主要7ヵ国(G-7)は、欧州連合(EU)他と連携して、対ロシア制裁の一環で、昨年12月初め以降、ロシア産原油の輸出価格に「プライスキャップ制度(注後記)」を適用する旨決定している。そうした中、G-7の一員である日本が、同制度に反して、設定価格より高い値段でロシア産原油を購入するという例外措置を適用している。
4月4日付
『デイリィ・ワイア』、
『ブライトバート』オンラインニュース等保守系メディアが、
『ウォールストリート・ジャーナル』の特報記事を引用して、日本が欧米諸国間で制定した「プライスキャップ制度」を適用せず、ロシア産原油を高値買いしていると一斉に報じている。
西側諸国は昨年12月、EU、G-7を中心として、ウクライナ侵攻を止めないロシアを制裁する一環で、ロシア産原油の輸出価格に「プライスキャップ制度」を適用する旨決定している。
同価格上限は、1バレル当たり60ドル(約8千円)で、世界原油市場を混乱させないため、ロシア産原油の供給継続は認めるものの、ロシアの収入を制限するため上限価格を設定したものである。
しかし、この程判明したところによると、G-7の一員である日本が、ロシア極東のサハリン-2産原油を、上記上限価格を上回る値段で購入している。
『ウォールストリート・ジャーナル』4月2日報道によると、今年1、2月に日本が輸入したロシア産原油価格が、プライスキャップ制度上の上限価格を上回っていたという。
経済産業省高官が同紙に語ったところによると、大量の原油を輸入に頼っている日本として、日本企業(三菱商事及び三井物産)が関わっているサハリン-2産の原油及び天然ガスは重要な供給元で、“日本のエネルギー事情に大きな支障を与えないよう注意深く対応する必要がある”と言及している。
日本が依拠するロシア産天然ガスは全体の10分の1程度であるが、一方、ドイツは、ロシアのウクライナ侵攻前でロシア産天然ガス供給に全体の半分以上を頼っていたものの、ウクライナ支援方針の下、他ソースへの転換という大きな舵切りを断行している。
これは、日本が以前から、エネルギー政策含めてロシアとの連携を継続していた背景があるためと考えられ、このためもあってか、G-7が際限ないウクライナ支援策を打ち出す中で、日本の態度が見劣りしてみえる。
これに対して、松野博一内閣官房長官(60歳、2021年就任)は、“ロシアによるウクライナ軍事侵攻を一切認めないという対応に変わりはない”とし、“ロシアに侵攻を止めさせるべく、対ロシア制裁も厳しく行っている”と強調した。
また、岸田文雄首相(65歳、2021年就任)も、5月に広島で開催されるG-7サミットにおいて、ウクライナ支援を力強く宣言する意向を示している。
(注)プライスキャップ制度:EU、G-7、オーストラリアが制定した制度で、世界市場へのロシア産原油の供給を維持すると同時に、ロシアが石油輸出から得る収益を削減することを目的としたもの。2022年12月5日から発効。
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米中央情報局(CIA、1947年設立)トップがこの程、ロシアのウクライナ軍事侵攻で反って西側諸国の結束という望ましからぬ結果がもたらされているという現実から、中国指導部が台湾への軍事侵攻について懐疑的になりつつある、とコメントした。
2月27日付
『AP通信』は、「CIA長官、中国が台湾軍事侵攻に懐疑的なっている可能性があるとコメント」と題して、ウィリアム・バーンズ長官(66歳、2021年就任)のコメントを詳報している。
CIAのウィリアム・バーンズ長官はこの程、習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)がこれまで、台湾統一のために“2027年までに軍事侵攻”できる態勢整備を中国軍に指示してきていたが、ロシアによるウクライナ軍事侵攻における苦戦に鑑み、果たして台湾軍事侵攻を決断して良いものか懐疑的になっている可能性があると表明した。
同長官が、2月26日の『CBS』報道番組「フェイス・ザ・ネーション(1954年放送開始)」に出演してコメントしたものだが、仮に軍事衝突が避けられるとしても、米国としては習国家主席が台湾併合を切望していることについて“常に深刻に”捉えておく必要があると説いた。
同長官は、“習国家主席が、2027年までに台湾軍事侵攻できるよう態勢を整えるべく中国軍に指示していることは公表されていることだが、それは同国家主席が決断しているということを意味するものではない”とも付言した。
その上で同長官は、“CIAとしての判断であるが、習国家主席は台湾軍事侵攻を果たせるかどうか疑心暗鬼になっていると考えられる”と強調した。
中国では、1949年に中国共産党が国民党との内戦に勝利し、中国本土を統一した。
爾来、国民党は台湾に逃れ、独自の中華民国を立ち上げていた。
しかし、1979年、米国は当時のジミー・カーター大統領(当時55歳、1977~1981年在任)が台湾と決別し、中国と国交を樹立することを決定した。
ただ、同時に「台湾関係法(注後記)」を制定し、民間はもとより、非公式での米政府関係者の交流等を継続することとしている。
現在では、中国による覇権主義の台頭を牽制する目的もあって、米歴代政権が中国牽制のアジア政策を展開してきており、その一環で台湾への政府要人訪問や武器提供が活発化してきている。
ジョー・バイデン大統領(80歳、2021年就任)は昨年、もし中国が台湾軍事侵攻をしてきたら、米国は台湾を擁護すると表明していたが、ホワイトハウスとしては、台湾問題は平和裏に解決されることを望む、という従来方針に変更がない旨追加コメントしている。
なお、バーンズ長官はインタビューの中で、ウラジーミル・プーチン大統領(70歳、2000年就任)のウクライナ軍事侵攻に対抗して、米国及び欧州が一丸となってウクライナ支援に動いている事態を目の当たりにして、中国自身が台湾軍事侵攻に踏み切った場合の反発を懸念せざるを得なくなっていると考えられる、と強調した。
同日付『ウォールストリート・ジャーナル』紙は、「CIA長官、中国が台湾侵攻能力に疑念を募らせている可能性があると表明」と報じている。
バーンズ長官は2月26日、ロシアがここ1年にわたりウクライナ領土の掌握や維持に苦戦していることを受けて、中国の習国家主席は、中国軍が2020年代に台湾侵攻で成果を上げられるかについて疑念を募らせているだろう、と述べた。
同長官は、“CIAの判断として、習国家主席や軍指導部が、現時点で侵略を達成できるかについて、少なくとも疑念を抱えていると思う”とした上で、プーチン大統領がウクライナで経験していることを目にして、かかる疑問が更に高まっているだろう、と言及した。
ただ、同長官は、米政府が中国による台湾侵攻の脅威を深刻に受け止めている、とも付言した。
なお、米情報当局や国防当局関係者が、習国家主席は2027年までには侵略の準備を整えようとしているとみているが、同長官自身は、これは確定したものではないと強調している。
(注)台湾関係法:台湾の安全保障のための規定を含む米国内法。カーター政権による台湾との米華相互防衛条約の終了に伴って1979年に制定されたもので、台湾を防衛するための軍事行動の選択肢を合衆国大統領に認める。但し、米軍の介入は義務ではなくオプションであるため、同法はアメリカによる台湾の防衛を保障するものではない。
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