3月23日中国の李克強首相は中国海南島の三亜で開催されたタイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーの東南アジア5ヶ国とのメコン川流域開発協力に関わる第1回目の会議で、低利融資100億元(約15億ドル)と融資枠100億ドルの合計115億ドルの資金を提供することを表明した。メコン川開発協力会議は中国とタイの主催で開催されたが、中国の目的は、中国が主唱する「一帯一路」経済圏構想の一環としてメコン川流域を中心とする東南アジアの社会インフラの整備と生産性向上を目指すものである。インフラ整備には現在中国で深刻な課題となっているセメント、鉄鋼などの過剰な生産設備が利用出来るし、融資に関しては、最近設立したアジア投資銀行(AIIB)が活用出来ることも中国にとって大きなメリットである。
中国のもう一つの思惑としては、南シナ海の人工島問題で直接領有権を争うベトナムは勿論のこと東南アジア全体でも中国の膨張に対し警戒感が生じており、これを緩和するため友好協力的姿勢を示すことにあると思われる。
東南アジア諸国も今回の会議の成果を実利ベースでは評価して中国との友好ムードを見せる一方で、完全に中国ベッタリにはなれないという微妙なバランスの対中外交を行う必要がある。中国に対して距離を置く姿勢は現地のメディアの報道にも現れている。
3月22日付シンガポールの
『ストレートタイムズ』は、「中国はメコン地域で更に寛容に」という見出しで、中国が今回の会議の前にメコン川下流諸国の干ばつ対策として上流にあるダムの水を放流したことについて、干ばつ対策とはなったが、発表が急だったため急激に川の水位が上がることにより漁業や沿岸の農業、観光に被害をもたらす可能性があると警告している。過去中国が勝手に上流にダムを建設して下流の諸国に影響が出ていたが、今回の会議でタイの首相は中国に対してしっかりと公平な水管理への協力を求めるべきであるという意見を掲載している。
3月23日付タイの
『バンコクポスト』は、「プラユット首相、メコン首脳会議で公平な水利用を強調」という見出しで、会議の共催者であるタイのプラユット首相は、開会の挨拶で全流域諸国に利益をもたらすメコン川水管理計画の確立が課題であると述べたと伝えた。これは暗に中国に対して発言したものと思われる。
3月22日付ベトナムの
『ベトナムプラス』は、「ベトナム、メコン川協力を積極推進」という見出しで、メコン川開発協力会議に参加する北京駐在ベトナム大使へのインタビューを掲載している。その中で大使は記者の南シナ海の問題に関する質問に対し、国際法に基づき両国にとり受け入れ可能な解決策を根気よく交渉してゆく必要があること、両国とも更に問題を複雑化させるような行為をしないことを繰り返したと報じている。
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首相を退任して後10年間の亡命生活を送ってきた元タイ首相タクシン・チナワット氏(66)が、ほぼ2年の沈黙を破ってメディアのインタビュー取材に答え、現タイ軍事政権と憲法草案に憤りを表した。
一昨年5月に元陸軍大将チャンオチャ氏による軍事政権が発足し、クーデターでタクシン氏の妹インラック・チナワット氏は首相の座を奪われた。当時軍はバンコク基盤の反タクシン派と対する地方を中心に支持されたタクシン、インラック派で二分した政治を和解させるとした。2001年以降チナワット支持党はすべての選挙で勝利してきた。タクシン氏は汚職の疑いで首相辞任に追い込まれ、2008年本人不在のまま禁固刑2年の判決を受けた。
2月23日付
『ヤフーニュース』は、「タクシン氏:タイ軍事政権は長く続かない」との見出しで次のように報道している。
・タクシン氏は、先月公表された、2017年までに国民選挙を行う予定が盛り込まれた憲法草案を批判。国が後退していると考え心配しており、憲法草案については最悪のもの。北朝鮮で書かれたようなものだと批判。国の運営がたちまわらず国民を大切にしない管理体制では政権は長くはもたないだろうとした。
・軍は和解を強調してきたが、1年半過ぎ、和解の糸口は見えない、とタクシン氏。軍も一方を支持する態度で他方に圧力をかける。
・タクシン氏の各報道の一連のインタビューに軍事政権は反応を示し、憲法の草案作成に元首相の関与を望まないとした。政府の報道官は「この憲章は汚職された人を追放するために書かれたもので協力も議論も許されない」とコメント。
・ヒューマン・ライト・ウォッチ(*注)によると、政権をとった後軍事政権は「政治活動と公的平和集会を禁止し、国民から表現の自由を奪い、何百人もの逮捕者を出し、拘留中外部との接触を禁じ、虐待に対する安全対策も講じていない」。
(*注);ニューヨークを拠点とする国際的な人権NGO。世界各地の人権侵害と弾圧を止め、人権を守ることを目的とし、世界90か国で人権状況をモニターしている。
同日付
『ロイター通信』は、「元タイ首相タクシン氏が経済に警戒感。軍とは接触なし」との見出しで次のように報道している。
・シンガポールでのインタビューでタクシン氏は軍政はビジョンに欠け、低迷する経済を立て直す力がない、軍事政権が長引くとタイ経済の悪化を招くと指摘。
・輸出低迷と赤字を抱え、誤った経済対策が政権の最大の危機となると批評家らは指摘。「現政権は自由がなく経済を統制する才能ある政治家もいない。長く続けばそれだけ経済的困難は増す」とする。
・水面下の交渉で個人資産の守る事と引き換えに政治から身を引いた。(タイ政府とは)誰とも電話で話していないし、必要も感じない。8年も自主亡命を続け、主にドバイで生活してきた。
・タクシン氏は地方の福祉と低額ローンの功績により東北では今も尊敬を集める存在である。しかし批評家、都市部のエリートからは警察官僚出身でテレコム王のタクシン氏は「腐敗」の象徴である。
・軍事政権は来年の選挙を公約しているが、批評家によるとタクシン派閥を政権から遠ざけるのが目的である現政権は憲法草案に軍の介入を盛り込み影響力を維持したいと必死だ。
・誰が政権をとっても、懸念されるのは、スムーズな国王の継承問題である。タクシン氏は後継者とされる王子に近い存在とされていたが、2007年以来会っていないという。「親しいわけでなく、私が一方的に尊敬している」と述べている。
・プライベートジェットで年に120回移動するタクシン氏は元国家元首を含む友人と会ったりして過ごし流浪生活にも慣れたという。いつかタイに帰れる日が来ると信じているが、刑執行や自宅軟禁のためではない。帰れると自信を持っている、非難されているほど悪い人間ではないと述べた。
同日付
『バンコクポスト』は、次のように報道している。
・政府は何度もタクシン氏と会談する気はないかと聞かれ、プラユット氏は「何度も答えさせたがタクシン氏が警察(法)と話すべき」だとした。これに対しタクシン氏は「私の刑事責任のために会談出来ないと政府はいうが、軍事政権が大きな罪である」という。
・タイ外務省はタイ拠点の外国メディアを減らす新規制を発表。「誤った」報道をなくすため、外国人ジャーナリストのビザ申請を厳しくするという。
・約500人の外国人リポーターがタイにおり、1割に問題があるとされる。誤解を招き、国益を損なったとして警告を行ってきたと外務省。外国人記者クラブは告発に関して政府から知らされてきた。
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