ウクライナと国境を接し、戦争による影響を大きく受けている貧国モルドバでは、ウクライナがモルドバ東部への侵攻の準備をしているとするロシアの主張は、心理戦によるものだと警戒感を示している。
2月24日付
『ロイター通信』:「モルドバ、ウクライナがトランスニストリア侵攻を計画しているとするロシアの報道を否定」:
モルドバは23日、ウクライナが偽旗作戦によりモルドバ東部のトランスニストリアを侵攻しようと企てているとするロシア国防相の主張を否定し、国民に冷静になるよう求めた。
ロシア国防省は、モルドバと国境を接するウクライナの計画は、モルドバのロシア語圏のロシア部隊に「直接的脅威」を与えるものだとしていた。また、タス通信は、ロシアのミハイル・ガルージン外務副大臣(元駐日大使)の談話として、西側がモルドバ政府にトランスニストリアのロシア当局との通信を遮断するよう指示したと報じている。
モルドバ政府はテレグラムアプリでの声明で、ロシアの主張する内容は「確認がとれていない」とし、「国民はこれを冷静に受け止め、政府からの信頼できるソースによる情報を信じるように」と求め、非常事態の際には、海外とも協力し、国民へ早急な情報を届ける」としている。
モルドバは旧ソ連国で、NATO加盟国ルーマニアとも国境を接し、EUへの加盟を希望している。
サンドゥ大統領は今月、モルドバ政権へのクーデターを計画していたロシアを批判していた。トランスニストリア地域は主にロシア語圏となっており、1990年旧ソ連モルドバから分離独立し、1991年のソ連崩壊後は、ロシア分離派はモルドバ政府軍との対立関係にある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先週、ロシアは「ウクライナ侵攻に留まらず、モルドバの崩壊も視野に入れている」と述べていた。
2月23日付英『BBCニュース』:「緊張が高まる中、モルドバがロシアの心理戦に警戒感」:
ロシア国防省は、証拠もなく、ウクライナがロシア兵のいるトランスニストリアへの侵攻を企てていると主張。
モルドバは、ロシアが政権転覆を企てているとしてここ数週間警告していた。同国政府はこれを戦争の一貫の心理戦だとみており、ミジャ国務長官は、「国務省は、現実的プランというより心理戦の側面が大きい」としている。ルーマニア訪問中にサンドゥ大統領は、前例のない安全保障面での危機に関し、「我が国の転覆を望み、ロシアの利益となる傀儡政府を置こうとするものがいる」と述べている。
モルドバはNATOに非加盟だが、昨年6月、ウクライナと同日に、EU加盟候補国に認定されていた。今週には、バイデン米大統領がサンドゥ大統領と面会し、同国の支持を表明していた。
人口260万人のモルドバは、ヨーロッパで最も経済的に貧しい国の一つで、ウクライナ戦争による影響ににさらされている。電力インフラはソ連時代のもので、エネルギー危機による打撃も大きく、ロシアによるガス供給停止だけでなく、ウクライナの電力インフラへの攻撃の影響も受けている。
インフレやウクライナからの難民流入による問題も深刻で、ポピュリストやオリガルヒが党首の親ロ政党によるデモも増え、レシアン新首相がいう「ハイブリッド戦」も多発。今月の政権交代前日には、ロシアのミサイルがモルドバ領空を通過してウクライナに落とされた。
サンドゥ大統領は、ロシアはセルビア、ベラルーシ、モンテネグロといった外国の工作作戦を利用し、モルドバ政権の転覆を策略しており、政府庁舎を攻撃して人質をとり、「親ロシア」政権への交代を訴求するデモを起こそうとしているのだとしている。
大統領の演説直後、セルビアのフットボール支援者12名がモルドバへの入国を禁止され、ロシアは「モルドバ政府は反ロシアヒステリーをおこしている。発言には慎重になるべき」と批判している。
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米政府発表では、ウクライナ戦争に参戦しているロシア傭兵組織ワグネル・グループ(WG、注後記)の戦闘員3万人以上が死傷しているという。しかし、プーチン信奉者のひとりであるチェチェン共和国首長は、首長退任後に自身も同様組織を立ち上げると表明する程、同グループの活躍を称賛している。
2月19日付
『Foxニュース』は、「プーチン信奉者のチェチェン共和国首長、退任後に自身も傭兵組織を立ち上げると発言する程WGを称賛」と題して、プーチン大統領側近のチェチェン共和国首長が、ロシア傭兵組織WGの活躍を称賛し、自身も退任後に同様組織を立ち上げると発言したと報じている。
チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長(46歳、2007年就任)はウラジーミル・プーチン大統領(70歳、2000年就任)の信奉者・側近であり、ウクライナ軍事侵攻を強く支持している人物である。
そして同首長は2月19日、ウクライナ戦争に参戦している傭兵組織WGの活躍を称賛した上で、自身も首長職退任後に同様の組織を立ち上げたいと発言した。
WGは、同大統領の最側近の一人でオリガルヒのエフゲニー・プリゴジン(61歳)によって立ち上げられた。
プリゴジンは、“プーチンのシェフ”との渾名を持っているが、これは、彼が営むレストランやケータリング事業が、しばしばプーチンと外国要人との夕食会等に使われていたからである。
同グループは、ウクライナ戦争に本格参戦する前、中東、アフリカ、ベネズエラ等の内戦で活動していた。
同首長は、ロシアSNSのテレグラムに投稿して、“WGが軍事面で示した気迫等より、(紛争等について)このような民兵組織が必要かどうかの疑問に明確に答えを出している”と称賛した。
その上で同首長は、“首長職退任後、プリゴジン氏の組織と競争できるような民兵組織を立ち上げたいと思う”とも明言している。
WGは目下、ウクライナに約5万人の戦闘員を派遣している。
ただ、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官(2022年就任)は先月、ほとんどの戦闘員は囚人で、参戦を条件に派遣されたものだとコメントした。
更に、ロシア国防省は長い間WGとの関係性を否定していたとし、また、米情報局の調査では、ロシア軍高官とプリゴジンとの間の亀裂が大きくなってきている、とも付言している。
なお、米財務省は先月、WGを多国籍犯罪集団と認定していて、“プーチンは、自身が始めたウクライナ戦争継続のために、WGを利用している”と言及した。
同省の1月26日付声明によれば、“WG戦闘員は、中央アフリカ共和国(1960年フランスより独立)、同西部のマリ共和国(同左)の内戦において、大量殺人・強姦・子供誘拐・拷問等の重大犯罪を犯している”とする。
同日付『ニューズウィーク』誌は、「プーチン側近、WGと競えるような民兵組織を立ち上げるとの意向表明」と詳報している。
WGは先日、中央アフリカ共和国やマリでの人権蹂躙犯罪容疑で告発されている。
米ブルッキングズ研究所(1916年設立、ワシントンDC本拠)の2022年報告によると、WGは、イエメン、シリア、リビア、モザンビーク、マダガスカルにおける紛争にも参戦しているという。
そのWGについて、プーチン信奉者のカディロフ首長が2月19日、“WGはこの程、異論がないほど立派な功績を残している”とした上で、“自身も首長職を辞した後は、プリゴジン氏と競合できるような民兵組織を立ち上げたい”とまで発言している。
その上で同首長は、“チェチェン共和国の特殊部隊「アクマット」を母体として、民兵組織に仕立て上げるのは最善かも知れない”とも言及した。
しかし、防衛・外交政策専門の米シンクタンク、戦争研究所(2007年設立、ワシントンDC本拠)は、プリゴジンはウクライナ戦争を利用して、ロシア政界における“(自身の)衰退しつつある影響力”を復活させようと目論んでいるだけだ、と批判している。
すなわち、同研究所は2月18日リリースの報告書の中で、“プリゴジンはカディロフと共謀して、ロシア国防省の力を削ごうとしているに過ぎない”と評価している。
更に、“カディロフがWGを称賛しているのは、プリゴジンが2月16日に負傷したチェチェン共和国特殊部隊司令官を見舞ったことの返礼の意味もある”とした。
その上で、“プリゴジンが2月18日に、WGはロシア国防省に属する団体ではないし、ロシア軍と何の関係もないと明言して、同省に対抗する意図を鮮明にしたことから、カディロフ自身もそれに追随する意図で、上記のような称賛コメントを出したものとみられる”と言及している。
(注)WG:2014年に勃発したドンバス戦争(ウクライナ東部ドンバス地方におけるウクライナ政府軍と親ロシア派間紛争)に参戦すべく、ロシア人オリガルヒ(新興財閥)でプーチン最側近のひとりであるプリゴジンによって組成。以降、アフリカ(スーダン・リビア)、シリア、ベネズエラ等の内戦に派兵。
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