したたかなベトナム;米武器メーカーと折衝の背景は南シナ海領有権問題で対峙する中国への挑戦【欧米メディア】(2022/12/16)
12月15日付GLOBALi
「ベトナム;脱ロシア製武器依存を図り米武器メーカーと折衝」で触れたとおり、長い間ロシアからの武器調達に頼ってきたベトナムが、ヘリコプターや無人攻撃機等手当てのために米武器メーカーと折衝を重ねている。ただ、その背景は、ウクライナ戦争を契機に欧米諸国による対ロシア制裁強化に伴うロシア製武器調達への悪影響のみならず、長い間対立してきた南シナ海における領有権問題でいよいよ中国との武力衝突も備えてのこともあると考えられる。
12月15日付米
『Foxニュース』は、「ベトナム、米武器メーカーと折衝の背景に南シナ海で領有権を争う諸島の前哨基地拡充」と題して、長い間南シナ海の領有権問題で対立しているベトナムが、実効支配を強化すべく、南沙諸島(スプラトリー諸島)の複数の環礁を埋め立てて前哨基地を設営しており、これが俄かに米武器メーカーと折衝を進める背景とみられると報じている。
香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は12月15日、防衛・国家安全保障問題研究のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS、1962年設立、本部ワシントンDC)が取り組んでいる「アジア海洋透明性イニシアティブ(AMTI、注後記)」プロジェクトが調査した報告を掲載した。...
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12月15日付米
『Foxニュース』は、「ベトナム、米武器メーカーと折衝の背景に南シナ海で領有権を争う諸島の前哨基地拡充」と題して、長い間南シナ海の領有権問題で対立しているベトナムが、実効支配を強化すべく、南沙諸島(スプラトリー諸島)の複数の環礁を埋め立てて前哨基地を設営しており、これが俄かに米武器メーカーと折衝を進める背景とみられると報じている。
香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は12月15日、防衛・国家安全保障問題研究のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS、1962年設立、本部ワシントンDC)が取り組んでいる「アジア海洋透明性イニシアティブ(AMTI、注後記)」プロジェクトが調査した報告を掲載した。
それによると、ベトナムが2022年後半、領有権問題となっている南シナ海の南沙諸島の複数の環礁を埋め立てて、計170ヘクタール(1,700平方キロメートル)の人工島を建設したという。
埋め立て工事を済ませたのは4つの小島・環礁で、ベトナムが実効支配しているナムイエット島・ピアソン礁・サンド礁・テネント礁である。
特に、最初の2つに造られた人工島は、39ヘクタール(390平方キロメートル)にも広げられていて、大型船が停泊できる港湾設備の建設が可能となっている。
また、ベトナムはその他5つの環礁の埋め立て工事にも着手しているとする。
そのうち、バーク・カナダ礁は既に23ヘクタール(230平方キロメートル)も広げられており、まもなく大掛かりな工事が始められるようになっているという。
かかる建設工事は、ベトナムによる南シナ海領有権問題に関わる大胆な活動と言えるが、中国が2013から2016年の間に実施した、のべ1,295ヘクタール(1万2,950平方キロメートル)に及ぶ人工島建設と比べると見劣りがする。
中国は更に、これら人工島を軍事拠点化して、既に対地・対空ミサイル、電子妨害装置のみならず、軍用機離発着が可能な滑走路まで設営している。
中国はこれらを用いて、米国等が実施している“航行の自由作戦”への強烈な対抗措置を講じたりして、同海域ほとんど全てにおける領有権主張を強靭なものにしつつある。
