中国の通信大手ファーウェイは、中国国内の個人に関する情報収集において中国政府と積極的に提携していないと一貫して主張してきたが、同社が監視技術を中国当局に販売していたことを裏付ける内部メモを入手したとして米ワシントン・ポスト紙が報道した。
仏
『BFMTV』によると、ワシントン・ポスト紙が伝えた内部文書は、中国国内の特定の人口を追跡する上で、同社と中国政府とのつながりを明らかにしているという。ファーウェイは、「機密事項」とされた3千ページを超えるパワーポイントのプレゼンテーション資料の中で、政府が個人をよりよく追跡、特定することを目的とした最先端技術について紹介している。資料は、短期間ファーウェイのウェブサイト上で公開されたが、すぐに削除されたという。
この資料は、一般的な音声認識や顔認識の処理について紹介しているだけでなく、特定の反体制の政治家の監視、「思想的再教育」の管理、「労働キャンプの物流最適化」についても紹介している。こうした方法は、世界の多くの国が公認しているイスラム系少数民族ウイグル人に対する中国政府の弾圧行動を彷彿とさせる。また、この資料の中で強調されている技術の1つは、新疆ウイグル自治区を対象としたものとなっている。そこでウイグル人を組織的に識別するために使用される機器とプロセスが説明されている。
ワシントン・ポストが公開した資料によると、こうした監視技術は2017年から現地で活用されているという。この情報は、2020年に、ファーウェイが顔認識技術を通じて中国政府がウイグル族を特定することに協力しているとして非難されていたことと一致する。当時、ワシントン・ポスト紙に掲載された記事で、監視カメラがウイグル人を確認すると、すぐに中国の警察に通知がいく「ウイグル人アラート」が存在することが暴露された。この問題で、ファーウェイの幹部が一人辞任することになった。また、2017年は、中国が数十万人のウイグル人の収容所への抑留を開始した年とも重なる。
米国営放送『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』によると、VOAに提供された声明の中で、ファーウェイの広報担当者は、「ファーウェイはワシントン・ポストの報道で言及されたプロジェクトについて何も把握していない。ファーウェイは他の大手サービスプロバイダーと同様に、一般的な業界基準に準拠したクラウドプラットフォームサービスを提供している。特定のグループを対象としたシステムの開発、販売は行っておらず、パートナーには適用されるすべての法律、規制、ビジネス倫理の遵守を要求している。プライバシー保護は当社の最優先事項であり、当社の事業のすべてにおいて、事業を行う国や地域で適用されるすべての法律と規制を遵守することを求めている。」と反論している。
しかし、ワシントン・ポスト紙は、パワーポイントの資料にファーウェイのロゴが表示されており、いくつかのページには「Huawei Technologies Co. Ltd.」の著作権マークが表記されていると指摘している。
専門家たちは、ファーウェイと中国政府のつながりは、驚くべきことではないと述べている。戦略・国際問題研究所のジム・ルイス氏は、「ファーウェイは当初から中国治安当局と密接な関係にあった」と語っている。ルイス氏によると、ファーウェイに対する警告はジョージ・W・ブッシュ大統領時代からアメリカ政府関係者が指摘していたが、中国が世界の舞台でより積極的に自己主張するようになったここ数年までは、真剣に受け止められていなかったという。
ファーウェイの主張とは裏腹に、米国当局は、同社が中国の国家安全保障機関と密接な関係を持ち、同社の電気通信製品が中国の競合相手の情報収集や活動妨害に利用される可能性があると考えてきた。また、政府関係者は、国家安全保障に重要とみなされるデータの収集において、民間企業に政府機関への協力を義務付ける中国の法律を指摘してきた。
2019年から2020年にかけて、米国はファーウェイに対してさまざまな面で積極的に動き始めた。トランプ政権は、5Gの展開に必要なネットワーク機器を販売する同社の取り組みに対抗した。トランプ政権は、ファーウェイに自国の通信インフラの重要な部分を供給させている同盟国との情報共有を停止することなどを宣言し、ファーウェイはセキュリティリスクが高すぎると警告の声を上げてきた。その結果、多くの国が5Gシステムから同社の技術を禁止し、英国を含む他の国も、すでに設置されていたファーウェイの機器を撤去するという費用の掛かるプロセスを開始した。
閉じる
12月13日付
『ワシントン・ポスト』紙:「バイデン政権、妥協案としての北京オリンピック“外交ボイコット”を選択」
<オリンピック・ボイコットの歴史>
1956年(メルボルン大会)では、当時のソ連によるハンガリー侵攻に抗議して、スペイン・スイス・オランダが参加を見合わせたが、効果らしい効果はほとんどみられなかった。
1968年(メキシコシティ大会)では、当時アパルトヘイト政策を取っていた南アフリカの参加に抗議して、多くのアフリカ諸国に続いてソ連及び共産圏諸国も不参加を表明したことから、国際オリンピック委員会(IOC、1894年設立)が当初決議を翻して同国の参加を認めなかった。...
