南シナ海などの海洋活動においても米軍とつばぜり合いをしている中国人民解放軍(PLA)は、習近平(シー・チンピン)指導部の下、統率力の強化、最新鋭装備の開発に注力している。その一環でPLAが、活きの良い若人をリクルートすべく、ポップなミュージックビデオを作成・公開していると話題になっている。
5月4日付米
『ワシントン・ポスト』紙の報道記事「中国軍、より多くの若人採用のため、銃器やヒップホップミュージックを駆使」:
「・PLAは、より多くの若人が興味を引くよう、先週から中国新聞社ウェブサイト上に奇抜な勧誘ビデオを公開。
・内容は、ミサイル攻撃、射撃、戦闘機による攻撃、捕虜と思しき拉致被害者の救出等の画面がラップ調の音楽とともに放映。
・中国国営メディアは、PLA初のヒップホップビデオだと誇らしげに宣伝。
・しかし、近隣諸国にとっては、若人に対して戦争参加、敵の殲滅といった好戦を奨励する内容だとして警戒感。
・なおPLAのリクルート用ミュージックビデオは初めてではなく、2014年には当時流行の“リトルアップル”という安っぽいダンス・ミュージックを流し、それに合わせてPLAの兵隊が一斉に踊るという勧誘ビデオを公開。
・長い間の一人っ子政策や、経済発展に伴い、若い世代がPLAに興味を抱かなくなったことがかかるビデオ作成の背景。
・中国国防部の呉(ウー)報道官は、同ビデオ紹介の記者会見で、若人も中国の安全を守る責任があると言明。」
同日付米
『ハフィントン・ポスト』オンラインニュースの報道記事「PLA、若人リクルート用のおしゃれなミュージックビデオを公開」:
「・PLAが公式ウェブサイトに4月28日に公開したのは、“戦いの宣告”と題した、若人向けPRビデオ。
・ビデオには、空母“遼寧(リャオニン)”や瀋陽(シェンヤン)J-11戦闘機などPLAの最新鋭兵器を映し出し、若人に領土を守る大切さ等をアピール。
・ビデオ公開後、15万3千人が閲覧したというが、中国最大のソーシャルメディア“微博(ウェイボ―)”ユーザーは賛否両論。
・なお中国は2週間前にも、政府関係の若い女性職員向けに漫画のポスターで、ハンサムな外国人男性はだいたいがスパイなので近付かないよう啓蒙活動。」
同日付英
『ザ・ガーディアン』紙の報道記事「PLA、若人向けに“殺せ、殺せ、殺せ”と叫ぶリクルート用ビデオ公開」:
「・3分間のビデオでは、若人受けを狙ってかラップ調のロックミュージックに乗せて、空母、戦車、戦闘機などの実射を公開。
・また、“殺せ、殺せ、殺せとの命令が下されるのを待つのみ”、とのビデオゲームで使われたような過激な歌詞を用いて、“戦争はすぐにも始まる”とか“(戦いの)準備はできているか?”とアピール。
・PLAは、従来の本土防衛や台湾侵攻作戦の他、目下は東シナ海域の警戒飛行や、アデン湾(注1後記)での海賊取り締まり、更には南シナ海での海洋活動に注力。」
同日付ロシア
『スプートニク』国際オンラインニュースの報道記事「PLA、初のヒップホップ調のリクルート用ビデオを公開」:
「・ヒップホップ調のビデオは、マイケル・ベイ監督(注2後記)映画の予告編かと思われる出来映え。
・世界最大230万人の兵力(昨年9月、習主席は30万人の削減発表)を誇るPLAだが、無関心な若者が増えたこともあり、若人の求人は焦眉の急。」
5月5日付中国
『チャイナ・デイリィ』(
『新華社通信』記事引用)の報道記事「音楽、ビデオゲームで軍人募集」:
「・中国政府中央常務委員会傘下の共産党宣伝部及び中央軍事委員会傘下の政治・国防活動部は連名で5月5日、このミュージックビデオによる軍人募集キャンペーンを、高学歴者や大学生向けに9月まで継続と発表。
・媒体は、ウェブサイト、テレビなどでの放映の他、バス・地下鉄などの公共交通機関にも掲示。