英国メディア『ザ・ガーディアン』紙は、ベトナムが使用しているのはグラブ型浚渫機であり、“環礁を浅く掘って埋め立てを行っていることから、中国が行った浚渫・埋め立て工事より環礁の破壊度合は少ない”と報じている。
以上より、CSISのAMTI調査報告では、“ベトナムが2022年に実施した小島・環礁埋め立て工事は、南シナ海における領有権主張をより鮮明に表す意図がある”と結論付けられているが、“(この活動に対して)中国や他の領有権主張国がどういう対応を見せるのか、注目していく必要がある”としている。
なお、同海域で他に領有権を主張しているのは、台湾・フィリピン・ブルネイ・マレーシアで、ベトナムと同様中国の一方的な領有権主張に懸念を示しているが、ベトナムが主張するような、どの小島・環礁がどの国に帰属しているかとの見解には賛同していない。
一方、『ロイター通信』は12月15日、米武器メーカーのロッキードマーティン・ボーイング・レイセオン・テクストロン等がベトナム政府と折衝していて、ヘリコプターや無人攻撃機の供給について協議していると報じた。
同報道によると、これらのメーカー代表が、ベトナムが初めて開催した兵器・装備品国際展示会への参加を契機にベトナムを訪問して、軍事装備品提供の交渉を行ったという。
なお、対象品目の無人攻撃機については、今回ベトナムが南沙諸島内に築いた小規模の人工島において、周辺哨戒や対艦攻撃を想定した場合、有力な武器となるとみられる。
同日付欧米『ロイター通信』は、「米シンクタンク、ベトナムが南シナ海領有権主張で実力行使との調査報告」として詳報している。
CSIS調査報告によると、ベトナムが2022年に南沙諸島内に計420エーカー(170ヘクタール)の埋め立て工事を行った結果、同国が直近10年で実施してきた工事と併せて、のべ540エーカー(220ヘクタール、2,200平方キロメートル)にも達したという。
この結果、同国は4つの人工島を建設した上、更に他にも5つの小島・環礁で浚渫工事を展開しているとする。
ただ、“中国が、2013から2016年にかけて実施した広大な埋め立て工事面積の3,200エーカー(1,300ヘクタール、1万3千平方キロメートル)より遥かに狭い”としている。
しかし、“これまで中国が一方的に領有権を主張し、実力行動に出てきていたことに対して、今回のベトナムによる実力行使は、同海域における領有権問題で同国の主張をより強く示すことになる”とし、“今後の中国や他の領有権主張国の行動が注目される”と結んでいる。
(注)AMTI:南シナ海を航行する船舶の船籍を特定したり、中国が進める人工島の建設の様子を追ったりして、分析をウェブサイトで公開する調査プロジェクト。
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気候変動対策の世界的リーダーを自認する英国が30年振りに新規石炭鉱山開発許可【米・英国メディア】(2022/12/09)
日本は、環境問題に直結する石炭火力発電所の新規増設を容認しているとして、毎度の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の開催時に環境活動団体から「化石賞」という不名誉な称号を与えられている。一方、英国政府は、気候変動対策で世界のリーダーと自認し、他国へ対策目標達成を促している。ところがこの程、その英国で30年振りに新規石炭鉱山開発が許可されるに至り、英国のみならず世界の環境保護団体から猛烈な非難を浴びせられている。
12月7日付米
『AP通信』は、「英国、数十年振りに新規石炭鉱山開発を許可し環境保護グループから猛批判」と題して、気候変動対策で世界のリーダーと自認する英国政府が、30年振りに新規石炭鉱山開発を許可することとなり、環境保護対策に逆行と猛烈な非難を浴びていると報じた。
英国保守政府は12月7日、30年振りに新規石炭鉱山開発を許可したが、気候変動対策に逆行する行為だとして、環境保護活動家らから猛烈に非難されている。...
