既報どおり、今秋の大統領選再選を目指して、トランプ政権は対中強硬政策を次々に打ち出している。そして今度は、南シナ海の岩礁上に築かれた人工島建設工事に携わった中国企業に続いて、カンボジアのリゾート開発に関わった中国企業に対しても制裁を科すと発表した。
9月19日付米
『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』:「米国、カンボジアのリゾート開発に関わった中国企業に制裁」
米財務省は9月15日、カンボジアのリゾート開発のために、そこに住む村人らを強制的に退去させて38億ドル(約4千億円)の贅沢なカジノ施設を建設したとして、同プロジェクトを推進した中国企業に制裁を科すことを決めた。
中国の天津ユニオン・ディベロップメント・グループ(TUDG、1993年設立の不動産開発会社)が、2018年に自然豊かなコ・コング州(南西端のシャム湾に面した州)に建設したダラ・サコール・シーショア・リゾートで、“信頼筋の情報”によると、国際空港及び港湾を有し、中国軍の寄港が可能とされているという。...
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9月19日付米
『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』:「米国、カンボジアのリゾート開発に関わった中国企業に制裁」
米財務省は9月15日、カンボジアのリゾート開発のために、そこに住む村人らを強制的に退去させて38億ドル(約4千億円)の贅沢なカジノ施設を建設したとして、同プロジェクトを推進した中国企業に制裁を科すことを決めた。
中国の天津ユニオン・ディベロップメント・グループ(TUDG、1993年設立の不動産開発会社)が、2018年に自然豊かなコ・コング州(南西端のシャム湾に面した州)に建設したダラ・サコール・シーショア・リゾートで、“信頼筋の情報”によると、国際空港及び港湾を有し、中国軍の寄港が可能とされているという。
TUDGは同リゾート開発を、中国政府が主導している一帯一路経済圏構想の一環で建設されたものと発表していて、今回の米国措置に対して9月17日、カンボジア国営の『フレッシュ・ニュース』のインタビューに答えて、米財務省は“事実を無視”した上に勝手な話をでっち上げている、と非難した。
同社は、中国軍が同社施設を使用することなどあり得ないとし、カンボジアの高官がリリースしたいくつもの声明どおり、同国憲法によって他国軍隊への施設供与などは禁止されていると強調した。
しかし、マイク・ポンペオ国務長官は、ダラ・サコールは“中国軍の使用に供される”との確かな“信頼情報”があると表明している。
米財務省の制裁発表と同日の9月15日に同長官が発表した声明文で、“この事態はカンボジアの憲法を蔑ろにしているばかりか、カンボジアの主権並びに米同盟国の安全保障をも脅かすものだ”と言及している。
米政府はかねてより、同リゾートが中国海軍の使用に供される疑いがあると懸念を表明してきたが、カンボジア当局は何度もこれを否定している。
しかし、米財務省はTUDG制裁決定を発表した際、“同社の関係子会社がカンボジア住民から土地を収奪し、環境を破壊して住民らの生活を脅かしている”とした上で、“かかる開発は、カンボジアを中国軍の海外拠点及び中国人観光客の旅行先に仕立て上げる意図に他ならない”と断罪した。
米政府の糾弾によると、TUDGカンボジア子会社はフン・セン首相に近いクン・キム将軍の支援を得て事業を展開しており、同将軍が軍の権力を使って、同社がリゾート開発用の候補地を住民から収奪したという。
そこで米政府は2019年12月9日、同将軍及びその家族(妻と2人の子供)に制裁を科すことを決めている。
そして今回のTUDGへの制裁発表に当たって、スティーブン・ミニューシン財務相は9月15日、“TUDGは、ダラ・サコール・リゾート開発用の土地を獲得するためにカンボジア法人と偽って登録した後、同開発プロジェクト完工後にTUDG名義に戻し、現在も違法に事業を継続している”と非難した。
これに対して、在プノンペン中国大使館は9月16日、“米国の制裁決定は事実を無視した不当な措置である”とした上で、“カンボジアに進出している中国企業による合法的な投資に対する米国の一方的な措置は、同国市民の権利や利益を損なうばかりか、同国主権をも脅かすものだ”との反論声明を発表している。
