既報どおり、中国発症の新型コロナウィルス集団感染は世界90ヵ国に及び、感染者は10万人を突破、死者も3,500人を超えた。そしてこの程、親中の国カンボジアでも初の感染者が確認されたが、あろうことか感染源は日本人出張者であった。同国は2月中旬、感染が疑われる乗客がいるとして、日本・タイ等から入港拒否されたクルーズ船を、親中の国として受け入れている。初の感染源が中国人旅行者でなかったのはせめてもの救いかも知れないが、逆に、これで益々日本からの来訪者受け入れを制限する国が更に増えかねない。
3月7日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』:「カンボジアで初の新型コロナウィルス感染者」
カンボジアの保健省は3月7日、同国シェムリアップ(注1後記)在住の38歳の男性が、同国初の新型コロナウィルス感染者となったと発表した。
この結果を受けて、同政府はシェムリアップ州内の全校を2週間閉鎖すること、更に来月に同州アンコールワット周辺で行われるクメール正月(注2後記)の行事を中止することを決定した。
この患者は、3月3日に日本に帰国し、中部国際空港で新型コロナウィルス感染者と認定された日本人出張者と濃厚接触(注3後記)したカンボジア人4人のうちのひとりで、隔離入院していたシェムリアップ州立委託病院での検査の結果判明したものである。
その日本人出張者は、カンボジア入国前にフィリピン、タイを訪問していて、その頃から病気の症状が出ていたという。
世界保健機関(WHO)は、この出張者の立ち寄り先や感染ルート等について調査を進めていると表明している。
また、カンボジア政府高官の話では、その日本人出張者と間接的に接触したとされるカンボジア人40人程も、検疫が済むまで隔離されているという。
同国のマム・ブンヘン保健相は3月7日夜の記者会見で、“当該男性患者は目下治療中であるが、容体は安定している”とコメントした。
そして、男性患者の3人の家族、また、日本人出張者と直接接触した日本人女性も、念のため隔離され、検疫されることになる。
同省のオー・バンディン報道官は、感染患者は“日本人出張者の会社のカンボジア支店長で、同出張者と濃厚接触したとされる他の3人も同じ会社に勤務”しているという。
一方、同国のフン・セン首相は今年1月、中国と深い絆で結ばれているとして、中国症の新型コロナウィルス感染問題に一緒に戦っていくと強調し、また、2月初めにも訪中して、習近平(シー・チンピン)国家主席と会談して、両国関係強化を図っている。
この経緯もあってか、同首相は2月中旬、感染が疑われる乗客がいることを理由として、日本・タイ・台湾・フィリピン・グアムから入港を拒否されたホランド・アメリカライン社運航のクルーズ船“ウェステルダム号”(乗員・乗客計2,257人)を受け入れることを決め、シアヌークビル港まで赴き、下船する乗客を直接歓迎している。
なお、同首相は今回の初感染患者発生を受けて、シェムリアップ州内の全校の2週間閉鎖、及び、来月半ばのクメール正月行事の中止を決定、指示している。
同日付タイ『バンコク・ポスト』紙:「カンボジアで初の新型コロナウィルス感染者」
カンボジア保健省のバンディン報道官は3月7日の記者会見で、後に感染が確認された日本人出張者と濃厚接触していた4人のカンボジア人のうちの一人が、“検疫の結果、新型コロナウィルスの陽性反応が出た”と発表した。
現地報道によると、日本人出張者はシェムリアップ州で人材派遣会社を経営している男性で、現地の応募者向けのレクチャーに出席していたという。
なお、『共同通信』報道では、同出張者は、カンボジア訪問前に、ベトナム、タイ、フィリピンも訪ねていたという。
一方、カンボジアでは以前、現地訪問中の中国人が感染していると報道されていたが、既に快復して帰国している。
(注1) シェムリアップ:カンボジア北西部のシェムリアップ州の州都。名前の直訳は“シャム人敗戦の地”。長い間シャム(現タイ)が治めていたが、17世紀にクメール人(カンボジア全人口のほぼ90%を占める東南アジアの人種)によって制圧される。19~20世紀にかけての帝国主義時代はフランスの植民地となり、1953年のカンボジア独立とともに同国領地となっている。
(注2) クメール正月:カンボジアの太陰暦に基づく正月で、今年は4月13日。収穫祭に当たり、毎年3日間行われる。