・メディアにも軍人募集への協力要請がされていて、また、多くの軍関係部署に兵舎等の開放日を設けて若人を呼び寄せ、愛国心の大切さや軍隊への理解度向上が求められている。」
PLAの軍人募集ビデオを観て、1969年末発売後、放送禁止歌に指定されてしまった、フォークソング“自衛隊に入ろう”を思い出した。現在、同曲は放送禁止歌となっていないが、かの国では、軍部が率先してヒップホップ調のミュージックビデオを監修して若者受けを狙うとは、お国柄が違うのか、それとも時代が変わったのか、困惑するばかりである。
(注1)アデン湾:インド洋の北西側にあり、北はアラビア半島、南はアフリカ大陸のソマリア半島に挟まれた東西に細長い湾。湾の西側には紅海が広がっていて、イエメン、ジブチ、ソマリアと接している。
(注2)マイケル・ベイ監督:ロス・アンゼルス出身の映画監督・プロデューサー。バッドボーイズ、アルマゲドン、トランスフォーマーなどアクション映画のヒット作を手掛ける。
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安倍連立政権が衆院選で圧勝し、安倍首相の再来年までの長期政権が確実になった。今年北京で開催されたAPECでは、2年5か月ぶりに日中首脳会談が行われ、両首脳はホットラインや海上連絡メカニズムの設置で合意し、その後の日中関係にこの会談がどのような影響をもたらすのかが注目されていた。しかしここにきて、中国が尖閣諸島の約300キロ北西にある浙江省の蘭芝島で、最新鋭のレーダーやヘリポートも完備する軍事拠点の整備に着手したことが中国が出した報告書から判明(共同通信)、さらには中国海警2隻が尖閣周辺海域に侵入(今年に入ってから31回目)するなど、日中首脳会談の成果があったとするには疑わしい状況になってきている。加えて来年中国は、ロシアと共同で「世界反ファシズム戦争と中国人民抗日戦争勝利70周年」の記念イベントを開催するなど、日中関係が改善するどころか、「今後中国の日本に対する強硬姿勢が強まるのではないか」との見方も出てきており、日中関係がどのような展開を見せるのかまったく不透明な状況である。各国は今後の日中関係の行方について、以下のように報じた。
12月23日付
『ブルームバーグ通信』(米国)は、「日中の係争中の島付近の島に中国が軍事拠点を構築していることがわかった」と報じ、この拠点について「(島は)釣魚島に圧倒的に近く戦略的にも重要な場所にあり、東シナ海防衛識別圏のサポートも行える。まさに中国の沿岸防衛ラインにとって主要な海軍のポイントであると同時に、中国の既存の軍事的プレゼンスをさらに強化するものだ」との中国海軍研究所の李上級研究員のコメントを紹介した。
12月23日付
『プレスTV』(英国)は、「(尖閣諸島近くに中国が)軍事施設を構築するという中国の報告書は、日中関係の緊張緩和のために、安倍晋三首相と習近平国家主席が会談を行った後に発表された」と報じ、日中首脳会談の成果について疑問視している。
12月23日付
『ハンギョレ』(韓国)は、「中国が日本との領土紛争中の尖閣諸島(釣魚島)に近い中国領海内の島に、軍事施設を拡大していることが中国の報告書から明らかになった」と報じ、「これに対し、日本も尖閣諸島周辺の戦力強化のための措置を行っている」と伝えた。
12月22日付
『中国新聞網』(中国)は、「中国海警が今年に入って釣魚島領海に入ったのは、今回を含めて33回目(昨年は50回)」と報じ、「(衆院選挙の安倍政権圧勝による)日本の右傾化が中日間の海上での対立を深めており、中国周辺で海洋紛争が激化したり、局地的海上衝突につながる危険性がある」と報じた。
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