一方、カンボジア人権擁護団体コ・コング州代表のホア・イン氏は『VOA』のインタビューに答えて、“同リゾート開発地の元の住民は皆漁師だが、TUDGが当初約束したのと異なり、シャム湾沿岸から遥か離れた土地に追いやられたため、漁業が継続できず非常に不満に思っている”とコメントした。
また、野党のカンボジア救国党のムー・ソチュア副代表は、米国の制裁決定を歓迎し、“カンボジア国内ではまだ一部としか言えないが、正しい司法判断が下された”と表明している。
同日付カンボジア『カンボジア・デイリィ』紙:「カンボジア国防相、米国によるカンボジア在中国企業への制裁は“不公平”と糾弾」
カンボジアのティア・バン国防相は9月18日、米政府が中国企業TUDGに対して、土地の収奪、人権侵害及び汚職を理由として制裁を科したのは不公平な措置だとした上で、同社の行為はカンボジア国内法に則って行われていると表明した。
米財務省は9月15日、国際人権擁護の責任に関わるマグニツキ-法(GMHRAA、注後記)に基づき、カンボジアのリゾート開発に関わったTUDGを人権侵害及び汚職行為を理由に制裁を科すことを決定している。
更に米政府は、同リゾート地の空港・港湾設備が、南シナ海領有権問題で中国と対峙している関係国への睨みを利かせるために、中国軍の使用に供される恐れがあるとの懸念を表明している。
(注)GMHRAA:2012年のオバマ政権下で制定された、人権蹂躙を犯した国、政府高官らに制裁を加えるための法律。元々は、2009年にロシア刑務所で非業の最期を遂げたロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキ-の人権を蹂躙したロシア高官に制裁を加えるために立法化。その後、新疆ウィグル自治区での中国高官によるウィグル族人権侵害等にも適用されている。
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カンボジアはこれまで、最も親中派の国家と言われ、例えば南シナ海での中国の一方的海洋進出についても、様々な国際会議の場で支持を表明している。見返りに中国側からの経済的支援を享受してきた訳だが、この程、米メディアによる“同国南西部のシャム湾沿岸軍港の独占使用権を中国に付与”との報道を繰り返し否定し、軍事政策では中国一辺倒ではない姿勢を明確にしている。
6月2日付米
『ザ・ディプロマット』オンラインニュース(
『AP通信』配信):「フン・セン首相、中国にカンボジア軍港独占使用権付与との報道を全面否定」
カンボジアのフン・セン首相(69歳、元軍人)は6月1日、中国に同国軍港独占使用権を付与したとの報道を繰り返し否定した。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、米高官が昨年作成された初期段階の中国・カンボジア間契約書案を手に入れたが、それによると、カンボジア南西部のシャム湾沿岸のリアム軍港独占使用権(中国軍兵士駐留、武器保管、軍艦接岸等)を今後30年間にわたり中国に付与するという内容だったと報道していた。
同首相は、同国南西部沿岸都市シアヌークビルでの道路建設セレモニーに出席した際、同国憲法によって、他国が同国領土内に基地を開設することは禁じられていると強調した。
更に同首相は、“どこの国の軍艦も受け入れ可能の態勢を取っている”とした上で、“新型コロナウィルス(COVID-19)の脅威がなくなれば、共同軍事訓練を行う用意がある”とも付言した。
ただ、カンボジアは2017年、米国に対して共同軍事訓練の中止を通知し、以降一切実施していない。
しかし、COVID-19感染真っただ中の3月に、中国と共同軍事訓練を実施している。
多くの軍事評論家は、中国にとって、カンボジア軍港の独占使用権を得れば、南シナ海領有権問題に関わり、長い間米国の庇護の下にいる東南アジア諸国連合の一部加盟国に対して、圧倒的優位に立って圧力がかけられると考えているとみている。
カンボジアにとって中国は最大の投資元であり、かつ最も密接な政治的パートナーである。
従って、これに応える形で、これまでも西側諸国からの中国人権・政治的自由度非難の声も無視して、様々な機会に中国支持を表明している。
同日付カンボジア『カンボジア・デイリィ』紙:「カンボジア首脳、中国に軍港使用権付与とのニュースを否定」
フン・セン首相は、米政府が遺憾と表明したと報道されている、中国にリアム軍港使用権を付与したという事実はないと強調した。
更に同首相は、例えば米軍含めて、どの国も希望すれば同港接岸を歓迎するとも付言した。
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