ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領(67歳)は、かつてロシアを牽制するために親欧州政策を執っていたが、自国内の反政府活動家らを力づくで排除していること等を理由にして欧州連合(EU)から経済制裁を科せられてしまっている。そこで、同じくEU制裁を受けているロシアに歩み寄り、今夏に二国間軍事協力に合意して連携を強めている。以降、ロシア側の後ろ盾を受けたこともあって、中東やアフリカの難民に観光ビザを与えて自国経由隣国ポーランドやリトアニアに不法入国させることで国境問題を深刻化させ、EU制裁に対する報復措置とみられる脅しをかけている。
11月8日付米
『AP通信』:「ベラルーシの支援を受けた多数の難民がポーランド国境に押し寄せ」
数百から数千人と思しき難民が11月8日、ベラルーシからポーランド国境に押し寄せ、ワイヤーフェンスをハサミで断ち切り、枝などによじ登ってポーランド側に違法入国しようとしている。
ポーランドの内務省は、不法入国者は撃退しており、事態は収拾しつつあるとした。
また、国防省は、武装した警官隊が不法侵入を試みている難民らに薬液スプレーを浴びせる等して侵入を防ぐ対応を取っている映像を公開している。...
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11月8日付米
『AP通信』:「ベラルーシの支援を受けた多数の難民がポーランド国境に押し寄せ」
数百から数千人と思しき難民が11月8日、ベラルーシからポーランド国境に押し寄せ、ワイヤーフェンスをハサミで断ち切り、枝などによじ登ってポーランド側に違法入国しようとしている。
ポーランドの内務省は、不法入国者は撃退しており、事態は収拾しつつあるとした。
また、国防省は、武装した警官隊が不法侵入を試みている難民らに薬液スプレーを浴びせる等して侵入を防ぐ対応を取っている映像を公開している。
ベラルーシ側のメディア映像では、警官隊に物を投げつけたり、また、長い棒等を持って」フェンスを無理やり越えようとしている難民の姿が映し出されている。
ポーランド治安部隊のスタニスロー・ザリン報道官は、“ベラルーシの手引きで多数の難民がポーランド国境に押し寄せ、国境問題を引き起こさせる等ベラルーシからの対ポーランド攻撃が激化しつつある”と表明した。
そして同報道官は、“ベラルーシの治安部隊や軍隊にコントロールされた多数の難民によって、EUへの入り口でもあるポーランド国境が突き破られようとしている”とした上で、“アレクサンドル・ルカシェンコ大統領が対ベラルーシ制裁を解除させようと、ポーランドや他のEU諸国に揺さぶりをかけてきている”と糾弾した。
また、ピオトール・ミューラー内閣府報道官(32歳)は、ポーランド国境のベラルーシ側に3千~4千人の難民が押し寄せていると発表した。
なお、ポーランド国境警備担当官は11月9日朝から当該国境を封鎖するとしている。
一方、ベラルーシ内でのジャーナリストの取材活動が制限されているばかりか、目下ポーランドで非常事態宣言が出されていて、ジャーナリストや人権活動家らが国境付近に立ち入ることが禁止されているため、実際に何が起こっているのか確かなことは分からない状況である。
ただ、この中東等からの難民がベラルーシ経由EUに不法侵入しようとしているのは何ヵ月も前から起こっていて、最初にリトアニアとラトビアが標的にされ、今は主としてポーランドが狙われている。
これに対して、ベラルーシ国境警備隊のアントン・ビチコフスキー報道官は『AP通信』のインタビューに答えて、国境に殺到している難民は、“EUにおいて難民認定を申請するという権利を主張したい人たちだ”とし、“安全保障上の脅威でも何でもない”と主張した。
しかし、ポーランドや他のEU諸国は多数の難民が押し掛けるのを脅威と捉えており、難民問題に柔軟な対応をしてきたドイツのアンゲラ・メルケル首相(67歳)のシュテッフェン・ザイバート報道官(61歳)も、“ベラルーシ政権は人身売買業者のような行いをしている”と糾弾した。
また、欧州委員会(EU政策執行機関)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長(63歳)も、ベラルーシ当局による“複雑で手の込んだ攻撃”の責任を追及していくためにも、EUの27加盟国に対ベラルーシ制裁継続の承認を求めていくと表明している。
更に、在ポーランド米国臨時代理大使のビックス・アリュー氏も、ルカシェンコ政権は難民の命を危うくさせた上で、“彼らを使って国境問題を深刻化させてポーランドを挑発している”とし、“ベラルーシによる敵対的行為をすぐさま停止させる必要がある”とツイッターで訴えている。
一方、ベラルーシ出身の政治評論家バレリー・カーバレビッチ氏は『AP通信』のインタビューに答えて、“ベラルーシの手引きによって大多数の中東・アフリカ難民がEU加盟国国境付近に押し寄せ始めたのが、ロシアとベラルーシが今夏に軍事協力協定に合意してから3日後であったことから、ロシア政府が裏で糸を引いているとみられ、ベラルーシを使ってEU側に脅しをかけていると思われる”と分析している。
