東欧の最貧国モルドバ(1991年ソ連より独立)は、ロシア軍によるウクライナ発電施設攻撃のとばっちりを受けて、国内の深刻な電力不足に陥っている。そこで同国はこの程、同国内の一部とされるロシア傘下の非承認共和国にある発電所から電力供給を受ける契約を締結した。
12月3日付米
『AP通信』は、「モルドバ、停電リスク回避のため新たな電力供給契約を締結」と題して、ロシア軍によるウクライナ発電施設攻撃のとばっちりを受けて、同国からの電力供給を受けていた隣国モルドバが、背に腹は代えられず、自身が承認していない同国内のロシア支援の共和国から電力供給を受ける契約を締結したと報じている。
モルドバ高官が12月3日に明らかにしたところによると、厳しい冬期を迎えて更に深刻な停電が発生するリスクを回避するため、止む無くロシアが後ろ盾となっているトランスニストリア(注後記)から新たに電力供給を受ける契約を締結したという。
アンドレイ・スピヌ副首相(36歳、2021年就任)が表明したもので、国営電力会社エネルゴーコムがトランスニストリア在のクチューガン天然ガス発電所から12月の電力供給について成約したという。
11月初め、ロシアがモルドバ向け天然ガス供給量を40%削減したことから、同電力会社による国内電力供給が大きく阻害されていた。
欧州最貧国のモルドバでは、直近数週間、ロシア軍によるウクライナ在発電施設攻撃のとばっちりを受けて、深刻な電力不足に襲われている。
何故なら、旧ソ連時代の電力供給システムのままの同国は、ウクライナからの電力供給に大きく依存しているからである。
同副首相は『テレグラム(2013年にロシア人技術者が開発したメッセージアプリ)』に投稿して、“今回の契約締結によって、モルドバ国内の深刻な停電リスクを回避できることになる”とコメントしている。
同副首相はまた、ロシアからの天然ガス購入契約を有する同国のモルドバ・ガス(1991年設立)が、トランスニストリア向けに570万立方メートルの天然ガスを供給することによって発電量増に寄与することになる、とも言及している。
更に、来年1月以降3月までも同発電所からの電力供給を受けられるよう交渉を続けているとも付言した。
なお、トランスニストリアは1992年の内戦の結果、モルドバから分離し独立を宣言するに至ったが、国際社会からは依然承認されていない。
また、同地のクチューガン発電所は2004年に民営化されてロシア国営企業に売却されているが、モルドバ政府は民営化そのものを認めてはいない。
12月4日付ロシア『スプートニク・インターナショナル』オンラインニュース(2014年設立の通信社)は、「モルドバ副首相、トランスニストリアから電力供給再開と発言」と事情を詳報している。
スピヌ副首相は12月3日、トランスニストリアから1メガワット時当り73ドル(約9,900円)で12月に20万4千メガワットの電力供給を受けることになったと表明した。
同国のエネルゴーコムがトランスニストリア在のクチューガン発電所と契約を締結したもので、2023年1~3月期も同価格での供給継続の可能性があるとも付言した。
モルドバは現在、エネルギー価格の急騰やインフレーションに見舞われて厳しい経済状況となっている。
特に、10月からロシア半国営企業ガスプロム(1989年設立の世界最大の天然ガス生産・供給企業)からの天然ガス供給量が削減されたことから、国内でのエネルギー消費量を抑えるため、同政府は国民に電力使用節減を要求している。
なお、同政府データによると、隣国ルーマニアから1メガワット時当り190~348ユーロ(197~360ドル、約2万6,600~4万8,600円)で電力供給を受けているという。
(注)トランスニストリア:公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国で、東欧にある事実上の独立国家。モルドバ東部を流れるドニエストル川と、モルドバとウクライナの陸上国境とに挟まれた南北に細長い地域に位置する。首都はティラスポリ。ロシア連邦の支援を受けているものの、国際的にはほとんど承認されておらず、モルドバの一地域として広く認識されている。
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