岸田文雄首相(65歳、2021年就任)は9月20日朝、台風14号災害対策を留守部隊に託して慌ただしく訪米の途に就いた。日本の首相としては3年振りだが、同首相としては初の国連デビューとなる。しかし、米メディア等は、英女王陛下の国葬儀を経て慌ただしく訪米し、同じく国連デビューとなるリズ・トラス新首相(47歳、2022年就任、前外相)のことを大きく取り扱っている。
9月19日付米
『AP通信』は、「トラス英国新首相、女王陛下国葬儀後に慌ただしく訪米の上国連デビュー」と題して、米国の最大の同盟国である英国の新首相による国連デビュー及び米大統領との首脳会談について詳報している。
リズ・トラス新首相は、荘厳な女王陛下の国葬儀を終えて、政治的大混乱を招いている国連に赴こうとし、また、非常に重要なジョー・バイデン大統領(79歳、2021年就任)との首脳会談に臨もうとしている。
同新首相は9月19日、エリザベス2世の国葬儀を終えてすぐ、慌ただしく国連総会に初めて出席するためにニューヨークへ飛んだ。
トラス氏は、今月初めの保守党党首選に勝利して、9月6日に女王陛下から正式任命を受けたばかりだが、女王死去の僅か2日前のことであった。
同新首相は9月21日、国連総会で初めて演説する予定であるが、これまでの英国政策を踏襲し、国連加盟国に対して、ウクライナ支援を更に訴えると同時に、ロシア産原油・ガスの購入停止を強く求めることになろう。
同新首相は訪米直前、“ウクライナや欧州のみならず世界の多くの人々の命が、ロシア産エネルギーに頼ったことで危険にさらされている”とした上で、“欧州の何百万人もの人々を今冬に凍えさせようとしている”としてウラジーミル・プーチン大統領(69歳、2000年就任)を糾弾するコメントを発表している。
英国は、欧州他国に比べてロシア産原油・ガスの依存率が高くはないものの、ウクライナ戦争に伴う世界エネルギー価格の高騰によって英国でも諸物価高騰に喘ぐことになっており、同新首相にとっての最大の国内問題になっている。
そこで、同新首相は早速、北海油田・天然ガス開発プロジェクト推進強化とともに、輸入燃料への依拠制限を撤廃するとの政策を発表している。
ただ、環境保護活動家らは、ボリス・ジョンソン前首相(58歳、2019~2022年在任)が提唱した、2050年までにカーボンニュートラル(注後記)を達成するとの目標を後退させようとしているとして非難している。
これに対して、首相府のマックス・ブレイン報道官(2021年就任)は、新首相は“カーボンニュートラル達成を約束していることに変わりはない”としながらも、“過渡期において石油や天然ガス等のエネルギーにも頼る必要があるとしている”と言及した。
なお、同新首相は、国連総会での演説で、前任首相の政策を踏襲する一環で、米国に次ぐ規模となるウクライナ向けの23億ポンド(27億ドル、約3,890億円)相当の軍事支援を約束することで、国連加盟国へのウクライナ支持をアピールする意向とみられる。
ただ、同日に予定されているバイデン大統領との首脳会談では、Brexit(英国のEU離脱)に関わる難しい問題に触れる必要がある。
何故なら、同大統領が、Brexitに伴う北アイルランド(アイルランド島北東部の英国カントリー)とEU加盟国アイルランド(1949年英連邦より独立)間国境の物流・課税問題で平和が毀損されることを強く懸念しているからである。
これに対して、新首相も現行保守党政権のBrexit推進を支持しており、EUと未解決となっている通商問題で強気の姿勢を貫くと見込まれている。
一方、9月20日付英国『ジ・インディペンデント』紙(1986年創刊)は、「トラス首相、訪米の機会にバイデン大統領及びマクロン大統領とそれぞれ首脳会談」として、国連デビューよりも重要な日程について報じている。
トラス新首相は9月19日晩、夜行便でニューヨークに向かった。
国連総会で演説することが主目的であるが、それよりも重要とみられるのが、バイデン大統領、エマニュエル・マクロン大統領(44歳、2017年就任、2022年再選)及びウルズラ・フォン・デア・ライエンEU委員長(63歳、2019年就任、元ドイツ国防相)それぞれとの首脳会談である。
何故なら、国連演説で言及されるウクライナ支援には挙って支持を得られるとみられるものの、Brexitに伴う北アイルランド・アイルランド国境間の物流・課税問題では、明らかに意見を異にしているからである。
すなわち、EU執行機関の代表のライエン委員長がEU持論を強硬していることはもとより、バイデン大統領は北アイルランド・アイルランド間の平和が毀損されることを懸念し、また、マクロン大統領も北アイルランドの権利や漁業権の擁護を強く主張していて、明らかに英国保守政権のこれまでの主張と対立しているからである。