全部読む
12月13日付
『ワシントン・ポスト』紙:「バイデン政権、妥協案としての北京オリンピック“外交ボイコット”を選択」
<オリンピック・ボイコットの歴史>
1956年(メルボルン大会)では、当時のソ連によるハンガリー侵攻に抗議して、スペイン・スイス・オランダが参加を見合わせたが、効果らしい効果はほとんどみられなかった。
1968年(メキシコシティ大会)では、当時アパルトヘイト政策を取っていた南アフリカの参加に抗議して、多くのアフリカ諸国に続いてソ連及び共産圏諸国も不参加を表明したことから、国際オリンピック委員会(IOC、1894年設立)が当初決議を翻して同国の参加を認めなかった。
1980年(モスクワ大会)では、ジミー・カーター第39代大統領(当時56歳、1977~1981年在任)がソ連のアフガニスタン侵攻を非難してフル・ボイコットを決定したが、欧州の米同盟国のほとんどが追随しなかったこともあって不発。米国選手団にとっては、獲得できたであろう金・銀・銅メダルをソ連選手団に奪われてしまったことで大きな損失となった。
<今回の“外交ボイコット”の効果>
以前のフル・ボイコットと違って、選手団の参加は認められることから、彼らの競争機会の逸失とはならず、また、米国スポーツ関係者・メディア・スポンサー企業・視聴者等にとっても損失とはならない。
英国デモンフォート大レスター校(1969年設立の公立大学)国際スポーツ史・文化センターのヘザー・ディッチャー教授は『ワシントン・ポスト』紙のインタビューに答えて、外交ボイコットはフル・ボイコットと比べて変革をもたらすことは難しいが、選手団を犠牲にすることなく、中国の深刻な人権蹂躙問題への抗議及び国際社会への周知という成果は得られるとコメントした。
また、ノートルダム大(1842年設立、インディアナ州在の私立大学)のジョン・ソアーズ教授も、“中国政府よりも米国選手団を傷つけることになるフル・ボイコットではなく、外交ボイコットを選択したことで、同国政府への外交的非難の声を届けることができる”とした上で、“これまで人権問題を話題にしようとさえしなかった政府に対して、少なくとも人権問題を検討するスタートとなることが期待される”と評価している。
一方、ミズーリ大セントルイス校(1963年設立の公立大学)中国スポーツ・オリンピック研究専門のスーザン・ブローネル人類学部教授は先週、『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』のインタビューに答えて、“中国がしばしば呼称している「アングロサクソン族」の国家の大勢、例えば100ヵ国近くが外交ボイコットに追随しない限り、ほとんど効果はない”とコメントしている。
米国の宣言から1週間が経過した現在、英国・カナダ・豪州・NZ・コソボ、また、米国に先立って宣言したリトアニアが、外交ボイコットを表明しているだけである。
そして、『VOA』報道では、冬季大会の強豪国のノルウェーはもとより、北大西洋条約機構(NATO、1949年設立)加盟国のフランス・イタリアも、外交ボイコットは行わないと表明しているという。
更に、東欧のポーランド・ハンガリーも、人権問題を余り重要視していないばかりか、経済連携パートナーとしての中国への支持を表明していることから、外交ボイコットなど全く無視する状況である。
これに対して、世界ウィグル会議(WUC、注後記)所属のウィグル族人権活動家ツムレテイ・アーキン氏は、当初バイデン政権にフル・ボイコットを望んでいたものの、“外交ボイコット政策であっても、ウィグル族人権問題を国際社会の懸案事項のトップに祭り上げられたことを以て、大きな成果だ”とコメントした。
何故なら、中国は以前、ウィグル族の強制収容所など存在しないと言っていたのに、米政府等が問題提起してくれたことで、中国政府に“教育センター”を設けていると認める発言を引き出し、更に、強制収容所に多くのウィグル族を閉じ込めているとの批判に対しては、2019年になって“全員教育センターを卒業”したと、言い訳をしなければならないように追い込んできているからである。
従って、同氏としては、“今回の外交ボイコット提言によって、事態が止まることなく更に改善に向けて続いていくことが期待される”と付言した。
また、フロリダ州の『バプティスト・ニュース・グローバル』(2014年刊行)は社説で、“少なからぬ宗教団体及び人権活動家グループが、バイデン政権の外交ボイコット宣言を称賛している”と言及した。
更に、共和党重鎮で反バイデン政権の急先鋒であるテッド・クルーズ上院議員(50歳、テキサス州選出)までもが、“何年も辛い練習に耐えてきた若いアスリート達から、オリンピックで成果を見せるという機会を奪うべきではないので、(一部の共和党議員が主張するフル・ボイコットではなく)外交ボイコット政策を選択したことを評価する”と表明する程である。
(注)WUC:世界各国のウィグル人組織を統括する上部機関で、ドイツ・ミュンヘンが拠点。2004年設立。東トルキスタン及び海外のウィグル人の利害を代表する唯一の国際機関を標榜し、平和的、非暴力的および民主的手段によるウィグル人の政治的地位確立を主張。一方、中国政府は「テロ組織と関わり、中国の分裂を狙っている」と批判。加盟組織は20を超え、在外ウィグル人組織では最大の運動組織。
閉じる