9月に行われたカナダの総選挙で中国がカナダの国内政治に干渉していたことに懸念の声が上がっている一方で、再選を果たしたトルドー首相とその政権は一切関心を示していない。
カナダ
『ナショナルポスト』紙によると、数ヶ月前から、情報操作の専門家たちは、中国が展開している内政干渉活動について警鐘を鳴らしてきたという。カナダ安全情報局(CSIS)は2月に、中国が積極的にカナダ人をターゲットにしていると指摘し、国会議員による国家安全保障情報委員会やマクドナルド・ローリエ研究所などの市民社会の関係者も同様の見解を示してきた。
『ナショナルポスト』紙は、「中国の独裁政権は、人権侵害を批判する世界各地の人々や、脅威とみなす人々を罰することに熱心」であり、カナダにおいては、「中国の経済的帝国主義と強圧的な外交政策に対抗するために連邦政府にもっと積極的に対応するよう主張してきた保守党の政治家たちを弱体化させることを意味する」と指摘している。9月の選挙中にも、中国の国営メディアは、カナダが保守党政権を選択した場合、報復を受けることをほのめかしていた。
他にも、保守党のケニー・チウ元議員が、外国政府のエージェントを登録するための私設法案を提出したところ、カナダの中国系コミュニティにはチウ議員を誹謗中傷する情報が氾濫した。その多くは中国政府から発信されたものと見られている。
チウ氏の法案は、外国政府のために正式に活動するロビイストを登録対象としていたにもかかわらず、デマ情報により中国系カナダ人の国家登録簿を作るものだと誤解されてしまった。チウ氏は、9月の選挙活動中に、自分に対するこれまで経験したことのなかった不可解な憎悪を目の当たりにし、再選を逃したと述べている。今回の選挙では、保守党はほとんどの地域で得票率を維持したが、大規模な中国人コミュニティがある地域では支持率が最大で10%も低下し、いくつかの地域ではトルドー首相の自由党に逆転されている。
同紙は、中国のプロパガンダが部分的に効果的なのは、カナダ人が、中国という国が行ったことに対して中国系カナダ人を罰する傾向があるためだと指摘している。例えば、コロナの流行が始まった2020年、バンクーバーで報告された反アジアのヘイトクライムは、前年の8倍に増えた。中国系カナダ人コミュニティの一部が、中国政府への批判と中国系カナダ人への迫害を同一視するプロパガンダを受け入れてしまったことは、当然のことと言えるだろう。
一方で、中国はスパイ活動や影響力を行使するために、世界各地の中国系ディアスポラを武器にしようとしている。例えば、カナダの国家安全保障情報委員会によると、中国統一戦線工作部は、中国系カナダ人コミュニティを取り込むために、ビジネス、政治、メディアの工作員を利用しているという。『ナショナルポスト』紙は、「中国が世界のディアスポラを利用することは、中国系カナダ人を危険にさらす一方で、中国政府に利益をもたらしている」と述べている。「中国系カナダ人が母国との正当なつながりによって誤って罰せられれば、中国のプロパガンダを正当化することになる」ため、カナダ当局は中国の影響力のネットワークを簡単に排除することはできないとも伝えている。中国は、中国系カナダ人コミュニティに疑念を抱かせるような行動をとった上で、中国系カナダ人の人権を擁護する立場に立つことで、コミュニティ内での影響力を高めている。カナダは、この悪循環を断ち切ることが重要だという。
しかし同紙は、オーストラリアの中国に対する毅然とした態度とは反対に、トルドー政権は中国によるカナダ政治への干渉に無頓着であるだけでなく、中国に対し非常に弱い態度を取ってきたと批判している。現政権が中国に妥協していることで、偽りの平和しか得られていないと指摘している。
マクドナルド・ローリエ研究所のシニア研究員であり、北京のカナダ大使館で参事官を務めた経験もあるチャールズ・バートン氏は、カナダ『グローブ・アンド・メール』紙のオピニオン欄で、カナダ政府は中国と西側諸国の両方にいい顔をすることは出来ないと指摘している。