(注3) 濃厚接触:感染症の疑いのある有症者と衣食住を共にする家族や、仕事で席が近い、航空機で隣の席に座っている等、長い間接触すること。
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ポーランドのクラクフで開催されたユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会は9日、福岡県の古代遺跡「“神宿る島”宗像・沖ノ島と関連遺産群」を世界文化遺産に登録することを決めた。諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)は、5月に構成遺産の半数の除外を求める勧告を出していたが、これを覆し日本が推薦した8資産全ての登録を決定した。世界遺産委員会の決定については、各国メディアが報じており、沖ノ島についてもBBCやバンコク・ポストなどが説明している。
「“神宿る島”宗像・沖ノ島と関連遺産群」は玄界灘に浮かぶ福岡県宗像市の沖ノ島や宗像大社など、8つの構成資産から成る遺産群で、沖ノ島は日本列島と朝鮮半島の間に位置し、500年にわたり航海の安全を祈って、膨大な量の奉献の品を用いた祭祀が行われてきたところである。金製の指輪や青銅の鏡、勾玉等の10万点の宝飾品等があり、その内8万点が国宝に指定されていて「海の正倉院」とも呼ばれている。沖ノ島は宗像大社の3宮の1つである沖津宮の神領であり、神が住む島として島自体が信仰の対象とされ、人の自由な立ち入りが禁止されてきた。島に上陸できるのは、基本的に宗像大社の男性の神職1名だけで、女人禁制の伝統がある。
BBCは、女人禁制の古代の宗教的な資産であり、17世紀に船員の安全を祈るために建設された宗像大社沖津宮のある島として、上陸する前には服を脱いで禊をしなければならないこと、島から帰る際には何も持ち帰ってはいけないし、島を訪れた際の詳細を明かしてはならないなどと説明している。沖ノ島は、沖津宮が建設されるずっと前から、海に出て朝鮮や中国と無事に交易ができるよう祈祷をする人々が宗教的儀式を行う島であり、朝鮮半島製の金の指輪など、海外から持ち帰った非常に多くの工芸品が島で見つかった、とジャパン・タイムズの記事を引用して解説した。島では現在年に1日だけ、毎年5月27日に訪問者を迎え入れるが、今も古式に則っていること、訪問者の数は200に限られており、海で禊の儀式をしなければならないこと、そして最も議論を呼ぶところだが、男性に限ると報じている。
バンコク・ポストは、日本の南西部にある神聖な島と3つの岩礁、他4つの関連資産が世界遺産に決定したとして、資産の構成内容だけでなく、イコモス勧告後の世界遺産委員会委員に対する日本側のロビー活動等も含めた決定過程について詳しく伝えている。9日の決定は、日本の世界遺産登録としては5年連続となり、これで登録数は、文化・自然遺産両方で21になったことや、BBCと同様、沖ノ島が航海の安全を祈る女人禁制の島であり、男性も年に一日だけ、そして200人だけが伝統的な方式に則って訪問していること、島には海外から持ち帰った国宝級の装飾品等が多くあり、朝鮮半島で作られた金製の指輪やペルシャ由来のガラス製品などもあると説明した。
事前審査をした諮問機関イコモスは、8件の構成資産の一体性について、資料に基づく証明が不十分として、今年の5月、沖ノ島、宗像大社・沖津宮と周辺の3岩礁以外を除外する厳しい勧告を出した。これを受けて日本側は、世界遺産委員会の委員への説明活動を丁寧に行って巻き返した結果、沖ノ島の古代の祭祀と宗像大社に伝わる信仰との間の全体的な連続性が認識され、8資産の一括登録が承認された。女人禁制の点について委員から疑問が呈されたが、多くの女性が儀式も含め資産の保存に積極的に関わっていることを説明し、理解を得た。
ユネスコの世界遺産委員会は、今回33の資産について検討を行った。「“神宿る島”宗像・沖ノ島と関連遺産群」以外で世界遺産への登録が認められたのは、カンボジアのサンボー・プレイ・クック考古遺跡、英国・イングランドの湖水地方、エリトリアの首都アスマラの近代建築、イラン・ヤズドの歴史都市、アルゼンチンのロス・アレルセス国立公園、ドイツのバーデン・ヴュルテンブルク州の洞窟群、トルコのアフロディシアス遺跡、ブラジル・リオデジャネイロのヴァロンゴ埠頭の古代遺跡等である。
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