ロシアによる突然のウクライナ侵攻に対して、欧米諸国が更に厳しい経済制裁等を科そうとしている。中国は、2014年のクリミア半島併合以来続く対ロシア制裁に対して救いの手を差し伸べてきた。そこで、ロシアとしては今回も中国頼みとなるだろうが、多くの専門家は、中国としても10倍以上の貿易高を誇る欧米諸国との関係を絶ち切ってまでロシア救済に回る余裕はないとみている、と分析している。
2月26日付
『AP通信』は、「中国、新たな制裁を受けるロシアの救世主と期待されるも実は慎重」と題して、ロシアが、ウクライナ侵攻に伴う新たな制裁を科されても、中国の支援で乗り切れると期待しようが、肝心の中国側は、より慎重にならざるを得ないだろうと多くの専門家の分析結果を紹介している。
中国は、ロシアと盟友関係にある数少ない大国であることから、ロシアとしては、今回のウクライナ侵攻によって新たに科せられる制裁を骨抜きにするような支援を期待していると思われる。
しかし、中国の対米国・欧州市場の巨大さを考えた場合、果たして中国がそれを犠牲にしてロシア支援に回るか不確かである。
まず、中国が支援の一環でロシア産天然ガスやその他産品の輸入量を増やそうと考えても物理的に限界がある。
更に、中・ロ間連携が強化された昨年、両国間貿易高は1,469億ドル(約16兆8,935億円)まで増えたが、同年の中国と米国・欧州連合(EU)間貿易高は10倍以上の1兆6千億ドル(約184兆円)と膨大である。
英国の経済研究コンサルタント会社キャピタル・エコノミクス(1999年設立)アジア担当主任エコノミストのマーク・ウィリアム氏は、“中国が対ロシア、対欧米諸国の貿易高を秤にかけた場合、ロシアをこれまで以上に支援することで巨大市場を失うリスクを冒すとは思えない”と分析している。
中国政府として、対ロシア支援の姿勢はある一定限度までみせるだろうが、利益追求を第一に考える中国企業が、欧米諸国が科した制裁を大っぴらに破り、かつそのために自身にも制裁が科されるようなリスクをとることには尻込みするはずだ、とも付言した。
また、上海政法学院(1984年設立の公立大学)国際関係研究専門の李信氏(リー・シン)は、“中・ロ関係はこれまでの歴史の中で最も深いが、両国は同盟国ではない”とコメントした。
習近平国家主席(シー・チンピン、68歳)が2012年に政権を掌握して以来、共通の敵国である米国に対峙していくとの政策に伴って両国はかなり接近してきたものの、ウラジーミル・プーチン大統領(69歳)は、経済規模が拡大する中国が中央アジアやロシア極東で影響力を強めることを快く思っていないからだ、という。
一方、米国NPOアジア・ソサイエティ(1956年設立)傘下のアジア・ソサイエティ豪州代表のケビン・ラッド元豪州首相(64歳)は、“中国がどの程度ロシアを支援するかは、その結果起こるであろう長期間の問題をどううまく乗り越えられるかの判断にかかっている”と分析している。
中国は、2014年のクリミア半島併合で制裁を科せられたロシアに救いの手を差し伸べるべく、ロシア産天然ガスを大量に輸入してきていて、プーチンにとってその取引は命綱となっている。
英国の情報提供会社IHSマーキット(1959年設立)アジア太平洋担当主任エコノミストのラジブ・ビスワズ氏は、“中国向け輸出は昨年、ロシアの総輸出額の6分の1になっていて、その3分の2が原油及び天然ガスであったことから、中国は今やロシアの重要なエネルギー輸出先となっている”と表明した。
ただ、両国は先月、天然ガスの30ヵ年供給契約を締結しているが、現在敷設されているパイプラインでの供給量は限界にきていて、供給量増のための追加のパイプライン敷設工事に少なくともあと3年かかるという。
更に、欧米諸国がウクライナ侵攻で対ロシア制裁を更に強化してきた場合、中国としてはロシア以外の世界市場で事業を展開している中国国営銀行や企業を擁護する必要があることから、ロシアに対して大胆な救援策を講じることはできない恐れがある。
上海政法学院の李氏は、ロシア企業と合弁を組んでいるいくつかの中国石油・天然ガス会社がこれまでの欧米諸国の制裁で大きく傷ついており、“これら中国企業は、これ以上の制裁による悪影響を被ることを非常に懸念しているからである”と付言している。
閉じる
日本は、米国が警戒するイランと親交が深く、安倍晋三首相(当時65歳)が2019年にイラン最高指導者を仲介訪問した程である。一方、イランと犬猿の仲のイスラエルとも関係強化に努めていて、2014年のベンヤミン・ネタニヤフ首相(当時64歳)の来日を契機に両国間投資協定等が発効している。かかる背景下、2021年の日本からイスラエル向け投資が前年比倍増となり最多を更新している。
1月9日付