先週、カナダ外相は、中国に対して「共存」「競争」「協力」「挑戦」の4つのアプローチをとることを表明した。バートン氏は、「この発言は、オタワの中国大使館を大いに喜ばせたことだろう。カナダは中国共産党の統一戦線工作部が提唱する、違いを脇に置いて共通点を探そうという戦略に陥ろうとしていることを示唆している。」と述べている。そして、「トルドー首相は、ファーウェイをカナダの5Gインフラから排除するかどうかに関する決定を 数週間後 に伝えると言っている。この決定を何年も先延ばしにした挙句、ファイブアイズの同盟国がいずれもファーウェイの5Gネットワークへの参入を事実上禁止しているのに、カナダ政府はまだゆっくりと進めようとしているのは困ったことだ。」と指摘している。同氏は、「専門家たちは、ファーウェイの5Gが、中国国家のスパイ活動や、紛争時にカナダの重要インフラを無力化するために利用される可能性があることを認めている。たとえネットワークの周辺部であっても、ファーウェイの5Gへの参入を認めることは、安全性を犠牲にした宥和に他ならない。カナダが中国との協力関係を続ける限り、中国共産党が常に優位に立つという非対称な力関係の中での協力となる。」と説明している。
また、「すでにカナダは、米国、英国、オーストラリアによる新しいAUKUS条約から除外されており、米国、インド、日本、オーストラリアで構成される四カ国による安全保障の協力体制への参加にも呼ばれていない。バイデン大統領の次期駐カナダ米国大使候補者は、カナダによる中国共産党に対する明確で一貫した戦略の策定を待っていることを明らかにしている。」とくぎを刺している。
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10月8日付
『AP通信』他:「10月8日に発生した出来事」
●1871年
・シカゴ大火が発生し、消失家屋約10万棟、犠牲者推定300人、損失額約2億ドル。出火原因は不詳ながら、異常乾燥・強風、更には消防機関の連絡ミス等が重なって大惨事。以降、木造住宅は禁止され、レンガ・石・鉄製建物が推奨され、後に摩天楼と呼ばれる高層建築物の建設ラッシュが勃発。
●1918年
・米陸軍のアルビン・ヨーク伍長(最下級の下士官、1887~1964年)がフランス・アルゴンヌで自軍の10倍以上のドイツ軍と戦闘。結果、ドイツ兵25人を殺害し、132人を捕虜にするという奇跡的大勝利。後に、米国及びフランスから名誉勲章受章。
●1934年
・ドイツ生まれの大工ブルーノ・ハウプトマン容疑者(1899~1936年)に対して、ニュージャージー州大陪審が米飛行家チャールズ・リンドバーグ(1902~1974年、注1後記)の生後20ヵ月の息子を誘拐・殺害した容疑で有罪認定。同容疑者は無罪を主張するも、死刑が確定し、1936年死刑執行。
●1945年
・第33代米大統領ハリー・トルーマン(1884~1972年、1945~1953年在任)がテネシー州・ティプトンビルでの記者会見で、(日本投下の)原爆開発計画について連合国の英国及びカナダとのみ情報共有していたと明言。
●1956年
・米メジャーリーグのワールドシリーズ(優勝決定戦)の第5戦でニューヨーク・ヤンキース(NYY)のドン・ラーセン投手(当時27歳)が、ポストシーズン(公式戦後の優勝決定戦)史上唯一となる完全試合(ヒット・四死球含めて一人のランナーも出さない試合)を達成。対戦相手はブルックリン・ドジャースで、最終的にNYYがサブウェイシリーズ(各々のホーム球場がNY地下鉄で往来可能なことから命名)を制して優勝。
●1981年
・第40代米大統領ロナルド・レーガン(1911~2004年、1981~1989年在任)がホワイトハウスで、2日前に死去したエジプトのアンワル・サーダート元大統領(1918~1981年)の葬儀に出席するジミー・カーター前大統領(第39代、1977~1981年在任)、ジェラルド・フォード元大統領(第38代、1974~1977年在任)、リチャード・ニクソン元大統領(第37代、1969~1974年在任)に見送りの挨拶。
