英国の国民投票をめぐるアジア経済への影響(2016/06/21)
英国の欧州連合(EU)離脱問題を巡る世論調査で、残留派が巻き返しをしたというニュースから、経済は回復ムードにみまわれ、月曜の株価と円高が一時落ち着きを取り戻した。23日(木)に行われる英国の国民投票をひかえ、今週は各日が緊張に見舞われる週となる。英国がEU離脱からした場合、アジアで最も影響をうけるのは香港で、中国をはじめアジア各国にも波及が及ぶと予測される。
6月21日付
『ロイター通信』は「英国のEU離脱問題下で日本経済混乱、ロイター短観」との見出しで以下のように報道している。
・日銀の4半期短観調査に基づいたロイター短観によると、英国のEU離脱問題によるリスク回避ムードから安全な円が上昇した円高を反映、製造業の景況感は先月よりやや上昇。調査は509社(258社が回答)の大中企業を対象とし英国の国民投票の数日前となった今月6~16日実施。個人消費の落ちこみから、サービス業の6月下降。...
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6月21日付
『ロイター通信』は「英国のEU離脱問題下で日本経済混乱、ロイター短観」との見出しで以下のように報道している。
・日銀の4半期短観調査に基づいたロイター短観によると、英国のEU離脱問題によるリスク回避ムードから安全な円が上昇した円高を反映、製造業の景況感は先月よりやや上昇。調査は509社(258社が回答)の大中企業を対象とし英国の国民投票の数日前となった今月6~16日実施。個人消費の落ちこみから、サービス業の6月下降。
・6月の業況判断指数は製造業で、日銀が金融緩和政策を発表した2013年4月の最低同等5月の「2」から「3」に上昇。サービス業指数は5月の「19」から「17」に低下。国内消費の落ち込みから安部首相が消費増税を2019年まで延期した2013年4月以来最低。
・匿名の輸送設備メーカーのマネージャーは、「急激な円高で、輸出価格が低下してきている。」と回答。又、小売業者は、「円高で海外からの旅行者が足踏み状態で、株価下落で富裕層は消費行動が鈍っている」と回答
・調査結果は日本の景況の低迷を示唆するもの。先週日本銀行は、景気刺激策の実施を取りやめたため、円高が進み、政治家は投資家円高への警戒を求めた。製造業、サービス業とも今後3ヶ月は成長材料が不足し経済の回復が鈍ると見られる。
20日付米
『ウォールストリートジャーナル』は「英国EU残留期待でアジア市場回復」との見出しで次のように報道している。
・月曜市場は最新の調査結果でEU残留が離脱を上回った事を受けて、日本株が回復しアジア市場も押し上げ、日経平均株価は先週の6%下落から、2.3%上昇に転じた。月曜の円は0.5%対ドル円安に転じ、1ドル104.63円。EU離脱の不安が解消したことで、アジア通貨は対ドルで回復していきている。
・インド市場は、ラジャン準備銀行総裁9月退任のニュースの影響から比較的静観。アナリストは、中央銀行がインフレを押さえ、不良債権問題に取り組むことに加え、対ドル通貨の安定に寄与するよう望んでいる。
21日付米
『ブルームバーグ』は「ブレクシット反発でアジア株回復」との見出しで次のように報道している。
・アジア株は英国の国民投票の世論調査を重視する日本の株主や投資家により、3ヶ月間低調だった。
・IG証券メルボルンのストラテジストは、市場は目先の「英国の国民投票」を注視しており、市場が敏感になっているため、今週は日に日に状況が変わるだろうとする。
・資産投資家のジョージ・ソロス氏は、英国のEU離脱が決まれば、ポンドは2割以上下落と予測。火曜ガーディアン紙の論説内で、「ブレクシットで資産家となる人も出てくるだろうが、投票者のほとんどは貧困層だ。」とした。
20日付香港・タイ
『アジアタイムズ』は「アジアは英国の国民投票の影響を避けられない」との見出しで次のように報道している。
・今週の英国のEU離脱か残留を問う国民投票は欧州の問題だと多くの人が認識しているが、アジアの旧イギリス連邦にも重大な余波をもたらす。
・英国とのアジア最大貿易国の香港が最も影響を受ける。次にバングラデッシュ、シンガポール、オーストラリアと続く。・米国、日本、韓国は英国との貿易と金融関係ではそれほど影響ない。
・中国は、香港が英国との金融仲介役のため影響を受ける。英国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加するなど中国は英国との経済協力関係を強めている。