『ジ・アルゲマイナー』(1972年創刊のユダヤ系週刊誌):「日本の2021年イスラエル向け投資総額が29億ドルと最多更新」
イスラエルのコンサルタント会社ハレル・ヘルツ・インベストメントハウス(HHIH、1994年設立、イスラエル・日本間投資に特化)が1月9日にリリースした報告によると、2021年のイスラエル先端技術部門への海外からの投資額が過去最多となり、そのうち日本からの投資額が多くを占めているという。
それによると、日本の企業の対イスラエル投資額は29億4,500万ドル(約3,387億円)と、前年比+190%と過去最多を記録している。
投資件数も、2019年70件、2020年63件だったのに対して、2021年は85件と、海外企業の対イスラエル全投資中の15.8%を占めている。
更に特徴的であることには、2015年当時の日本の投資先の61%が移動通信やインターネット分野であったのに対して、2021年には、先の分野が13%まで減少し、代わって生命科学、医薬品、フードテック(注1後記)、サイバーセキュリティ、フィンテック(注2後記)、クリーンテック(注3後記)及び自動車産業分野向け投資額が増加している。
2000年から現在までの対イスラエル投資額は、総計130億ドル(約1兆4,950億円)に上る。
特に、ベンヤミン・ネタニヤフ首相及び安倍晋三首相が相互訪問を行ったことを契機に、2015年以降の対イスラエル投資が活発化している。
これに伴い、2017年には日本・イスラエル投資協定(注4後記)や安全保障に関わる覚書が締結され、サイバーセキュリティ、宇宙開発、学術研究及び農業分野での相互協力が促進されてきている。
その上で、2020年に日本の銀行や証券会社がイスラエルに拠点を設けることが盛んになったが、2021年にはベンチャーキャピタルの進出が目覚ましい。
日本の大手IT企業のNTT(1952年創業)やソフトバンク(1984年前身の日本テレコム設立)を含めて、現在18社のベンチャー企業が進出してきている。
また、日本企業によるイスラエル企業の買収・事業提携も活発化していて、イスラエル医薬品メーカーのイタマー・メディカル(1997年設立)が総合化学メーカー旭化成グループ(1949年前身設立)傘下の救急医療機器メーカーのゾール・メディカル(2012年設立)に、医療機器メーカーのメディテイト(2007年設立)が光学機器・電子機器メーカーのオリンパス(1919年設立)に、そして半導体企業セレノ(2005年設立)が大手半導体メーカーのルネサス・エレクトロニクス(2003年日立・三菱の半導体部門の統合で設立)にそれぞれ買収されている。
HHIHのエルナハン・ハレルCEOは、上記の買収案件は全て“ディジタル媒介投資”案件で、ズーム会議等を通じての交渉の結果成立したものであり、正に新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題で対面交渉ができない時代の産物であるとする。
更に同CEOは、対面交渉を経ずにかかる合意に至る程、両国の企業間の信頼関係が深まっていることの証左だとする。
なお、HHIHによると、イスラエル企業にとっても日本の存在は大きいとする。
何故なら、米中貿易紛争や中国と東アジア諸国との緊張が激化していることから、イスラエル側にとってアジア地域における事業展開の拠点として日本を進出先とする考えが強まっているからである。
そして、目下多くのイスラエル企業が日本の提携先や支店設営を検討しているだけでなく、具体的に日本支店の責任者たる日本人マネージャーの雇用を始めているという。
(注1)フードテック:最新のテクノロジーを駆使することによって、全く新しい形で食品を開発したり、調理法を発見したりする技術。例えば、植物性たんぱく質から肉を再現したり、単品で必要な栄養素を摂取できるパスタを開発したりすることが可能になることから、世界的に深刻化する食糧問題を解決する方法として大きな期待を集めている。
(注2)フィンテック:ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を組み合わせた造語。既存の金融機関が持つ総合的な金融サービスのうち、顧客が必要とする一部の機能のみに特化することで、低コストでサービスを受けることが可能。フィンテックは情報処理技術を用いて新たな金融サービスを作り出すという用語として使われ、例えば、情報処理を用いて株のオンライン取引を提供することがある。
(注3)クリーンテック:再生不能資源を使用しない、または利用する量を抑制した製品やサービス・プロセスを開発すること。例えば、太陽光発電やハイブリッド車の開発が挙げられる。
(注4)日本・イスラエル投資協定:2017年2月署名、同年10月に発効した、投資の自由化、促進及び保護に関する日本とイスラエルとの間の協定。
閉じる