新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題で大打撃を受けた航空会社は、With-COVIDが定着した欧米を中心に著しい回復を遂げつつあり、2023年にはCOVID-19前の収益が期待できるという。しかし、With-COVIDへの舵切りに慎重な日中を中心とするアジアの航空会社は大きく立ち遅れている模様である。
12月6日付
『ロイター通信』は、「世界の航空会社の2023年収益が元に戻りつつあるも、空港との使用料交渉が難航」と題して、欧米を中心にコロナ禍に喘いだ航空会社が、来年以降の収益力回復が力強いとするも、一方で使用料の大幅上昇を通知してきた空港との交渉に難航していると報じている。
世界の航空会社は、2019年末に発生・拡大したCOVID-19感染問題で疲弊していたが、漸く来年にはCOVID-19感染前のレベルまで収益の回復が期待できるとする。
すなわち、総計40億人以上の搭乗客が見込まれ、47億ドル(約6,440億円)の純利益が期待できる、とする。
但し、利用する空港が、航空会社のみならず利用客にも大幅な空港使用料値上げを通知してきていることから、収益を押し下げる可能性が高いという。
国際航空運送協会(IATA、1945年設立、注1後記)のウィリー・ウォルシュ会長(61歳、アイルランド出身、元ブリティッシュエアウェイズ社長、2021年就任)が12月6日に表明したもので、“各国政府が課した様々な行動制限措置に伴う資金的及び経済的損失を考えた場合、大変偉大な復活劇だ”とコメントした。
ただ、同会長は、来年も多くの航空会社が、規制、コスト増、一貫しない政府政策に翻弄されることになると語った。
その上で同会長は、空港会社側と長い間論争が続いている空港使用料問題も逆風となると付言した。
すなわち同会長は、“航空業界は確かに復活しつつあるが、依然脆弱だ”とした上で、“航空業界の利幅は然程大きくなく、空港会社側が要求してきている航空会社及び乗客に課す空港使用料の甚大な値上げにはとても耐えられない”と強調している。
一方、国際空港評議会(ACI、1991年設立、注2後記)欧州のオリビエール・ヤンコベック事務総長(元アリタリア航空勤務、2006年就任)は、“乗客は航空会社による膨大な値上げに苦しんでいる”とし、“航空産業を航空会社グループが実質支配している環境から、彼らの航空運賃値上げがインフレ圧力を増長している”と批判した。
その上で同事務総長は、“確かに空港使用料の値上げもインフレ圧力となっていることは認めるが、果たしてどちらがより大きい脅威となっているかだ”とも言及している。
これに対して、ウォルシュ会長は、エネルギー価格の高騰で航空運賃を止む無く値上げしているとした上で、グリーン燃料(脱炭素)に転換したら更に運賃を値上げせざるを得なくなる、とコメントしている。
なお、IATAの発表によると、米国主導によって世界の航空会社の就航便数は2024年までには2019年のCOVID-19問題発生以前のレベルまで回復すると見込んでいるとしているが、アジア太平洋地域は“非常に立ち遅れている”としている。
IATAのマリー・オーウェンズ主任エコノミスト(2022年就任)は、同地域の直近の見通しは“下落傾向が強い”とした上で、特に中国次第で“更に不確定”となる見込みだと警鐘を鳴らしている。
すなわち、もし中国がCOVID-19に伴う都市封鎖や行動制限を緩和しない限り、航空会社の収益性は悪化する上、2023年に複数の国で景気後退が起こるリスクがあり、更に状況は暗転するとしている。
また、ウォルシュ会長は、航空機メーカーのジェット機納期の大幅遅延についても不満を訴えている。
『ロイター通信』は12月2日、エアバス(1970年設立のEU内4ヵ国の合弁企業)の12月におけるジェット機納期状況は過去最悪レベルに近い遅延となっている、と報じている。
同日付『AFP通信』は、「IATA、航空会社は2023年に黒字化と発表」と詳報している。
IATAの発表によると、世界の航空会社の収益は2023年には黒字化し、同年の純利益は47億ドルが見込まれるという。
但し、このレベルはCOVID-19問題発生前の2019年実績の264億ドル(約3兆6,170億円)に比べて依然遥かに低い。
また、利用客もCOVID-19前の85.5%までしか回復しないとみている。
IATAのウォルシュ会長は、一部の航空会社は“十分な収益”が確保でき、燃料の脱炭素化に投資できる程回復してきていると語った。
しかし、多くの会社は依然、“煩わしい規制、コスト増、一貫しない政府政策、不十分なインフラやバリューチェーン(注3後記)に苦しめられている”と付言した。
(注1)IATA:世界の航空会社で構成される業界団体。117ヵ国290社の、主に大手航空会社が加盟し、世界の定期運航の有効座席キロ数のおよそ82%を加盟各社が占めている。IATAは航空会社の活動を支援し、業界の方針や統一規準制定に寄与してきた。本社の登記地はカナダ・モントリオールで、本社機構はスイス・ジュネーブに置いている。