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米・英国・ロシアメディア;英国のEU離脱問題近況(2016/05/30)
5月27日付
Globali「G7サミットにおける英国のEU離脱問題」で報じたとおり、主要7ヵ国・地域首脳会議(G7サミット)において、各国首脳の一致した考えから、G7サミットとして、英国の欧州連合(EU)残留を支持する共同声明を発信した。そして、当該国民投票まで4週間を切り、残留派・離脱派それぞれのキャンペーン活動が増々熱を帯びてきている。
5月29日付米
『ザ・デイリィ・コーラー(ワシントン特別区在政治紙)』オンラインニュースの報道記事「世論調査で、ほとんどのエコノミストがEU離脱は悪影響と評価」:
「・英国の
『ジ・オブザーバー(ザ・ガーディアン紙の日曜版)』紙に掲載された、イプソス・モーリ世論調査会社の直近の調査によると、600人余りのエコノミストの約90%が、英国のEU離脱で将来の経済成長に悪影響を与えると評価していることが判明。
・英国は、EU離脱の是非を問う国民投票を、1975年以来初めて実施(注1後記)。
・世論調査で辛うじて上回っているEU残留派は、EU離脱による景気後退を警告し、一方EU離脱派は、欧州からの移民の大量流入で国を危うくしていると反論。」
同日付英
『ポリティクス・ホーム』通信の報道記事「(EU離脱派)マイケル・ゴーヴとボリス・ジョンソン、(EU残留派)デイビッド・キャメロンへの攻撃激化」:
「・EU離脱派の双頭であるマイケル・ゴーヴ大法官(法務大臣)とボリス・ジョンソン元ロンドン市長は5月29日、連名の公開質問状をEU残留派のデイビッド・キャメロン首相宛に提出。
・同書簡で両氏は、このままEUに残留することで、EUからの大量移民で英国医療保健等が破綻する恐れがあるとの危機を強調。
・更に、英国はEU側に、EUからの移民受け入れは就業条件付きとすることを要求しているのに、EUはこれを無視しているとも主張。
・なお、2015年のEUからの移民は33万3千人と史上2番目。」
同日付英
『デイリィ・エクスプレス』紙の報道記事「キャメロンは上流階級のため、移民流入による危機把握は不可能」:
「・昨年5月の第2次キャメロン内閣で、労働・年金閣外大臣に就任した保守党のプリティ・パテル下院議員は、キャメロン首相とジョージ・オズボーン財務相は上流階級のため、大量移民流入で如何に英国民の雇用、医療保険、教育などが被害を被っているか理解できないと批判。
・パテル大臣は、キャメロン内閣(注2後記)において、EU離脱を主張する6大臣のうちのひとり。」
同日付ロシア
『スプートニク』国際オンラインニュースの報道記事「世論調査:英国のエ
コノミストの大多数がEU離脱によるGDPへの悪影響を懸念」:
「・直近の世論調査で、639人のエコノミストのうち562人(88%)が、EU離脱によって5年後には国内総生産(GDP)に深刻な影響を与える恐れがあると評価。
・更に、460人(72%)は、10年~20年以降も影響は続くとし、GDPに好影響と回答したのは僅か70人(11%)。」
各種世論調査では、EU残留派がリードしている模様だが、昨年5月の総選挙直前の世論調査で、断然有利とされた与党・保守党が僅差の勝利となったことがあるため、予断を許さない。
国民投票に参加するためには、6月7日までに有権者登録を行う必要があるが、残留支持派が多いとされる若い世代が、有権者登録をした上で然るべく投票をするかどうかに依るところが大きいと言われる。日本の総選挙において、浮動票と呼ばれる支持政党がない有権者の投票率に左右されるところと似ていると思われる。
(注1)1975年の国民投票:英国は1973年1月に、ヒース保守党内閣の下で欧州共同体(EC)に加盟したが、その条件として、加盟条件の再交渉を行ったうえで、それが成功した暁には総選挙もしくは諮問的国民投票で国民の審判をあおぐことを公約。これに基づき、当時のウィルソン政府が1975年6月に国民投票を実施。結果は、投票率64.5%、残留67.2%、脱退32.8%で、2対1以上の大差で英国民はEC残留を選択。
(注2)キャメロン内閣:現在は2015年5月発足の第2次内閣で、総勢30人の閣僚(うち、閣議に常時出席するのが23人で、あとは閣外大臣)。
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