中東などの産油国でつくる石油輸出国機構(OPEC、注後記)は、1970年代には世界の原油生産の5割を超え、世界の石油市場を席巻していたが、米国、ロシア、イギリス、メキシコなどの非OPEC諸国の産油量増大に伴い、シェアも4割弱となり影響力は減少した。そして、米国のシェール革命(シェールオイル生産増大に伴う石油供給ソースの大変革)に伴う原油生産増と、中国などの新興国の石油需要減退に伴い、2014年6月をピークに原油価格は暴落し、未だ低迷が続いている。そこで、石油市場における影響力復権を狙って、OPECが世界の原油生産シェアの増大を狙うべく、大胆な将来計画を発表したと各国メディアが伝えた。中には、石油代替エネルギーを過小評価しているとの厳しいコメントを掲載するメディアもある。
12月23日付中国
『グローバル・タイムズ(人民日報英語版)』(
『新華社通信』記事引用)は、「OPEC、2020年には原油価格が70ドルまで上昇と予見」と題して、「OPECが12月23日に公表した“世界石油見通し報告”によると、目下低迷している原油価格は、2020年には1バレル(約159リットル)当り70ドルまで、また、2040年には95ドルまで再び上昇するという。但し、この予想価格は、2014年6月に記録した114ドルには遥かに及ばない。なお、同報告によると、2020年には世界の原油需要量が日量9,740万バレル、そして2040年には1億1,000万バレルまで増え、依然世界のエネルギー需要の中で石油の締める割合は最大を維持するとしている。」と報じた。
同日付米
『NBCニュース』は、「OPEC、電気自動車の将来に警鐘」と題して、「OPEC発表の報告では、2040年においても、世界におけるガソリン車は94%を占めるという。OPECによれば、電気自動車や水素電池自動車、また、天然ガスなどの代替エネルギーによる車は価格が高止まりで、また、エネルギー補充ステーションの整備が進まず、結局今のガソリン車の優位は変わらないとする。そして、2040年までも、世界の石油需要の40%は、ハイブリッドも含めたガソリン車からのもので大きな変化はないという。」と伝えた。
同日付米
『ワシントン・ポスト』紙は、「オバマ政権の外交戦略の勝利は、原油価格低迷のお蔭」と題して、「1年半以上続く原油価格低迷により、米国内でも一部収入減にはなるものの、オバマ政権にとっては、原油輸出収入に大きく頼るロシア(政敵のプーチン大統領)やベネズエラ(反米急先鋒のマドゥロ大統領)に大打撃を与えられると歓迎している。更に、欧州、日本、そして米国自身も、原油価格低迷によって景気回復につながっているとする。」とし、「原油価格低迷が続く最大の原因は、中国などの原油需要減退にも拘らず、サウジアラビアが減産するどころか、最高記録に近い原油生産を継続しているところにある。同国の狙いは、高コストの北極海油田、カナダのオイルサンド、ブラジル沖深海油田、更に、米国のシェールオイルに打撃を与えることだけでなく、長年のライバルであるイラクやイランに対して、同国の産油量最大シェアを堅持する意向とみられる。」と報じた。
一方、同日付英
『テレグラフ』紙は、「OPECにとって電気自動車は致命的な脅威」と題して、「OPECの報告は主要な点で間違った見方をしている。2040年でも、石油等化石燃料が世界のエネルギーの78%を占めるとか、電気自動車や水素電池車が金ばかりかかる代物だとか、更に、今年の国連気候変動枠組み条約締約国会議COP21の合意事項は石油業界に何ら影響を与えないとか等々である。その中でも最たるものは、今後25年の間、4億台と世界で最も多くの自動車王国となる中国含めて、94%はガソリンやディーゼル車が占めるということである。しかし、アップルやグーグルが新たに電気自動車産業に進出しているだけでなく、先行しているテスラ社は2017年には3万5千ドル(約420万円)で売り出そうとしているし、トヨタの水素電池車、フォルクスワーゲンやフォードも電気自動車やハイブリッド車を販売しようとしており、2030年代にかけて世の中の趨勢は電気自動車等、非ガソリン車、もしくはガソリン消費が僅かな車にシフトしていくとみられる。」とし、「15年前に本紙がサウジアラビアのヤマニ石油相(当時)にインタビューした際、彼は、今後30年後には原油生産量が最大になっても、原油を必要とする国がなくなるような時代が来るかも知れない、と懸念を表明していたが、未だに彼の予言に耳を傾けようとしていない。」と伝えた。
なお、OPEC報告では、2040年には日量4,070万バレルと、現在より3割以上の大幅増となり、非OPEC諸国の日量3,950万バレルを上回り、OPECが復権するとしている。現在は石油収入で潤い、それのみに依存している中東諸国が、脱石油・他産業育成に努めているカタールを除き、15年後には産業が荒廃し、新たなテロリスト集団を生み出すような国にならないよう望むばかりである。
(注)OPEC:1960年9月設立の世界最大のカルテルで本部はウィーン(オーストリア)。現参加国はサウジアラビア、イラン、イラク、アラブ首長国連邦、クウェート、ベネズエラなど12ヵ国。1970年代は、世界石油資本(7シスターズと呼ばれる石油メジャー)に対抗して、世界の石油市場を席巻し、我が世の春を満喫したが、後に各国の石油備蓄の拡大、代替エネルギーへの促進、北海油田やメキシコなどの非OPEC諸国の産油量の増大などで、石油価格は長らく低迷し、1980年代~1990年代はその影響力を失墜させた。しかし、1999年にOPEC全加盟国が強調して生産調整に踏み切ったことや、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と呼ばれる新興国の石油需要増大で、再び石油価格は上昇して高値が続き、これに伴い、2000年代にかけてOPECの影響力は増した。
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