安倍首相は昨夏、豪州を訪れた際、アボット前首相と「毎年の首脳交互訪問」を約束していた。今年9月、保守党内の政変によってアボット氏は退任を余儀なくされたが、ターンブル現首相が0泊3日(機中泊2日)の強行軍で、日豪首脳の約束を果たすため来日した。両首脳は、安全保障や経済分野での特別な戦略的パートナーシップを相互確認したが、前首相が敢えて触れなかった日本の調査捕鯨について、現首相ははっきり遺憾の意を伝えたと各国メディアが伝えている。
12月18日付カナダ
『ロイター通信』は、「捕鯨問題はあるが、日豪のより緊密な関係を確認」との見出しで、「安倍首相(61歳)と豪州ターンブル首相(61歳)は12月18日、豪州側が日本の捕鯨再開に“深い失望”を伝えたものの、安全保障や経済分野で、より緊密に連携していくことを確認した。ターンブル首相は来日前、国内で日本の捕鯨問題について厳しく追及するよう求められており、彼自身の言葉で遺憾の意を伝えたものの、(捕鯨問題について)考えの違いなどを率直に話し合うことが必要で、その問題を以て両国間の関係が棄損されることはないと表明した。」とし、「なお、豪州にとって、今や中国が日本を抜いて最大の貿易相手国であり、一方で、米国との同盟関係にある日本との関係のバランスを取ることも必要となっている。ただ、今回の首脳会談では、国名は言及しなかったものの、東シナ海及び南シナ海で一方的に海洋活動を行うことに断固として反対するとの共同声明を発表している。」と報じた。
同日付米
『ブルームバーグ』オンラインニュースは、「ターンブル首相、安倍首相に捕鯨再開で“深い失望”を表明」との見出しで、「ターンブル首相は安倍首相との会談で、日本が、昨年中止していた捕鯨を先月再開したことに“深い失望”を覚えたと発言した。日本は昨年、国際司法裁判所判決(注後記)に従って、南極海での捕鯨を中断したが、先月、捕獲数を大幅に減少させることで調査捕鯨を再開すると発表していた。」とし、「なお、豪州は、防衛強化の一環で500億豪州ドル(約4兆3千億円)の新型潜水艦建造・補修商談を進めており、日本はドイツ、フランスと競合して入札している。」と伝えた。
一方、12月19日付豪州
『オーストラリアン・ヘラルド』紙は、「中国との緊張が高まる中、日豪両国が米国を“強力サポート”」との見出しで、「中国による南シナ海海洋活動に関し、航行・飛行の自由を訴え、実力行使に出る米国との緊張が高まる中、ともに米国と同盟関係にある日豪両国が、地域の安定を図るため米国を強く支持する旨共同声明で発表した。米軍は12月初めにも、南シナ海南沙諸島の岩礁に築いた人工島の12海里(約22キロメーター)内を2機の爆撃機に監視飛行させ、中国海軍から威嚇を受けた。また、豪州空軍も先週、中国の人工島上空を監視飛行し、同様に中国海軍から警告を受けている。」とし、「なお、ターンブル首相は、安倍首相が進める安全保障関連法制化と集団的自衛権の確立について、歓迎し支持する旨表明している。」と報じた。
また、同日付豪州
『スカイ・ニュース豪州版』は、「捕鯨問題は、日豪関係を棄損せず」との見出しで、「ターンブル首相は、捕鯨問題は日豪間で見解が異なる事態ではあるが、今後も友好国同士率直に話し合うことが肝要であり、従って、日豪の安全保障、経済分野などでの協調関係に影響を及ぼすことはないと表明した。なお、同首相は、人型ロボット“アシモ”に代表される日本の先端技術や、豪州が求める再製医薬(ジェネリック薬品)の開放などについても、日本側と積極的に協議した。」と伝えた。
なお、12月18日付中国
『新華社通信』は、「安倍・ターンブル両首相、“調査捕鯨”問題では相容れず」との見出しで、「ターンブル首相の僅か1日の訪日の間、両首脳は二国間協調関係につき協議したが、日本が国際司法裁判所判決に抗って、調査捕鯨を再開したことで意見の対立をみた。また、両首脳は、豪州向けの日本製新型潜水艦商談についても討議したが、武器輸出に反対する市民グループが、首相官邸周辺でデモを行っている。」と、南シナ海に関わる日豪安保関係の話は一切触れずに報道した。
今回のターンブル首相の強行日程による来日は、「中国より先に、年内で」という日本側からの強い意向に応えたものという。同首相自身が、日本の捕鯨を強く非難していることや、今や中国が最大の貿易相手となっている現実から、同首相としては苦渋の選択をしたものと推察される。ただ、これまで長期間に培われた日豪関係、及び米国と強い同盟関係にあることが、今回の来日決定の背景となっていることは間違いなかろう。
(注)国際司法裁判所判決:2010年5月に豪州政府は、南極海での日本の調査捕鯨の実態は商業捕鯨であり、国際条約に違反しているとして停止を求め国際司法裁判所に提訴。2014年3月31日に国際司法裁判所は、豪州の提訴を支持する判決を下したが、日本も判決を受けいれるとした。
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