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12月7日付米
『AP通信』は、「英国、数十年振りに新規石炭鉱山開発を許可し環境保護グループから猛批判」と題して、気候変動対策で世界のリーダーと自認する英国政府が、30年振りに新規石炭鉱山開発を許可することとなり、環境保護対策に逆行と猛烈な非難を浴びていると報じた。
英国保守政府は12月7日、30年振りに新規石炭鉱山開発を許可したが、気候変動対策に逆行する行為だとして、環境保護活動家らから猛烈に非難されている。
上記決定に先立って、庶民院(下院に相当)は、陸上の集合型風力発電所建設を禁止する措置を覆す決定をしている。
英国における集合型風力発電所は洋上が大半であり、保守党政権は2015年に、地元の反対を理由として、陸上の建設計画を禁止する決定をしていたが、リシ・スナク新首相(42歳、2022年就任)は12月6日、当該措置を覆した。
そこで、野党・労働党らは、鉱山開発許可に対する非難をかわそうとするものだと批判した。
しかし、マイケル・ゴーブ内閣府担当大臣(55歳)は、英国北西部カンブリア・カウンティ(州・郡に相当)の当該新規炭鉱は“気候変動に影響を及ぼすことはない”とし、“従って(今回の措置が)政府の気候変動対策と矛盾することはない”と強調している。
すなわち、今回の新規炭鉱は製鉄生産に使用するコークス用原料炭であり、かつ、現行の輸入炭の代替ソースとなるものであるとし、環境問題に直結する火力発電用燃料炭ではないとしている。
同新規炭鉱では、アイリッシュ海海底から原炭を算出し、ロンドンの340マイル(550キロメートル)北西のホワイトヘブンに建設される閉鎖様式のプロセスプラントで不純物が除去されて原料炭に精製される。
支持グループは、数十年間に多くの炭鉱や工場が閉鎖されて経済逼迫している同カウンティに新たな雇用を創出すると主張する。
これに対して反対派は、英国が率先して化石燃料からクリーン再生可能エネルギーに転換する等、気候変動対策で世界をリードするとの態勢を蔑ろにするものだ、とした上で、英国が内外に示している、2035年までに発電源を全てクリーン再生可能エネルギーとすることや、2050年までにカーボンニュートラルを達成するとの目標を大きく毀損することになる、と反論している。
貴族院(上院に相当)気候変動対策委員会のジョン・ガマー委員長(83歳、1970年初当選の保守党議員)は、この決定によって他国に対して、“英国の気候変動対策が変更された等の誤ったメッセージ”となると批判した。
グリーンピース(注後記)英国支部のダグ・パー政策本部長も、“英国政府は、気候変動対策の世界のリーダーではなく、気候変動問題懐疑派の総元締めになろうとしていると評価される”と懸念を表明した。
英国は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻以来続騰する原油・天然ガス価格に対抗するため、エネルギー源を国内主流とすべく対応してきているものの、結果として電力料金等が以前より2倍や3倍となり、各世帯を苦しめることになっている。
同日付英国『ザ・ガーディアン』紙は、「カンブリア・カウンティの新規鉱山開発は明らかに人道に対する犯罪」と批判している。
12月7日に英国政府が決定した、カンブリア・カウンティの新規鉱山開発許可は、明らかに気候変動対策に逆行するものである。
更に、他国に石炭利用を減少させるよう訴えてきていることからも、彼らを欺く行為だとも非難されよう。
確かに、かつて隆盛を誇った石炭産業が再興されれば、地元民に新規雇用や経済活性をもたらすかも知れない。
しかし、当該新規炭鉱が稼働するに当たって、毎年900万トンもの二酸化炭素を発生すると目され、これはエディンバラ(スコットランド首都)・カーディフ(ウェールズ首都)・ベルファスト(北アイルランド首都)を合わせた大量レベルのものである。
与党・保守党の重鎮であり、2021年グラスゴー(スコットランド)開催のCOP26の議長を務めたアロク・シャーマ庶民院議員(55歳、2010年初当選)が、当該新規炭鉱開発は許可すべきではないと強く抗議したにも拘らず、スナク政権はこれを無視して強行した。
すなわち、現政権は、かつて気候変動対策について世界をリードしていくとした決意を全く反故にしてしまったと言わざるを得ない。
更に強調すべきことは、原料炭を多く使用するブリティッシュ・スティール(1951年前身設立)の技術者が、カンブリア・カウンティの新規開発原料炭は硫黄分が高すぎるため、“目下使用しているロシア産原料炭の代替ソースになり得ない”、とコメントしていることである。
なお、鉄鋼業界は目下、“グリーン・スティール産業”を目指して、再生可能エネルギーを電源とした電炉を使って、ほとんど二酸化炭素を発生させない直接還元製法で鉄鋼生産を行う計画に取り組んでいる。
(注)グリーンピース:39ヵ国以上に拠点を置く非政府の自然保護・環境保護団体。1971年設立。オランダ・アムステルダムに国際統制機関を置く。
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