なお、トラス新首相は、保守党党首選挙において、Brexitに関しEUや米国・フランス首脳と(敵とするのか味方とするのか)どう対応していくのかと問われた際、当時外相であったトラス氏は、“まだ結論は出ていない”とコメントしていた。
ただ、新首相訪米前に首相府報道官は、“フランスは長い間英国の同盟国である”とした上で、“首相は、マクロン大統領と建設的な関係を築くことを望んでいる”と言及している。
(注)カーボンニュートラル:環境化学用語のひとつ、または製造業における環境問題に対する活動の用語のひとつ。カーボンオフセット、排出量実質ゼロという言葉も、同様の意味で用いられる。何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素を同じ量にする、という考え方。
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5月12日付米
『AP通信』:「IOC、開催反対の声は東京大会開催にとって全く脅威とならないと表明」
IOCは5月12日、日本で取り沙汰されている大会開催反対の世論は問題ないと、これを軽視する声明を発表した。
IOC月例理事会開催後の記者会見で、マーク・アダムス広報部長が表明したもので、“我々は世論の声を気にかけてはいるが、それに左右されることはない”とした上で、“(開催準備やテスト大会の報告を踏まえ)全ての状況を踏まえる限り、東京大会は開催しうる”と断言した。
同部長は今回、トーマス・バッハ会長に代わって記者会見に臨んだが、同会長は先週、日本における新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行拡大に伴う緊急事態宣言再発出の状況に鑑み、訪日を延期している。
同部長は更に、“2013年に東京が開催場所に選定された際、日本側の開催への支持はとても強いものだったので、開催されれば多くの人が支持することになろう”とも述べた。
4ヵ月の予定で進められている聖火リレーは、一部地域で中止されたり規模縮小されたりと不安定なものとなっているが、IOC報告によると、それでも東京で過日開かれた(大会前の)テスト大会は無事開催され、また、世界各地で行われている代表選考会も順調に進められている、という。
また、同部長によれば、(大会参加の選手団約1万1千人のうち)70%に当たる約7,800人が既に選考されていて、残りの30%のうち、20%にあたるアスリートは世界ランキングで決まり、残りの10%も6月29日までには決定される、とする。
そして同部長は、“多くの選手団が、事前にワクチン接種を済ませた上で訪日することになる”とも付言した。
IOCはこの程、選手団や大会関係者用に、中国製ワクチンを緊急手当てしたり、米ファイザーから大量のワクチンの寄進を受けている。
なお、同部長の記者会見の最後の段階で、『ヤフー・スポーツ』記者が質問しようとしたところ、大会開催反対を主張する暴徒が割り込んで、“ロスアンゼルス(2028年開催地)も、東京もオリンピックはいらない”等と叫んだため、急遽会見は中止されている。
同日付英国『ジ・インディペンデント』紙:「IOC、東京でのCOVID-19感染者急増でも大会開催に自信」
日本政府は今週初め、COVID-19感染拡大に鑑み、東京及び複数の県に対する緊急事態宣言適用を5月一杯まで延長すると決めており、これを受けて、東京大会開催中止を求める世論の声が急増している。
しかし、そうした状況下でもIOCはこの程、“大会開催に向けて、十分な準備を行っていく”と述べた。
IOCのアダムス広報部長が、ローザンヌ(スイス)で開かれたIOC理事会後の記者会見で述べたもので、“万難を排して大会開催すべく、事前準備に注力している”とも言及した。
その上で同部長は、“世界各地で様々なスポーツイベントが開催されており、東京大会はその集大成ともなるもので、世界がひとつになる重要なイベント”だとも強調した。
IOCは当初、大会参加選手に優先してワクチン接種を進める案を出していたが、WHOが今年1月に不平等対応を疑問視する声明を出し、更に、日本では今現在全人口の3%しかワクチン接種が進んでいないこともあって、IOC案を非難する声が上がっていた。
そこでIOCは急遽米ファイザーと交渉し、選手団や大会関係者に日本入国前にワクチン接種が済ませられるよう、ワクチンが確保できるようにしている。
同部長は、“米ファイザーとの契約で、各国の大会参加選手らが、事前にワクチン接種できるよう手配ができた”とした上で、“アスリートのワクチン接種促進で、ワクチン接種に消極的な人々にも勇気を与えることになろう”とも付言した。
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