと「ラクロワ紙」はみる。
法王とバチカンの決定は現実に則した極めて現実的なものと言える。中絶のみならず離婚と再婚に制約があるカトリック社会の家族の在り方にも、大きな影響を及ぼすだろう。
(*1)1300年以降25毎に、カトリック教会で特赦を与える年と定められた年。直近の聖年はミレニアムの2000年。で今回の聖年は2015年12月8日から始まった。
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