なお、ポーランド外務省のパウエル・ヤブロンスキー副大臣(35歳)は、在ポーランドのイラク臨時代理大使フセイン・アル=サフィー氏と面談した際、バグダッド及びアルビール(イラク北部)在のベラルーシ領事館が、これら難民に観光ビザを発行してベラルーシ経由EU域内への不法入国活動を支援していたとして、イラク政府が両領事館を閉鎖するとした措置に対して謝意を表明している。
11月9日付英国『ザ・テレグラフ』紙:「ポーランド、“EU全体の安全保障”への脅威だとしてベラルーシとの国境を封鎖」
ポーランドは11月9日、ベラルーシからポーランドに不法入国しようとする難民を阻止するため、同国国境の一部を封鎖した。
同国のマテウシュ・モラビエツキ首相(53歳)は、“ベラルーシのルカシェンコ政権が企てている難民を使って国境不安を煽る策略に恐れることはなく、EUや北大西洋条約機構(NATO)加盟国の安全保障が脅かされないよう、国境を封鎖して徹底抗戦をしていく”とツイートしている。
ポーランド政府発表によると、同国国境付近のベラルーシ側には約4千人の難民がテントを張って、隙を伺って不法侵入しようとしているという。
また、同国治安部隊の報道官によれば、ベラルーシ国内には1万2千人近くの中東・アフリカ難民が滞在しているとする。
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中国・新疆ウイグル自治区における強制労働の人権問題に対して懸念を示していたスウェーデンの衣料品大手H&Mや米スポーツ用品大手ナイキなど欧米のアパレル企業が、中国で急速に広がっているボイコット運動の対象となっている。
英紙
『ザ・テレグラフ』によると、ボイコット運動の発端は、中国共産党の青年団が24日に、昨年H&Mが新疆の人権問題に対し懸念を表明していたことをSNS上で非難したことだった。「中国で金もうけをしたい一方で、新疆ウイグル自治区の綿花をボイコットするための噂を広めるのか?」という投稿に、50万回近くの「いいね!」、4万回の「シェア」、1万6千件の「コメント」が寄せられた。
国営メディアはまた、H&Mは「数十億人の中国人の声を聞くよりも、少数の人々によって広められている嘘を信じている」という、新疆ウイグル自治区での人権侵害を否定する際に中国政府がいつも述べている同様のセリフで同ブランドを批判した。
25日の朝には、中国のネット販売プラットフォームやオンラインマップ上で、H&Mの商品や店舗所在地の検索がブロックされた。
『ザ・テレグラフ』は、こうしたボイコット運動は、ウイグル自治区での人権侵害をめぐる欧米の制裁に対抗するための中国当局の戦略の一環であると報じている。EU、英国、米国、カナダは22日に、新疆ウイグル自治区でのウイグル人やその他のイスラム少数民族に対する人権侵害に責任があるとみなされる中国の政府関係者に対する制裁を発表したばかりであった。
英ニュース専門局『スカイニュース』は、消費者による自然発生的なボイコットという演出のわりには、ボイコットをうながす中国当局者の動きがあまりに目立つと伝えている。現在、あらゆる中国メディアがボイコット運動を支持する内容の報道を繰り広げている。
人民日報は、新疆ウイグル自治区の綿花の国内需要が高すぎて、同自治区では対応しきれないという記事を掲載した。新華社通信は、同地域の綿花収穫の様子を撮影したビデオを公開し、その95%が完全に自動化されていると指摘した。ある記者は、「新疆では綿花産業はとっくに機械化されているのに、誰が強制労働を必要とするのか?」と語り、CCTVでは、「H&Mはもはや全くファッショナブルではない。」と伝えている。さらには、外交省と商務省の両省が記者会見を開き、新疆での強制労働は「ナンセンス」だと述べた。
『スカイニュース』は、中国の公式メディアは、通常このような速さで反応することはないと指摘している。同メディアは、中国の一部のインターネットユーザーの間で、実際に怒りの声が上がっているのは間違いないが、関係組織が一丸となって動く今回の対応ぶりは、かなり前から予告されていた欧米諸国による中国への制裁措置に対し、中国があらかじめ独自の対応策を練っていた可能性が高いと伝えている。
米ニュースサイト『ブライトバート』によると、中国共産党の英字機関紙「グローバルタイムズ」は25日、H&Mが新疆の綿花産業から距離を置いたことに対して批判が殺到したことを受け、ナイキが「次のターゲット」であると伝えた。「グローバルタイムズ」によると、新疆ウイグル自治区の綿花を製品に使用していないと公表したナイキに対し、「#nike」というハッシュタグが中国版ツイッターの微博(Weibo)で最大のトレンドとなり、7億2千万のビューと53万のコメントが寄せられた。
編集長である胡錫進は25日に掲載した社説で、ナイキが強制労働を公に拒絶したことで中国政府からの反発を受け、「ついに報いを受けた」ことを称賛し、「すべての多国籍企業は地政学からは距離を置くべきだ」と述べている。
『スカイニュース』は、アメリカのトランプ政権は、貿易関税を通じて中国とのデカップリングを追求したが、失敗に終わった。しかし、少なくともファッション業界では、人権を理由にデカップリングが起こっている、と報じている。
中国はH&Mにとって4番目に大きな市場であり、ナイキにとっては全売上の19%を占めている。
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