●1985年
・パレスチナ解放戦線(PLF、1997年創設)4人がイタリア旅客船“アキレ・ラウロ”号をハイジャック(日本語表現はシージャック)。車椅子のユダヤ系米国人乗船客レオン・クリングホーファー(享年69)を殺害し、海に投棄。イスラエルの収容所にいたPLFメンバー50人の解放等を要求したが、拒否されたための見せしめの犯行。
●1997年
・米航空宇宙局(NASA、1958年設立)が、マーズ・パスファインダー(MP、注2後記)によって、火星はかつて生命が存在しうる環境にあったことを示す証拠が得られたと発表。
●1998年
・米議会下院が、ホワイトハウス内での不適切行為(女性研修生との性行為)を理由として、ビル・クリントン第42代大統領(当時52歳、1993~2001年在任)弾劾訴追評決(賛成258票、反対176票)。ただ、議会上院での評決が50対50と、有罪評決となる3分の2に至らず、大統領罷免は免れた。
●2002年
・米連邦裁判所が、ジョージ・ブッシュ第43代大統領(当時56歳、2001~2009年在任)が求めた米西海岸港湾における労働組合の10日間にわたる大規模ストライキを終結させる命令の有効性を支持する判断。これによって、1日当たり10億~20億(1,100億~2,200億円)経済損失を食い止め。
●2005年
・当日午前8時50分にパキスタン北部のカシミール地方(一部パキスタンが実効支配)でマグニチュード7.6の地震が発生。パキスタン・インド併せて推定8万6千人が犠牲。
●2010年
・アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン(求道者の意)によって誘拐されていた英国人救援活動家のリンダ・ノーグローブ(享年36)が、米軍特殊部隊の救出作戦の途中、不幸なことに米軍手榴弾によって爆死。
●2011年
・マディソン(ウィスコンシン州中南部)在の米長老教会(1983年設立、プロテスタントキリスト教の主流派)において、初めてゲイであることを公開しているスコット・アンダーソンが長老派教会牧師に就任。
●2016年
・共和党における大統領選候補者に立候補しているドナルド・トランプ(当時70歳)が、“米メディアや支配階級”が自身を大統領選から排除しようと“陰謀”を画策しているが、自身は選挙キャンペーンを継続するとツイート。多くの共和党支持者は、トランプが2005年に女性蔑視や性的暴行を容認する下劣な発言をしていたことが発覚したことから、立候補を取り止めるよう要求。
●2020年
・ミシガン州当局が、トランプを支持する保守派極右組織メンバー6人が、トランプを非難する発言を繰り返していた民主党出身グレッチェン・ホイットマー同州知事(当時49歳)を誘拐しようとした容疑で逮捕。首謀者に懲役6年の有罪判決。また、別の7人が、同州都シカゴを襲って“内戦”を引き起こそうとした容疑で訴追。大統領選民主党候補のジョー・バイデン(当時77歳)が、今年初めにトランプが“ミシガンを解放せよ”とツイートしたことが原因だとして糾弾。
(注1)チャールズ・リンドバーグ:1927年に「スピリット・オブ・セントルイス」と名づけた単葉単発単座のプロペラ機でニューヨーク・パリ間を飛び、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功。1931年には北太平洋横断飛行にも成功。
(注2)MP:NASAがディスカバリー計画の一環として行った火星探査計画、またはその探査機群の総称。1996年12月4日に地球を発ち、7ヵ月の後、1997年7月4日に火星に着陸。この計画で、約1万6000枚の写真と、大量の大気や岩石のデータを送信。1976年のバイキング2号以来、実に20年ぶりに火星に着陸した探査機となった。
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