(注2)ACI:1991年に設立された、空港の管理者の団体。177の国や地域にある1957の空港を管理運営する641の団体が加盟(ACI欧州は、45ヵ国の500余りの空港会社が加盟)。本部はカナダのモントリオール。安全で効率的な航空技術・運航システムの開発、空港経営の効率化、騒音など環境問題の改善などについて情報交換し国際民間航空機関や各国政府への働きかけをしている。また、各空港の旅客数、貨物取扱量などの統計やサービス状況などについて調査・集計して世界の空港ランキングを公表している。
(注3)バリューチェーン:原材料や部品の調達活動、商品製造や商品加工、出荷配送、マーケティング、顧客への販売、アフターサービスといった一連の事業活動を、個々の工程の集合体ではなく、価値(バリュー)の連鎖(チェーン)として捉える考え方。
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総務省の発表によると、10月の世帯消費支出が前年同月比+1.2%となり5ヵ月連続増となったという。しかし、賃金アップ率を更に上回る物価上昇傾向より、再び消費支出の減少が懸念されると欧米メディアが報じている。
12月6日付
『ロイター通信』は、「日本の10月世帯消費支出が5ヵ月連続の上昇」と題して、総務省発表に基づき、日本の消費支出事情に言及しているが、長らく続いた実質賃金横ばい状況から、今後期待される賃金アップ以上の物価上昇懸念より、再び消費支出の落ち込みが予想されると報じている。
総務省が12月6日に公表したデータによると、日本の10月世帯消費支出が前年同月比+1.2%となり、5ヵ月連続で上昇する結果となっているという。
これは、新型コロナウィルス(COVID-19)新規感染者減少傾向に伴い、より多くの人々が買い物や外食に繰り出し始めたためとみられる。
日本の経済活動の半分余りを占める個人消費支出の増加は、経済成長にとって良い材料ではあるが、円安と共に悪化するインフレーションの結果、賃金アップの見込みが弱々しくなるとみられることから、先行きの消費支出増見込みは余り芳しくない。
実際問題、12月6日にリリースされた厚生労働省のデータによると、10月の実質賃金は、絶え間ないインフレーションの影響からか、2015年6月以来最大となる▼2.6%もの落ち込みとなっている。
SMBC日興証券(1918年前身設立)の宮前耕也シニアエコノミスト(43歳)は、“(コロナ禍の回復に伴い)社会生活や経済活動が正常に戻りつつあることから、個人消費は年内一杯底堅いとみられるが、物価高騰が消費支出の伸びに少なからぬ影響を及ぼす”とコメントした。
その上で、“来年春の定期昇給時期に基本給の上昇が幾分期待されるものの、物価上昇率が2%程と予想されており、賃金アップよりインフレーションの方が先行しているため、個人消費に悪影響を及ぼすことになろう”と付言している。
ただ、12月6日付『共同通信』によれば、岸田文雄首相(65歳、2021年就任)は、来春の年間基本給交渉の結果に伴って日本の経済成長の好循環に繋がると信じると発言したとする。
しかし、10月のコア消費者物価(天候等によって価格変動が激しい生鮮食品を除いた物価)は、折からの円安に伴う輸入品価格高騰に伴い、前年同月比+3.6%増と直近40年間で最大となっている。
そのため11月の経済指標は、食品や光熱費の絶え間ない上昇やCOVID-19感染再拡大の影響で軒並み悪化している。
特に、消費者態度指数(注後記)は、2020年6月以来の最低値まで落ち込んでいる。
一方、内閣府の11月15日公表データによると、折からのインフレーションや世界経済の鈍化の影響から、第3四半期(7~9月期)の経済成長率は▼0.3%(年率▼1.2%)と1年振りのマイナス成長となっている。
ただ、『ロイター通信』が先月下旬に実施した調査の結果、第4四半期(10~12月期)の経済成長率は年率+3.1%に立ち直ると経済アナリストはみている。
(注)消費者態度指数:近い将来、物やサービスを購入する気があるかどうかなどの消費者心理を示す指標。指数が大きいほど、いわゆる財布の紐が緩いことを表す。1977年に当時の経済企画庁が初めて算出を行い、その後、内閣府が消費動向調査の一環として毎月発表。2001年から政府の景気動向指数の先行指標にも採用。消費者心理を表す指標は、ミシガン大学のサーベイ・リサーチセンターが1960年代から実施しているミシガン大学消費者信頼感指数や、民間経済研究所の全米産業審議会が1960年代から発表している消費者信頼感指数が著名で、米国の景気や消費動向を知る上で重要な指標として市場関係者らに注目されている。
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